さよなら採用ビジネス 第116回「大企業と小さなブルーオーシャン」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第115回「誰が得する?このスパイラル」

 第116回「大企業と小さなブルーオーシャン」 


安田

三菱が出した「トーストが1枚しか焼けないトースター」知ってますか?なんと価格が3万円で即完売になったらしいです。

石塚

「ブレッドオーブン」ってやつですよね?

安田

はい。元をたどればバルミューダさんが10万円のトースターを売り出して。それが爆発的に売れて。

石塚

そこを狙ったんでしょうね。

安田

でも言ったら二番煎じみたいなものですよ。三菱ほどの大会社が小さな会社のまねをして。こんなことやってて未来はあるんですか。

石塚

僕は安田さんとは逆の意見ですね。

安田

へえ。そうですか。

石塚

こういう小さなマーケットを大企業がやるって、すごく怖いなと思う。

安田

それはどういう意味で?

石塚

つまり、トースト1枚しか焼けない「高額トースター」の市場は、あるにはあるわけですよ。

安田

あったということですね。

石塚

僕と安田さんで2時間ぐらい真剣に話せば、そういう小さなブルーオーシャンっていっぱい出てきますよね。

安田

アイデアはいくらでも出せそうですけど。

石塚

大企業はこれまでそういう小さなマーケットは取らず、大量生産・大量販売で大きなマーケットだけを狙ってきたわけです。

安田

そうですよね。

石塚

けどもし、小さな商品開発チームをいっぱい用意して「バルミューダ2,000社分ぐらいの会社をつくるぞ」となったら。これはこれで恐ろしいし、大企業は強いと思う。

安田

それは中小企業にとって恐ろしいってことですか?

石塚

そうです。もし大企業が「小さなマーケットを取ること」に本気でかじを切ったら。恐ろしいなと思います。

安田

確かにそうですね。小さなブルーオーシャンをオススメする最大の理由は、大きな会社が入ってこないということですから。

石塚

でも小さなブルーオーシャンが、やってみたら意外と大きくなる可能性もあるわけじゃないですか。

安田

そうですね。たぶんバルミューダさんもここまで売れるとは思ってなかったと思う。こんなに売れちゃったことで、大企業を呼び込んでしまった。

石塚

売れるとなったら大手は徹底してやってきますから。

安田

ダイソンが売れて「高級掃除機」も一気に増えましたもんね。

石塚

ひげそりもそうじゃないですか。ドイツの高いひげそりが流行して、日本メーカーが後追いして一気に市場をつくった。

安田

でもこんな小さなマーケットを取りにいくなんて。いままでの大手なら絶対やらなかったですよ。

石塚

家電メーカーって、大企業の中でも危機感の強い業界だから。ひょっとすると経営戦略や販売戦略を大胆に変えてくるかもしれないです。

安田

なるほど。

石塚

「スモールマーケットが満足する商品をつくれ」って指示が出るかもしれない。安田さんの言うとおり儲かるので。小さなブルーオーシャンって。

安田

でもあれだけ高給取りの社員を大量に抱えて、やっていけますか。小さなマーケットだけで。

石塚

安田さんが大会社の社長だったらどうですか。小さなマーケットを山ほど探して、大企業のメリットを生かしながら「小さなマーケットを取りまくれ」って言いませんか。

安田

その戦略はありですけどね。“個人店に見せかけたセントラルキッチン”みたいな。

石塚

そうです。それの一番のお手本がセブンイレブンだと思うんですよ。

安田

なるほど。

石塚

まあ山ほど商品出してきて。もちろん、当たるものもあれば、当たらないものもあるけど。ぜんぶ自前で。

安田

ということは、いままで小さな市場を独占してきた優良中小企業は、ちょっと脅威ってことですね。

石塚

やはり脅威にはなりますよ。

安田

とはいえ1億円の市場には入ってこないですよね。大企業は。

石塚

1億は小さすぎるかな。

安田

どれぐらいだと思いますか?小さいとはいえ大手が入ってくるとしたら。

石塚

リクルートには「100億ルール」というのがありましたよね。

安田

あった気がします。

石塚

ひとつの商品が100億以上にならないんだったら認めないっていう。

安田

はい。

石塚

マーケット100億がひとつの基準だとしたら、さらに何分の1までが可能なのか。固定費がかかるから、どうかなぁ。まあ10億20億だと絶対にペイしないはずなので。

安田

50億くらいですか?

石塚

50億のマーケットを取るのにこれだけ投入するのか。相当な数をやらなきゃいけないはずですから。

安田

ですよね。

石塚

う〜ん。総論では「小さなマーケットを取れ」っていうのは成り立つんだけど、これ、具体論で詰めていくと「大企業ゆえにできない」っていう結論になっちゃいもしますよね。

安田

ということは3万円のトースターは完売したけど、結局は「そんなに利益出なかったね」ってことで、撤退しちゃう可能性もあると。

石塚

だってこれ、たぶんパナソニックも東芝も追随してくるだろうから。

安田

追随しますか。

石塚

50と見てたトースターマーケットが「150になったぞ」と判断したら、やるでしょうね。

安田

大手がこぞって参加したら、また価格競争になりませんか?

石塚

どちらかというと、4万、5万と、高く出してくるんじゃないですか。

安田

なるほど。

石塚

4万で出してもパナソニックだったら売れるような気がする。

安田

どうでしょう。

石塚

炊飯器はそうなってますからね。

安田

確かに。じゃあ中小企業はさらにマイクロマーケットを狙うべき?

石塚

そうなりますね。ただ大手がここに入ってくるには発想の転換が不可欠ですけど。

安田

発想の転換?

石塚

「プロダクトアウト」という発想を否定しなきゃいけない。この最大の矛盾を乗り越えるには天才コンセプターが必要です。セブンイレブンでいう鈴木敏文さんみたいな。

安田

なるほど。

石塚

そのうち大企業から安田さんに打診がくるんじゃないですか?

安田

残念ながら、まったくその気配はないですね(笑)

石塚

それは残念です。僕は安田さんを「ビジネス探検家」だと思ってるんですけど。地図にない山とか地図にない湖を発見してくる人。

安田

まあ、それが仕事ですから。

石塚

この能力って、大企業の商品開発にこれから絶対必要だと思うんですけどね。

安田

私のような人間に大手の仕事は絶対無理ですよ。

石塚

そうですか?

安田

だって調整とか、バランスを考えるとか、まったく出来ませんよ。稟議や肩書きなんて無視しちゃいますから。

石塚

それは致命的ですよね!(爆笑)

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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