この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。
最近、闇営業が叩かれてるじゃないですか。
はい。吉本の。
あれは2つ問題がありまして。吉本に内緒で仕事取ったっていう問題と、裏社会との繋がりと。
反社会勢力ですね。
はい。反社会勢力。つまり違法なことをして稼いだ金から、ギャラをもらってしまったという。
問題はそれを知ってたかどうかですね。
知ってたら確かに大問題ですけど。知らなかったら防ぎようが無いですよね。飲食店だって違法な金での支払いを受け取っていたわけだし。
まあそうなんですけど。「報酬を受け取ってない」って最初に嘘をついちゃったんで。あれで信用をなくしてしまいました。
ところで労働法の観点からいくと吉本ってどうなんですか?
かなりグレーっぽく見えますね。
契約書も交わさずに口約束だけで雇うとか。そのくせ副業に関する締め付けが厳しい。労働法的に吉本的はオッケーなんですか?
給与形態がよく分からないんですよ。雇用なのか、業務契約なのか、外形上まったく見えない。
そもそも口頭の約束だけでも契約って成り立つんですか?
成り立つとは思いますけど。
でも、どっちが何言ったかなんて分からないですよ。
雇用する場合は、雇用契約書を明示しなきゃいけないんです。
じゃあ雇用してないからオッケーってことですか?
テレビ見てる感じだと、報酬が0になったり、何千万になったりするじゃないですか。
はい。
あれは雇用契約には見えないですね。
じゃあ業務委託ですか。仕事が入ったら、その分払うみたいな。
そうですね。
でも業務委託なのに「吉本を通さずに仕事取るな」って、これ法的にオッケーなんですか?
法的には、よくないと思います。雇用してるわけじゃないので。
雇用だったら副業は止めれるんですか?
雇用契約に書いてあれば止められます。
書面で説明して「副業しません」ってことに本人が納得すれば?
そうですね。ただその場合は労働契約なんで、1カ月何時間働くとか決まってるはずなんですよ。
仕事の有無にかかわらず?
それ以下しか仕事が与えられないんだったら、休業手当を払わなきゃいけない。
それは、いくらぐらいなんですか?
たとえば「仕事がないから家で待機してください」っていう場合は、その時間の6割は保証しなきゃいけないという法律があります。
絶対そんなの払ってませんよ。
仕事がある時だけ呼ぶってことは、その都度雇用契約が発生してる日雇いみたいな状態か、もしくは業務委託契約になります。
その場合は副業を禁止できない?
日雇いだとすれば、別に空いてる時間何やってるか自由じゃないですか。業務委託も全く同じだと思うんで、やっぱり何か違和感はありますよね。
でも吉本ってすごい力持ってるわけでしょ。
はい。
力に押されて「その条件で結構です」って言っちゃいそう。それは契約として成立するんですか。
当事者の間では有効だと思います。
すごく弱い立場の外注みたいなものですか?
そうでしょうね。
外注って1カ所に頼るっていうのが一番危ないんですけど。
交渉力がなくなりますからね。
でも芸能界って「暗黙の了解」みたいなのがあって、お互いに引き抜かないようにしてますよね。
そうみたいですね。
あれって談合的な違法行為にならないんですか。
一般社会では、今は許されないことですね。
そうですよね。理不尽な雇用契約とか、理不尽に副業を禁じるとか。最低賃金保証するならまだしも。そうじゃなかったらもう許されない時代ですよ。
吉本側に圧倒的な力があるから、これまでは収まって来たと思うんですけど。
これからは厳しいですよ。ネット民も黙ってないし。
今は宮迫さんの方が叩かれてますけどね。
ネット民は弱い方に味方しますからね。宮迫さんは大金稼いでるから、やっかみもあるんじゃないですか。
それもあるでしょうけど、やっぱり嘘をついたのが大きいですよ。
「もらってない」って言っちゃいましたもんね。
本来なら、宮迫さんではなく会社が責任取るべきところなんですよ。
ですよね。普通はトップが出て来て頭下げますよね。
問題をすり替えちゃいましたね。会社が謝んないといけないことを、全部トップ営業マンのせいにしたみたいな。
結局は社長も出てくる羽目になって、謝ることになりましたけど。
普通の会社だったら、責任をとってトップ交代とかでしょうね。
テレビって、なんだかんだ言ってもスポンサー次第じゃないですか。
ですね。
スポンサーがNOって言ったら、吉本の芸人は使えないですよ。
その前に上手に収めるんじゃないですか。騒ぎを。
社長に対するバッシングも収まってきましたもんね。
このまま沈静化していくと思います。
そうなったら、この契約問題はどうなりますか?
元のままじゃないですか。
結構叩かれてますけど。それでも根本は変わりませんか?
どこまでいっても業務委託っていう外形を保つと思いますね。
契約書は交わさないで?
おそらく口頭のままで行くんじゃないですか。
それでも直接営業や副業は禁止すると。
はい。その辺の感覚は完全に世の中とはズレてますけど。
冷静に考えたら、かなりひどい会社だと思うんですけど。
まあでも、それが分かって芸能人を目指してますから。
才能がなくてもチャンスは与えられる。その代わり食うや食わずの生活。副業もできない。これは正しいことなのでしょうか?
特殊な世界ですからね。起業する人たちと近いかもしれません。
そこには労働法は及びませんか?
これから先は分かりませんね。こういう世界がなくなって行く可能性もあります。
久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。