資産と負債の境目

子供に家ぐらい残してあげたい。
そう思うのが親心である。
住むところさえあれば何があっても生きていける。
その気持ちはとてもありがたい。
だが現実問題として受け取った側は大変だったりする。

まず家には大量の荷物が詰め込まれている。
両親が残した思い出の品々だ。
捨てたくてもなかなか捨てられない。
捨てるにしてもまず整理が必要である。
荷物をひとつひとつ選り分けるには
気の遠くなるような時間が必要だ。

業者に頼めばすごい費用がかかる。
放置しておけば家は荒れ果てる。
解体するには費用がかかるし、
住むとなったら引っ越さなくてはならない。
家族の住環境も変わってしまう。
残したものはそこに住む権利だったのか。
それとも住まなくてはならない束縛だったのか。

不自由をさせないために残したものが、
子供の自由を奪っていく。
これでは本末転倒だ。
だが家ならまだいい。
もっと厄介なのは事業を残されることである。
そこには取引先がいて、顧客がいて、従業員がいる。

先祖代々の土地も売りづらいが、
先祖代々の事業はもっと売りづらい。
その事業で生計を立てている人が少なからずいるからだ。
もちろん残す側は資産だと思って残している。
住むところに加えて仕事まであれば人生は安泰であると。

だが残念なことに、
今の時代はひとつの事業が長続きしない。
言われた通りにやり続けてもどんどん業績が悪くなる。
では新たな事業を起こすのはどうか。
引き継いだ側にその適正やスキルがあるとは限らない。
気がつけば借り入ればかりが増えていく。

資産であったはずのものが一瞬にして負債に変わる。
私たちはそういう時代を生きているのだ。
社長のために働いてくれるはずの社員が、
給料を払い続けねばならない負債へと変わる。
収益をもたらしてくれるはずの事業が、
続けるだけで借金が増えていく負債へと変わる。

借金までして給料を払っても、
感謝されるどころか報酬が安いと文句を言われる。
かといって解雇することもできない。
取引先のために事業を続けても、
どんどん安く買い叩かれる。
かと言って新たな事業を立ち上げるほどの才覚はない。

これは現実として起きている現象である。
この先さらに負債化への速度は増していくだろう。
家も、事業も、人も、会社も、
引き継いだものを縛り上げていく。
選択肢と自由をどんどん奪っていく。
何も残さないという選択。
それが一番の親心なのかもしれない。

 


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1件のコメントがあります

  1.  ご無沙汰です。
     3月に退職し、4月から専業投資家(不動産、禁輸資産の運用)をしています。
     資産承継や事業承継をしていますが、どこまで増やしてどう渡すかを考え実行しています。そんな中、何も残さない選択肢のコラムの内容で、それもありだなと「ふっ」と思った次第ですが、でもやっぱり増やして遺してあげたい。これも親心でた感じました。

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