逆転する商流

寿司屋が魚をさばく動画や
寿司ネタを仕込む動画をYouTubeにアップする。
それはもちろんお店の集客に繋げるためである。
これまで裏方であった仕込みという作業。
あえてそれを見せることにより
「ここまで手間をかけて仕込んでいるのか」
「ぜひ食べてみたい」という欲求を喚起するのだ。

同じ理由で焼肉店が肉の仕込み動画をアップしている。
イチボやランプ、ハラミという聞き覚えのある肉が、
どれほどの手間を経て供されているのか。
筋を取り除き、部位ごとに綺麗に肉を切り分ける作業。
それを見せるだけの動画なのだが
再生回数は想像を超える多さだ。

だが注目すべきポイントは他にある。
今もっとも多いのは畜産業者による肉の仕込み動画だ。
そこには一体どんな意図があるのか。

焼肉店の仕込みもすごいが、
畜産業者の仕込みはもっとすごい。
何しろ肉さばきのプロフェッショナルである。
その中には想像を絶するくらい
芸術的な捌きのプロがいる。

見ているだけで惚れ惚れする。
おそらくこの動画は
これまで職人Aという裏方だった人物を
ブランド化するだろう。
「彼が捌いた肉を仕入れたい」というお店が現れる。
「〇〇さんが捌いた肉」というプレミアをつけて売られる。
するとどういうことが起こるか。
商流が逆転し始めるのである。

たとえば歯科医と歯科技工士の関係では、
商流は歯科医から技工士へと流れている。
全ての技工士の仕事は歯科医を介して流れてくるからだ。
ゆえに価格主導権は歯科医が握る。
技工士は求められる価格で被せ物を納品するしかない。

技工士の技術がいかにすごいのか。
患者にはそれを知るすべがない。
歯科医に「うちの技工士はすごい」と言われれば、
それを信じるしかない。
では技工士が自らの仕事を
動画でアップしたらどうなるか。

肉さばきと同様に、技工士の
技術とこだわりの違いは必ず動画に現れる。
その結果「この人の被せ物を入れて欲しい」
という顧客が現れる。
「私の被せ物を提供しているのはこの歯科医院です」
という告知があれば、顧客はそこに流れていく。
商流が逆転し、価格主導権が技工士へと移る。

このような現象があらゆる業界、
あらゆる職種で起こるようになるだろう。
一人ひとりがそのスペシャリティーによって、
自分の顧客や見込み客と繋がっていく。
そうなった時、会社と社員との商流は逆転する。
給料を決めるという価格主導権が、
会社から社員へと移るのである。

 


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