日本人は中東を「イスラム教の国々」と一括りにしてしまいがち。でも中国・北朝鮮・日本がまったく違う価値観で成り立っているように、中東の国だって様々です。このコンテンツではアラブ首長国連邦(ドバイ)・サウジアラビア・パキスタンという、似て非なる中東の3国でビジネスを行ってきた大西啓介が、ここにしかない「小さなブルーオーシャン」を紹介します。
質問
「アメリカに留学するアラブ人は多いです。本当は憧れがあるのでしょうか?」
言われてみれば、留学する人は多いように思いますね。アメリカだけではなくイギリスやフランスなどのヨーロッパ諸国、また日本に留学する人も意外といます。
留学の理由としては、もちろん海外の大学で勉強することが第一にあると思いますが、たしかに憧れというか、海外への好奇心はあるように思います。
インターネットが発達してからその傾向は強くなった、とサウジアラビアの知人は言っていました。アラブ諸国、特に湾岸地域は宗教的に厳格な国が多いですが、もちろん彼らもインターネットを通じて世界中の情報に触れます。イスラム圏以外の、または同じイスラム圏でも比較的ユルい地域の様子を多く目にすれば、自分たちの住む地域の文化に不自由さを感じることもあるかもしれません。
若いうちはいろいろ経験してみたい、というのはアラブの人々も同じなのではないかと思います。留学して違う文化圏に行けば、まず海外生活そのものが刺激的でしょうし、自国では制限のある行為、たとえば飲酒や女性なら髪の露出といったことも堂々と出来てしまいます。
(海外に来たといっても、それを好まない人はもちろんたくさんおられますが)
しかし、留学する人が多い背景として一番大きいのは、留学費用を国が負担してくれる事だと思います。
ペルシャ湾岸(アラビア湾岸)の産油国は、レンティア国家と呼ばれます。
レンティア国家とは、簡単に言えば天然資源の輸出で政府財源の大半を賄える国家のことです。自国民の税負担が非常に軽いという特徴がありますが、医療や福祉、学校教育などもほとんど無償です。海外留学費用も国が出してくれる上に、手厚い奨学金制度もあります。
つまり、留学における費用面のハードルが非常に低いわけです。これは海外に対する憧れや好奇心とともに、留学が多い理由の一つではないかと思います。
ただ、現在石油の価格は不安定です。レンティア国家は石油価格の影響を大きく受けますから、今後も同じ仕組みで維持できるのかは全くわかりません。国の財政が厳しくなれば、留学費用だけでなく一般教育や医療にもお金がかかるようになるでしょう。我々の感覚では当たり前ですが、これはそれなりの産業基盤があって成り立つものです。石油系以外の産業が十分に発展していないところへ「今日から他国と同じシステムを採用します」と言っても、事はそれほど簡単には進みません。
前回のテーマにもあるように、産油国が脱石油を掲げているのはこういった危機感も背景にあると言えます。サウジアラビアを中心として、産油国がどのように社会変革を遂げていくのか注目したいところです。
この記事を書いた人
大西 啓介(おおにし けいすけ)
大阪外国語大学(現・大阪大学)卒業。在学中はスペイン語専攻。
サウジアラビアやパキスタンといった、どちらかと言えばイスラム感の濃い地域への出張が多い。
ビビりながらイスラム圏ビジネスの世界に足を踏み入れるも、現地の人間と文化の面白さにすっかりやられてしまった。
海外進出を考える企業へは、現地コネクションを用いた一次情報の獲得・提供、および市場参入のアドバイスを行っている。
現在はおもに日本製品の輸出販売を行っているが、そろそろ輸入も本格的に始めたい。大阪在住。
写真はサウジアラビアのカフェにて。