第39回「アラブの人々の健康に対する意識はどのようなものでしょうか?」

日本人は中東を「イスラム教の国々」と一括りにしてしまいがち。でも中国・北朝鮮・日本がまったく違う価値観で成り立っているように、中東の国だって様々です。このコンテンツではアラブ首長国連邦(ドバイ)・サウジアラビア・パキスタンという、似て非なる中東の3国でビジネスを行ってきた大西啓介が、ここにしかない「小さなブルーオーシャン」を紹介します。

  質問  
「アラブの人々の健康に対する意識はどのようなものでしょうか?」

   回答   

健康に対する意識は年々高まってきているように思います。というのも、近年、肥満と糖尿病が社会課題の一つとなっているからです。

中東では肥満率の増加が指摘されており、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、クウェート、カタール、バーレーンといった国々の肥満率はほぼ30%以上です。
これらの国々は糖尿病の人も多く、人口あたりの糖尿病罹患率が世界上位15位以内にランキングされています。

現地での実感として、たしかに40~50代以降になると男女問わずお腹が出ている人の割合が大きく増えるように思います。民族衣装を着ている人は身体全体がすっぽり覆われるため、シルエット的に目立ちにくいですが、それでもときどき、男性でも妊婦かと思うほどお腹がぽっこり出ている人も見かけます。
日本人もそのくらいの歳になればお腹が出てくる人は多い印象にありますが、日本の成人肥満率は4.3%だそうで、中東の国々に比べるとかなり低いです。

(↑緑色が湾岸諸国。トルコやレバノンなど他の中東諸国も30位までに多くランクイン。記事とは無関係だが、1-10位まで全てオセアニア地域なのが気になる。CIA World Fact Bookより筆者作成)

【太りやすい生活習慣】

肥満を引き起こす一番の要因が生活習慣であることに、議論の余地はないと思います。
ここでは、特に肥満に結びつきそうな現地の生活習慣を3つ挙げてみましょう。

1つめは、砂糖の量。
アラブでは日常的に紅茶が飲まれます。その中に、ときに溶け切らないほどの量の砂糖が入っていることがあります。
さらに、お菓子でも甘みの強いものが好まれます。基本的にお酒を飲まないので、それに代わる嗜好品としての役割なのかもしれません。

2つめとして、夕食が遅いことも挙げられます。
食事は基本的に一日三食ですが、夕食はたいてい午後9時頃からスタートします。日中の気温が高くなる国では、夜になって涼しさが感じられる頃に食欲が出てくるので、食べ始めるのが遅くなる傾向にあるのかもしれません。ちなみに日本人は午後6時~8時台に夕食を開始する人が8割というデータがありますが、現地でその時間帯に夕食が始まることは少ないです。

3つめは、運動量が少ないことです。
これは交通事情にも関係していると思います。例えば、サウジアラビアでは車での移動がほとんどで、日常生活における運動量はかなり少なくなります。
一方、鉄道が普及している日本では、どんなに運動習慣のない人でも駅までの移動などで最低限歩くことになるので、ある程度の運動量が確保できます。(ただし、コロナ禍においては、日本も全体的に運動量が減少しており、健康への影響が懸念されます)
「ジムに行って運動しないとなー」と言いながら、好物のアイスクリームワッフルにかじりつくサウジの友人を見て、「運動を習慣づけるのが簡単でないのは、日本もサウジも同じだな」と感じました。

【和食が受け入れられる余地はあるか】

ところで先日、海外のQ&A掲示板で「なぜ日本人には太っている人がほとんどいないのか?」という質問を見かけました。日本は肥満率4.3%ですから、世界の中でも肥満が少ない国の一つだと思われているのでしょう。
複数の回答者(外国人)が挙げているのが、「日本人は砂糖の摂取量が控えめだから」というものでした。
和食がヘルシーらしいという認識は中東地域でもあるように思いますが、ではすぐに取り入れるのかといえば疑問です。
「ヘルシーさ」と「口に合うかどうか」は別ですし、日本食は原材料や調理過程でアルコールが使われるものも多いため、食のタブーの観点からも簡単ではないでしょう。

とはいえ、もっと深く掘り下げてみれば現地の好みに合うものもきっとあるはずです。
「和食」と大きく捉えすぎてしまうとアイデアが浮かびにくくなりますが、もう少しカテゴリを絞れば何か見えてくるのではないでしょうか。

【お菓子は入り口としていいかも】

現地ですでに受け入れられている日本の食べ物の代表として、お菓子があります。
日本のお菓子にも甘いものはたくさんありますが、アラブ圏のお菓子と比較すれば糖分は控えめです。
中東ではチョコレートが非常に人気がありますが、日本のチョコも知られています。

(↑海外でも人気の高いアルフォート。サウジにも買えるサイトがあるが、なぜかアメリカからの発送で、5箱で約10,000円と価格は全く控えめではない)

洋菓子店の有名どころでは、ヨックモックやモロゾフなどもドバイへ進出しています。
「上品な甘さで美味しい」と周辺産油国の富裕層からも支持されており、お土産に持っていくと喜ばれます。
「しっかり甘いのに糖分控えめ」というのがウケているのだと思います。
また、お菓子だけでなく日本のお茶の認知度も低くありません。
特に抹茶はヘルシーな飲み物として認識されており、『宇治』がブランドだということも知られています。
鮮やかな緑色はビジュアル的にも好印象。サウジアラビアを始めとした湾岸諸国の国旗には緑が使われることが多く、緑は「国の繁栄」「聖なる色」として好まれるようです。

現地の健康需要や食の嗜好を把握することで、様々なアイデアが浮かびます。
食分野からのアプローチの一つとして、お菓子やお茶といったティータイム周辺から入ってみるのはいいアイデアかもしれません。

 

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 この記事を書いた人  

大西 啓介(おおにし けいすけ) 

大阪外国語大学(現・大阪大学)卒業。在学中はスペイン語専攻。
サウジアラビアやパキスタンといった、どちらかと言えばイスラム感の濃い地域への出張が多い。
ビビりながら中東ビジネスの世界に足を踏み入れるも、現地の人間と文化の面白さにすっかりやられてしまった。

海外進出を考える企業へは、現地コネクションを用いた一次情報の獲得・提供、および市場参入のアドバイスを行っている。
現在はおもに日本製品の輸出販売を行っているが、そろそろ輸入も本格的に始めたい。

写真はサウジアラビアのカフェにて。

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