第127回 「マニュアル」が奪うポテンシャル

この対談について

人は何のために働くのか。仕事を通じてどんな満足を求めるのか。時代の流れとともに変化する働き方、そして経営手法。その中で「従業員満足度」に着目し様々な活動を続ける従業員満足度研究所株式会社 代表の藤原 清道(ふじわら・せいどう)さんに、従業員満足度を上げるためのノウハウをお聞きします。

第127回 「マニュアル」が奪うポテンシャル

安田

藤原さんのメルマガに、「絵を描こうとして固まってしまった」という話が書かれていましたよね。テーマも決まっていない状態で「好きに描け」と言われたら、何もできなかったと。私も実は同じような経験がありまして。


藤原

えっ、安田さんもですか。ちなみにそれは何の分野で?

安田

音楽です。小学校の宿題で「どんなテーマでもいいから曲を作れ」と言われて。そもそも音符も読めないのに、何時間楽譜を見ていても一切何も浮かばないんですよ。決してサボろうとしていたわけじゃないんですけど、本当に何も出てこない。


藤原

いやぁ、わかります。頑張ろうとしているのに、頭が真っ白になるような感覚ですよね。私の場合は思い浮かばないというのもありましたけど、苦手意識が先に立ってしまって。横で周りがどんどん描いていくのが目に入ると、もう何も描けないし描きたくない。

安田

「仕事ができない人の心境もこうなのかもしれない」とメルマガにもありましたよね。あれはすごく腑に落ちました。「元気よく挨拶する」とか、教えたことを実行するなんて何も難しくないだろうと思ってしまうけど、それで固まっちゃう人もいる。


藤原

そうなんですよ。安田さんが曲を作れなかったように、そもそもどうしていいかわからないという状態ですよね。頑張ってないわけじゃなく、本当にできないんだと。

安田

そうそう。私が曲を提出できなかったとき、クラスメートは私以外全員ちゃんと作って持ってきたんですよ。「なんでこんなことが皆できるの?」と本気で思いましたからね。他の人が難なくできることが、これっぽっちもできない分野が人それぞれあるんだなと。


藤原

ええ。私にとって文章を毎日何千文字も書くことは全然大変じゃないけど、できない人は頑張ってないわけじゃなく、本当にできない。

安田

得意って何かと言われれば、「他の人が難しいと思うことを苦もなくできてしまうこと」なんでしょうね。


藤原

確かにそうですね。安田さんもメルマガを書くのはそういう感覚ですか。

安田

まさにそうです。「どうやって毎回違う切り口で書くんですか」と聞かれるんですけど、特別なことは何もしていなくて。なんとなく書いていたら疑問が浮かんで、出来上がる。ただそれだけのことなんですよ。


藤原

人間の得意不得意ってなんでこんなに偏っているのかと思うと面白いですよね(笑)。

安田

ええ、本当に(笑)。


藤原

その偏りをパーツとして活かせるかどうかが、組織の面白さであり醍醐味なんでしょうね。本来はそうであるはずなのに、学校教育で「これができなきゃいけない」と刷り込まれてしまっている。

安田

日本の学校教育を通じて「これができなきゃいけない」という刷り込みがあって、企業に入ったら当たり前のルールがある。一切曲が書けない人にひたすら曲を作らせているようなものですよ。


藤原

それでできないと、「お前は頑張ってない、やる気を出せばできるはずだ」と詰められる。「そのやる気をどこに置いてきたんだ」みたいに言われて、ますます動けなくなっていく。

安田

うーん、なんでこんな仕組みになっちゃったんでしょうね。皆、合理的な方が好きなはずなのに。


藤原

根っこはやっぱり大量生産・大量消費でしょうね。産業革命以降、効率化や生産性を追求する中で、「上手にこなせる人がすごい」という価値観が定着してしまった。

安田

現場に行くほど効率化、単純化、標準化で、誰がやってもできる仕事にまで落とし込んでいますからね。フランチャイズチェーンなんかまさにそうですけど、人間の特性を考えたら「マニュアルがあれば誰でもできる」なんて、すごく傲慢な話だと思うんです。

藤原

ええ。マニュアル通りにやることが得意な人はそれでいいし、でも全員がそうだとは限らないんだとわかっていないと。マニュアルで回る仕事に全人格を押し込めるのは無理がありますよ。

安田

例えばマニュアル通りに絵を描かせるとしたら「左から10センチ、上から30センチに半径2センチの円を描け」と指示していけば形はでき上がる。でもそれはもはや絵を描いているとは言えないわけで。

藤原

ええ、まさに。「絵かき歌」みたいなもので、どこかで大量生産の分業に落とし込んだ形にすぎない。本当は人間の凸と凹をうまく組み合わせて、魅力的なものが出来上がるのが、組織の本質じゃないかと思うんですよ。

安田

とはいえ、それを「会社」という器でやるのはすごく難しいですよね。事業が先に決まっていたら、それぞれの特性だけを引き出して成り立たせるのは無理がある。

藤原

確かに事業ありきだと、人を事業に合わせることになってしまいますからね。

安田

だから自分が一番苦もなくできることを何社かでシェアして、やりたいことが変わったら所属も変えていく。そういう働き方の方が、人間のポテンシャルを引き出すには理にかなっている気がするんです。

藤原

ああ、それはいいですね。得意なことをやっている人が集まった方が、結果的に生産性も上がりそうですし。大企業のやり方を中小企業が中途半端に真似するから問題が生じるわけで、安田さんが仰るようなやり方が一つの解決策になっていく気がします。

 


対談している二人

藤原 清道(ふじわら せいどう)
従業員満足度研究所株式会社 代表

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1973年京都府生まれ。旅行会社、ベンチャー企業を経て24歳で起業。2007年、自社のクレド経営を個人版にアレンジした「マイクレド」を開発、講演活動などを開始。2013年、「従業員満足度研究所」設立。「従業員満足度実践塾」や会員制メールマガジン等のサービスを展開し、企業のES(従業員満足度)向上支援を行っている。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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