いい嘘と悪い嘘

嘘にはいい嘘と悪い嘘がある。
とは言っても「嘘も方便」という類の話ではない。
そんな話は僧侶や牧師がしてくれればいい。
境目研究家が論じたいのは嘘の精度についてである。

私はかつてこんな話を聞いたことがある。
すごい詐欺師の話だ。
並の詐欺師はバレたら恨まれるが、
ほんとうに凄い詐欺師は騙されていたとわかった後でも
相手に感謝される、お礼まで言われる、という話。

真偽の程は定かではないがその理屈は理解できる。
たとえば遠い親戚だと偽って近づいてきた詐欺師。
騙されていろいろ世話してしまう。
だが元々身寄りもない寂しい人だったらどうだろう。

一緒にいられた時間が
かけがえのないものだったとしたら。
もはや本当に親戚かどうかなど
関係ないのかもしれない。

つまり、本当かどうか、
お金を失ったかどうかより、
もっと重要なものがあるということ。
それは相手の納得度だ。

そもそも嘘には段階がある。
まずそれが合法的な嘘なのかどうか。
この点では詐欺師は完全にアウトである。
たとえば政治家の言い訳はこのラインを最重視している。
完全なる嘘の答弁ではあるが合法である。
つまり法的にはセーフ。

だが彼らの嘘は悪い嘘である。
それは国民を騙しているからではない。
論理破綻しているからだ。
違法ではないけど言ってることがむちゃくちゃ。
法的に裁かれることはないが国民の支持率は下がる。

これではいい嘘とは言えない。
では論理的に正しければそれはいい嘘なのだろうか。
たとえば会社が掲げる
SDGsのようなビジョンはどうだろう。

もちろん違法ではないし、論理的にも破綻していない。
社会全体のことを考えて我が社は仕事をしていきます。
言っていることはとても素晴らしい。

だが経営者が本気でそう思っていないのなら、
これは嘘である。しかも悪い嘘だ。
なぜなら社員や顧客の心が動かないからである。

違法ではない。
論理的にも筋が通っている。
だが納得がいかない。
SDGsなどを掲げる前にまず社員の給料を上げろ。
それが彼らの本音である。

では経営者が本気で地球環境を考えていれば
社員は納得するのか。
いや、しないだろう。
そんなことはどうでもいいのである。
ここで必要なのはもっと精度の高い嘘なのだ。

経営者の本音がどうであろうと、
この人について行きたい、人生をかけてもいい、
と思わせるほどの嘘。
精度の高い嘘は真実を超え、
相手の心と行動を変えてしまうのである。

 

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1件のコメントがあります

  1. いつも考えさせる観点のコラムありがとうございます。
    最近あるユーチューブを視聴していたら、
    ①組織や社会に訴求する目的や価値
    ②個人で〇〇したい、●●を達成したい
    の2つの動機がある。
    ①は他者(家族や利害関係人)には受けがいいが、
    ②は本音で生きててその価値観を共有する人(非多数の他者)にとっては、魅力がある

    最近は②で生きようかな~と思っている次第です。

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