第166回 大卒ブランドの行方

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第166回「大卒ブランドの行方」


安田

日本の院卒初任給って、アメリカの5分の1しかないそうです。

久野

詳しくは知りませんけど驚きはないですね。

安田

院卒の初任給って、日本では大卒のちょっと上ぐらいで。

久野

そもそも日本では院で勉強したことを仕事で活かせるイメージがない。

安田

文系はとくにそうですね。普通に営業マンになってたり。日本企業が能力を生かしきれないだけでしょうか。

久野

そもそも海外では仕事ができる状態にしてから入社してきます。駄目だったらすぐに切られちゃうので。

安田

日本とはそこが違いますよね。

久野

辞めさせられない前提で雇用して、仕事ができようができまいが払い続けないといけない。だから安く設定するしかない。

安田

海外は辞めさせられるから5倍払えると。

久野

だって1500万で募集して、駄目だったら辞めてもらえばいいじゃないですか。

安田

そうですね。

久野

日本では500万だったとしても、10年保証したら5000万なので。負ってるリスクがぜんぜん違う。

安田

日本の大学院生についてはどう思いますか。

久野

う〜ん。採用したことがないので。

安田

私は採用したことがありますけど、ちょっと年を食った大学生というイメージです。2〜3歳年上なので大人な感じはするんですけど。

久野

でも社会人としては素人なわけですよね。

安田

そうなんです。まったくのど素人。結局1から教えなくちゃいけない。

久野

大学院に行くぐらいだから頭はいいんでしょうね。

安田

明確な売りがないと逆に採用されにくいです。就職目的に大学院に行くのはコスパが悪過ぎます。

久野

採用できるなら、してみたいですけどね。私は。

安田

そうですか。

久野

はい。大学院に行く目的にもよりますけど。

安田

就職では不利になるイメージが強いですけど。年齢も上だし、スタートの金額も高くなってしまうので。

久野

そういうところが日本は良くないと思う。

安田

そういうところ?

久野

だって見えないものに金を払わないじゃないですか。どういうスキルを持ってるかも見積もらずに一律20万とか。だから院生は高いみたいな話になっちゃう。

安田

専門分野の勉強はしてるんでしょうけど。仕事で役に立つのかどうか。

久野

社会がそれを評価しないのが悪いと思う。

安田

会社が評価するようなことを教えてない気もするんですけど。

久野

どういうスキルがあれば優遇するとか、会社がもっと明確にすればいいんですよ。

安田

企業は学校名しか見ませんよ。

久野

だから学生も「どうせ勉強しても」ってなっちゃう。雰囲気でマッチングしてるだけ。

安田

大学時代の成績を気にする会社なんて、ほとんどないです。

久野

成績証明を持ってこいとさえ言わないですよね。内定式に一応出すぐらいで。

安田

卒業すりゃいいって感じですね。自分たちもそうだったからでしょう。

久野

そもそも仕事が部活の延長みたいな感じで。だから厳しい部活やってた人が好まれる。

安田

だって企業の目的って金もうけじゃないですか。

久野

その要素は大きいです。

安田

大学は「金もうけできる人」を育てることが目的じゃないので。純粋に学問を学んだり、未知の技術を研究したり。

久野

それが本来の目的でしょうね。

安田

金儲けに結びつかない学問だって必要ですよ。

久野

今は役に立たなくても、どこでどう役に立つか分からないですから。

安田

そういうのは国がお金を出してやるべきだと思うんですよ。企業にそれをやれっていうのは、なかなか無理がある。

久野

目的が違いますからね。企業は確実にお金になるスキルを身につけさせたいので。

安田

企業が欲しいのって、業務命令をきちんと実行してくれる人じゃないですか。

久野

少しずつ変わってきてますけどね。

安田

そもそも大学に何しに行くかってことですよ。企業で活躍するためのスキルを身に付ける場所なのか。人類の発展のために勉強する場所なのか。

久野

今は両方の目的が混ざってますよね。

安田

すごく中途半端に混ざってる気がします。

久野

海外の大学はそこがはっきりしてます。知的探求かそうじゃないか。たとえばハーバードは頭を使って社会に還元するというコンセプトで。

安田

ビジネス・スクールが有名ですよね。

久野

ビジネスマンとしてのスキルを身に付けさせる大学。そこがきれいに分けてあります。日本は何となく全員が遊びに行く場所みたいな感じ。

安田

日本の商学部や経済学部で学んでも、即戦略にはならないですもんね。

久野

そういう教え方をしてないですから。

安田

商学部でも文学部でも、ビジネスをやらせたときに明確な差が出ない。マクロ経済を学んできても現場ではまったく役に立たないし。

久野

中途半端なんだと思いますよ。もっと掘り下げないと。試験もガンガンにやらないと。

安田

知識が中途半端ってことですか。

久野

経済学部の人にマクロ経済のことを聞いても「しーん」となったり。

安田

卒業単位を取るための勉強しかやってませんからね。

久野

そうですね。入試のときとあまり変わってない気がします。スキルや知識を身に付けることが目的になってない。

安田

高いお金を払って学歴を買ってるようなもんですね。早稲田や慶應だったら投資する価値もあると思いますけど。

久野

日本では大卒というだけで初任給が上がりますから。

安田

なぜ企業は大卒を採るんですか。

久野

私が聞きたいです(笑)

安田

大学中退でも能力は変わらないと思うんですけど。採用してもらえないです。

久野

能力というより肩書きなんでしょうね。やっぱり。

安田

中身の伴わない肩書きですけど。

久野

今後は肩書きからスキルの方に、どんどん移行していくと思います。

安田

そうなったら就職目的で大学に行く意味はなくなりますか?

久野

本気でスキルを付けたい人は海外に行くようになると思う。

安田

日本の大学はどうしたらいいんでしょう。即戦力スキルを身に付けさせるべきなのか。学問を極める方に行くべきなのか。

久野

大学ごとにきっちり決めることですね。企業が中途半端な大学生を採用しなくなれば、変わらざるを得なくなります。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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