「遊んでいるかのように働きたい」をモットーに、毎日アロハシャツ姿で働く“アロハ美容師”こと岩上巧さん。自身が経営するヘアサロン「mahaloco(マハロコ)」には、岩上さんしか実現できない<ココロオドル髪型>を求め多くのお客様が訪れます。その卓越したビジネスセンスの秘密に、ブランディングの専門家・安田佳生が迫る対談企画です。
第19回 美容師に求められている「会話」とは?
前回の対談では、新人のスタッフさんたちには「お客様ハント」をしてもらったという話が出ましたね。まず「お客様ハントとは何なのか」をお聞きしてもいいですか?
お客様ハントというのは、街で自分の店に来てくれそうなお客さんを探すことです。ただウチの場合、いわゆる「カットモデル」、つまり練習台になってもらう代わりに割引価格や無料で施術するというものじゃなく、最初から正規の料金で来てくれるお客さん限定でした。
ふーむ、確かにお店としたらその方がいいんでしょうけど。とはいえ、それってかなりハードル高いんじゃ…
それはその通りですね。ただ、「カット無料だから良かったら来て」みたいな軽いノリで誘って、実際に来てもらえたとしても、なかなかリピートにはつながらないんです。その方は「無料」に惹かれて来てくれているわけだから。
確かにそうかもしれませんね。ただ、いきなり知らないお店から「正規料金で来てください」って言われても、なかなか行く気にならない気がするんです。どうやって口説いていたんですか?
アナログかもしれませんが、「自分たちの美容への思いを熱く語る」ことで来てもらっていました。さっき言った「無料だから気軽に来てよ」というのの真逆と言うか、「うちはこんなに本気で美容に取り組んでいる。きっとあなたをもっと綺麗にしてみせます」と、ある意味暑苦しく訴えて(笑)。
ははぁ、なるほど。確かにそこまで言われたら「ちょっと行ってみたいかも」と思うかもしれません。
そうでしょう? 逆に言えば、そういう熱い想いに魅力を感じたお客様だけが来てくれることになるので、客層もすごくよくなるんです。こちらの説明にも熱心に耳を傾けてくれるし、新しい髪型の提案も通りやすかったりする。
なるほどなぁ。ある意味入口でそういう「いいお客さん」をセグメントできているわけですね。お客さん側も「より魅力的になりたい」という想いが強い人たちなわけで、つまり店の方針とお客さんのニーズがバッチリ合致しているわけだ。
そうそう、仰るとおりです。だから自然とリピーターになってくれて、やがては新人スタッフたちの成長を応援してくれるようにもなる。だからスタッフたちも頑張ろうって思えるわけで。すごくいい好循環が生まれるんですよ。
いやぁ、素晴らしいですね。とはいえ、入ったばかりの新人スタッフさんだと、資格もないからカットなどはできないわけでしょう? せっかくハントしたお客さんは、誰が切るんです?
それは僕や他のスタイリストが担当してましたね。もっとも、僕らが受け持つのって、最初の髪型に関するカウンセリングと、カット、最後の仕上げくらい。カウンセリングの時間を除けば、僕が担当するのって正味15分くらいだったりするんですよ。
そうか、だから時間的にもそれほど負担にはならなかったと。
そうそう。カットだけじゃなく、カラーやパーマでもアシスタントに任せる部分がかなり多い。要は、施術以外の「もてなしの時間」が圧倒的に長いんです。
なるほど。そういうところを新人さんが担当するんですね。そうやって少しずつ接客スキルを習得したり、施術の流れを理解していくと。
仰るとおりです。つまり「お客様ハント」っていうのは、単なる集客の手段じゃなくて、新人たちの研修も兼ねているというか。「美容師は技術があればいいわけじゃない」っていうのを、体感として学んでほしいと思っていて。
ははぁ、すごい。素晴らしい研修ですね。ちなみにそういうお客様ハントって、他の美容室も当たり前にやっていることなんですか?
うーん、昔はさておき、今はほぼやらなくなったと思いますね。直接声をかけることになるので、コロナの時に一気にみんなやらなくなりました。変わって伸びてきたのがInstagramなどのSNSを使った集客方法です。
ああ、「カットのビフォー・アフター」とかの動画、よく見かけますもんね。
そうそう。それによって集客が可能になったので、今はどこもSNS活用に力を入れていますね。……ただね、そうやってビジュアルで訴求しているのは「髪型=モノ」なんですよ。お客様も「この髪型ください」みたいな感じで買いにくる。つまりそこには「会話」の介在する隙間がなくなっているんです。
ああ、なるほど。お客さんはあらかじめ欲しいモノ(髪型)を決めて、美容院にやってくると。
そうそう。だから来店しても美容師とあまりコミュニケーションしようとしなかったりする。最近は「美容室では会話をしたくない」という人が半数以上いるっていうアンケート結果も出ているそうですよ。
あぁ、正直その気持ちはわかります(笑)。「今日はお仕事は?」とか「お子さんいらっしゃるんですか?」とか、そういう世間話をするのって面倒くさいんです。
笑。もちろんそういう方もいらっしゃるので、無理に世間話をする必要はないんですけどね。
そうなんです。世間話は別にいらなくて、ヘアスタイルとかメンテナンス法とか、そういう話をしたいんですよ。
ああ、まさにそこがお伝えしたかったところなんです。「髪を洗う時はこういうことに気をつけてくださいね」とか「あなたの毛の流れを見ると、こういう髪型が似合いそうですよ」とか、そういう話をするべきだと思っていて。
本当ですよね。そういう話題ならもっと話も弾むのに。
まぁ、美容師の側も会話が苦手な人が増えましたから。そういう意味ではウチは時代に逆行したスタイルをとっているのかも(笑)。でもね、その人の魅力を最大限引き出すためには、コミュニケーションが不可欠だと思いますね。
そうですよね。「お客様ハント」の話を聞いて、岩上さんのそのお考えがさらに深く理解できたように思います。
対談している二人
岩上 巧(いわかみ たくみ)
アロハ美容師/頭髪改善特許技術発明者/パーソナルブランディングプロデューサー/株式会社 OHANA 代表
美容専門学校卒業後、都内のサロンに就職するも、オーナーと価値観の違いから大喧嘩し即クビに。出身地である水戸に戻り実家の美容室で勤務しながら技術を磨き、2008年自身のヘアサロン「mahaloco(マハロコ) 」をオープン。結婚式のプロデュースやイベント企画なども行うパーソナルブランディングプロデュースサロンとして人気を博す。2014 年、髪質改善技術「美髪矯正 hauoli®(2021 年特許取得)」を開発。「まるでハワイで暮らしているように」をテーマに、毎日アロハシャツを着、家族・仲間・お客様と共にハワイアンライフを満喫中。
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。