第110回 会社には「恩返し」が必要?

この対談について

株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。

第110回 会社には「恩返し」が必要?

安田
人間も含め、すべての動物は子孫繁栄のために子育てをしますよね。ところが面白いことに、親に「恩返し」をするのは、人間だけなんですって。

鈴木
へぇ、そうなんですか。じゃあ『鶴の恩返し』はあり得ないってことですね?(笑)
安田
そういうことです(笑)。ちなみに「生みの親」だけではなく「育ての親」に対しても恩を感じるじゃないですか。人間目線だとこれって当たり前に感じますよね。

鈴木
ええ。血の繋がりがなくても、育ててもらったら普通に「この人たちが親だ」って感じるでしょう。逆に言えば、生みの親でも一度も会ったことがない人に恩を感じるのは難しい気がします。
安田
そうですよね。つまり恩を感じるかどうかは血の繋がりではなく、一緒に過ごした時間によるんですよね。ともあれ、それは子どもから親に対する感情であって、親からすれば「子どもに恩を返してもらおう」なんて思わないじゃないですか。

鈴木
そりゃそうだ(笑)。子どもが好きなように生きて幸せになってくれることが一番の親孝行ですからね。何か見返りが欲しくて子育てしているわけではないですもん。
安田
そうそう。でね、私ちょっと思ったんですが、会社経営者もこういう発想で社員を雇えばいいんじゃないかと。

鈴木
ほう。つまり、社長が親になって、子育てをするように社員に接すると。
安田
簡単に言うとそういうことです。というのも、よく「家族経営」とか「絆経営」って言いながらも、実際に社員がスキルアップして辞めていってしまうと「恩知らずなヤツだ」みたいに言う経営者がいるじゃないですか(笑)。

鈴木
あぁ、確かに(笑)。「せっかくウチの会社で育ててやったのに、他の会社に行くのか!」みたいにね(笑)。それはきっと「無償の愛」ではなくて「利害関係」で社員を育てているからでしょうね。
安田
まさにそうなんです。経営する側の本音は、リターンを見込んだ「投資」として採用して育てているわけじゃないですか。それなのに、同時に社員からの「恩返し」を求めている。それは欲張り過ぎじゃないかと(笑)。

鈴木
でも中には、「自分は社員を本当の子どものように思っている。見返りなんて求めてない!」と言い張る社長もいそうですけど(笑)。
安田
いや〜、そうやって思いたいだけですよ、きっと(笑)。

鈴木

なるほどなるほど。そういう社長は「採用したからには会社に利益をもたらす人材に成長してもらわないと困る」と、堂々と認める必要があると(笑)。

安田
そういうことです(笑)。だってそもそも自分が社員だったら「スキルが身についたので、もっといい条件の会社に転職します」っていうのは理に適った判断ですよね。育ててもらった恩を返そうという発想には、なかなかならないと思います。

鈴木
そうでしょうね。ちなみにウチの会社では、社員が辞めることを「卒業」と言っているんですよ。そうするとウチを「卒業」した子が次の会社で活躍しているって聞くと「あぁ、ウチでしっかり育成ができていたんだな」って思えるので(笑)。
安田
素晴らしい! 世の経営者がみんな鈴木さんのような考え方だったらいいんですけど(笑)。

 


対談している二人

鈴木 哲馬(すずき てつま)
株式会社濃飛葬祭 代表取締役

株式会社濃飛葬祭(本社:岐阜県美濃加茂市)代表取締役。昭和58年創業。現在は7つの自社式場を運営。

安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 

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