先日、外出先で昼時を過ぎ、ここでなにか腹に入れないと電車移動になって食いっぱぐれてしまう、という状況で、駅前のお蕎麦屋さんに入りました。
そこはお店の人をぐるりと囲んだカウンター席だけの個人店で、年配のご主人が先客の数人のグループに相対していました。わたくしはご主人の背後側の席に掛けました。
ご主人がグループのお客さんに語りかけています。
「……ここのは宇宙一の蕎麦だから、食べたらもう拍手が鳴りやまないってもんで……」
ん?と思いました。
つづけて、ご主人の口から同様な自賛トークが淡々と流れるにおよび、わたくしはグループのお客さんの顔色をうかがってみましたが、みなさん笑顔でした。
みなさん常連なのかな……とも思いましたが、しばらく観察していると、どうやら空気を悪くしないように相槌を打っているだけで、初見の方々のようでした。
わたくしがしばらく観察していたのは、ほかにやることがなかったからです。
ご主人はカウンター越しに背を向けたまま、数分間そのままの姿勢でグループに話しかけつづけていました。
これはまずいかも…と、おずおずと声をかけると反応はしてくれたのですが、メニューをもらい、注文が終わるまでにもしばらくの時間を要しました。ご主人が使っているタブレットで注文を登録するのに手間取ったためでした。
また、その注文は重複しており、5m奥の厨房で調理していた奥さんがあとで怒っていました。
さらに後になって本物の常連さんが現れ、そんな空気をまったく気にせず自分で日本酒を冷蔵庫から取っていました。
飲食店に通じていない自分でも途中で察しましたが、そのお店は「仲間たちの店」だったのです。
ご主人の無邪気なハッタリトークを楽しみ、盛り上げ、世間の常識的なオペレーションは期待せず、なんなら手伝ってあげるくらいの気概で臨む。もしかしたら常連間の序列があり、そのときには注意を払う。
個人的に、そういうお店を非難することはできません。
中年以降の人間ならばたいてい顔なじみのお店があり、そこでは同じように常連として過ごしているからです。
一方、その場から一秒でも早く脱出したい気分になったのも事実だったので、おたがい最初から出会わなければよかったのに……と、90年代歌謡曲のような気持ちを抱えて退店することになりました。なんで駅前に店構えてるの。
あと、宇宙一のやつ、量めちゃくちゃ少なくて高くてボソボソしてた。