第329回 なぜブラックな仕事は無くならないのか

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第329回「なぜブラックな仕事は無くならないのか」


安田

まだこんなが会社あるんですね。見ましたか?社長が社員を殴る蹴るして訴えられた会社。

久野

北海道の建設会社ですよね。パワハラが日常的だったみたいです。

安田

社長が飼っているコイの世話までやらされて。文句を言ったら殴る蹴るの暴行までされて。耳が聞こえなくなったそうです。

久野

酷すぎますよ。

安田

ここまで酷くないですけど昔はありましたよね。売れない営業マンが電話を投げつけられたり。足を蹴られたり。

久野

昔だと耐えなきゃいけなかったけど、今は辞めるという選択肢がある。日本社会が進歩したって事ですよ。

安田

この会社って公共工事を受けたり、SDGsを掲げたり、プロスポーツチームのスポンサーまでやっていたみたいです。

久野

ここまで公になってしまうともう難しいでしょうね。ネットでガンガン叩かれるし。

安田

社員寮に防犯カメラまで付けていたみたいで。社員守るためではなく見張るためのカメラ。そこに社長の暴力が映っていたという。

久野

自分がつけたカメラに?

安田

そうなんですよ。こういう会社って特殊なんですかね。

久野

いや、まだまだあると思います。

安田

いまだにあるんですね。なぜ辞めないんでしょう。普通ここまでやられる前に辞めるでしょ?

久野

建設会社に入ってコイの世話ですからね。今の若い子だったらその瞬間に辞めますよ。

安田

これだけメディアで取り上げられると、もう人は来ないでしょうね。仕事も取れないですよ。ちょっと考えればこうなることは分かっているのに。

久野

変われない人っていますから。

安田

こんな社長がいるんですね。

久野

季節が変わったのにダウンを来てる人っているじゃないですか。

安田

いますね。あれと同じだと。

久野

同じだと思います。周りが見えてないんですよ。

安田

それにしても、なぜもっと早く辞めなかったのか。

久野

ガマンを繰り返しているうちに洗脳状態になるんだと思います。

安田

洗脳ですか。

久野

仕事ってこういうもんだと諦めちゃう。殴る側も慣れていて、後で優しく声かけたりするんです。

安田

でもこのご時世ですよ。売れない営業マンを詰めただけで労務局が来る時代なのに。

久野

今どきの営業会社はもっと緻密に追い込んでいますね。発声練習なんてやらせたらすぐ辞めますから。

安田

ですよね。

久野

ただ、そういうパワー系の営業会社が好きな若者って一定数いるんですよ。パワー系でかつ稼げる会社。

安田

今どきそんな若者がいるんですか?

久野

若い子のキャリア戦略として上手に使っているパターンもあります。

安田

じゃあ、こういう会社は無くならない?

久野

無くならないと思う。「自分に合っている」と思う人って絶対いますから。ただ殴る蹴るはもうあり得ないですけど。

安田

違法なことはダメだけど、きついブラックな職場は一定のニーズがあると。給料が高ければ成り立つんじゃないかってことですね。

久野

そうです。そこで3年間やったことが自信やブランドになるから。

安田

ブランドになりますか?

久野

あのハードな会社で勝ち残った、マネージャーにまでなった、というブランドになります。

安田

ブラック系でマネージャーやってた人に会ったことがありますけど。ぜんぜん仕事が出来ない人でしたよ。部下を詰めるのは得意なんですけど、自分では営業が出来ない。

久野

管理職が長い人はそうなりますよね。

安田

そもそも部下を詰めるだけで業績なんて上がらないですよ。それで売れていた時代もあったんでしょうけど。

久野

自分の時代と同じスタイルではもう売れないですよね。

安田

断られても通い続けるとか。契約を取るまで帰らないとか。そんな営業では売れないです。

久野

でも飛び込み営業ってなくならないじゃないですか。

安田

なくなりませんね。うちの事務所にも毎日のように来ますよ。迷惑なので「お話を聞く場合は2万円いただきます」って張り紙したら来なくなりました。

久野

うちも東京に事務所を出したんですけど。「下の階でお世話になっておりまして、ぜひこれをお願いします」って営業にきました。「何の関係があるの?」って思いましたね。

安田

絶対買わないですよね。なぜこんな無駄なことをやり続けるのか。人は辞めるし効率は悪いし。

久野

買う人が一定数いるってことじゃないですか。だから続くんですよ。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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