その204 とこやのずぼん

「もぐらとずぼん」という絵本があります 。

あるもぐらが、洗濯物で干してあるズボンを見て欲しくなってしまい、同じ森に住む友達や知り合い、いろんな動物の助けを得て、材料を集め、布を織り上げ、色を染めて、ついにズボンを手に入れるというお話です。

先日、何年も通っている床屋に行きました。その床屋は店の建て替えをしている最中で、現在は知り合いの同業の店の一部を借りて営業しています。

話を聞くと、建て替えというのは新しく作るところだけでなく、古い建物をなくすまでの過程もなかなかに労力を要するようでした。
書類の問題があり、廃品の処分のことがあり、引き続き使うものを保管しておくことがあり、あるいは仮住まいに引っ越すにあたりエアコンを移設するなど、傍からみていると思いつかない雑事が大量に発生するようなのです。

しかし、そこでわたくしが聞いたのは彼のネットワークの豊かさでした。

床屋ですので、顧客はほぼ男性ですが、ある建築関係の客は廃品処分が難航していることを聞くや自分のツテを通して進めてくれ、べつの客は保管物を運ぶためのトラックを用立てしたうえに手を貸してくれ、またある客はエアコン工事を生業にしており、実費で一日仕事を請け負ってくれたそうです。

まさにもぐらが森の仲間たちに手伝ってもらってズボンをゲットするかのようです。

店主は社交的ではありますが、なにも特別な店ではなく、「町の床屋」の持つ底力を垣間見たようでした。
ただ、長年営業しているほかのお店の話を聞いても、理美容というのは一種独特の不思議さがあり、一日の大部分の時間は同じ場所でハサミを動かしているにもかかわらず、それを通じてまったく違う世界とつながりを得られるようです。

昔話で、王様の耳がロバの耳であることを知ってしまうのは、社会的地位は大きな違いがある床屋でしたが、床屋がハサミを使う場所というのは「どこでもドア」のように異世界に通じているのかもしれません。

まあ、一応わたくしも床屋の話を聞きながら、「なにか自分ができたことはないのかなあ……」とは想像したのですが、なにも思いつきませんでした。

ゲストを迎えた司会者のごとく、ひたすら楽しく話を聞くだけなのでございます。

 

 

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著者自己紹介

「ぐぐっても名前が出てこない人」、略してGGです。フツーのサラリーマン。キャリアもフツー。

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