7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
前回のおさらい ①求人ビジネスの内容、②会社の良さと強みをみつける、③恋愛と採用は似ている 第9回「どうにもならない会社」
前回は人に興味が無い会社は、どうしようもない。という話でした。
はい(笑)。けど、そういう会社は少ないです。自覚がないだけで、何かしら魅力はあるものなんですよ。
魅力を見つけたら、次は何をするんですか?
次は採用ターゲットを一緒に考えます。何歳くらいで、どこに住んでいて、今何をしているのか、と。
なるほど。
まず私が仮説を立てます。「こう思いますけど、どうですか?」と。ゼロから先方に考えていただくのは、なかなか至難の業です。
先方が「若くて、元気で、体力のある人が欲しい」と言っても、ターゲットが変わることもあり得るんですか?
はい。若くて元気がいいって言いますけど、そもそも、なぜそういう人が必要なんですか?と。求人背景から、ちゃんと聞かないといけないですよね。
自分たちが欲しい人物像が、そもそもズレている場合があるということですか?
もう、沢山ありますよ。
それは、恋愛に例えると「石原さとみと結婚したい」みたいな?
そこまで極端ではないですけど(笑)。近いものはありますね。
「好みは分かりました。で結婚したいんですよね?」ってことですよね。
どれだけ現実性ありますか?と。
なるほど(笑)でも確かにそうですよね。自社に魅力がないとか言いながら、「どんな人が欲しいですか」って聞いたら、いきなり多くを並べる人いますよね。「若くて、体力があって、責任感強くて、頭が良くて…」と。
特に経営者歴20年以上の方に、そういう傾向が強いです。
20年越えるとロクなことないですね。私が潰したのも20年目でした・・・。
・・・すみません(笑)。でも正直20年を過ぎると、頭の柔らかい経営者が極端に少なくなります。
そうなんですね。
「一応これだけは言っておきたい」みたいな部分に、凄く時間がかかります。やっぱり採用軸、主語は会社なんですよ。
「給料払うのは、こっちだから」と。
そうです。もっと言うと70歳以上の経営者は何言っても変わりません。
どうして、そうなるんでしょうね。別にタダで給料あげるわけじゃないのに。給料分働かせるわけでしょ。パン屋でパン買うのと変わらないじゃないですか。
まあ、そこがやっぱり、労働力が有り余ってた時代の名残なんですよ。今の試算では、日本で手が空いている人は130万人しかいません。
それは少ないんですか?
もの凄く少ないです。どんどん減ってますし。だから求職者から選ばれることが必要不可欠。求職者にしてみれば、自分が求めるポイントが訴求されていなければ、スルーするだけ。
では、そういう現状を伝え、採用ターゲットをすり合わせて行くと。
そうです。そして浮かび上がったターゲットに合わせて、採用ルートを作っていきます。求職者と求人会社が出会う場所が必要ですから。
「ここにこういう求人があるよ」ということを、ターゲットの人に認知してもらう場所、ということですね。
はい。ただ中小企業は、なるべくお金をかけずに出会う場をつくらないといけない。だからハローワークをメインに活用しているわけです。
私が採用ビジネスをやっていた時は、そこでリクナビやマイナビを提案していました。なぜなら、アドバイスにお金を払ってくれる社長さんは、いないからです。
そうなんですよね。
「御社のターゲットはこんな人ですよ」と教えたところで、お金にはならない。だから媒体を提案することで、媒体会社からのバックマージンをもらう。それで成り立って来たのが、これまでの採用業界じゃないですか。でも求人業界は違うと。
求人コンサルタントの仕事は、採用ターゲットごとに魅力的な求人接点を作ることです。ハローワークを利用するのであれば、魅力的な求人票を一緒に作りましょうと。
それでビジネスが成立しますか?求人票にお金を払ってくれますか?
求人票はあくまでも出口です。私がやっているのは魅力的な接点作り。でもたしかに、理解出来ない人は理解出来ないです。
普通は、求人票の作成屋さんだ思われますよね。そういう場合は、どうやって売り込むんですか?
生意気で申し訳ないんですが、私は自分から一切売り込みしません。すべてご紹介なんです。私の仕事を理解してくれる方のみ、やらせてもらってます。
それで成り立つんだから凄いですね。
結果的に成果に結びつけば、お客さんは増えていきます。
なるほど。それは正論ですね。で、成果を出すためには何が大事なんですか?
求人票の記載内容とハローワークの使い方です。お客さんは欲しい人については色々言いますけど、どう文章に落としてどう動けばその人が反応するかは分からない。
そこを石塚さんが請け負うわけですか?
そうです。採用ターゲットごとに、メリットや幸せなどプラスに感じてくれるポイントは分かった。良いと感じてくれる人はたとえば3パターンある。その3パターンをなるべく具体的にしたうえで、その人に響く求人票を作る。その求人票をハローワークに周知する、それが出口として私がやっていることかと。
求人票づくりは出口であって、全てではないと。
はい。この一連の流れを指導し、その会社の求人力を高め、出口として求人票を一緒につくり、ハローワークを動かす、それが私の仕事です。
ハローワーク求人と仰ってますけど、もう少し広義でいうと「会社と求職者が出会う接点をつくる、その接点を魅力的にしている」ということですかね?
おっしゃる通りです。
その接点を自社のHPに置いたら採用ページになるし、ナビに載せたらナビの求人広告になるし、ハローワークに載せればハローワークの求人票になると。
そうです。リアルに紹介者が口頭で伝えていっても、ひとつの接点になります。大事なのはルートではなく、接点の魅力化。
ナビにお金を払って期限付きの媒体に出さなくても、まずは無料のハローワークに出したらいいじゃないか、と言うのが石塚さんの考えですよね。それで実際に採れてしまうこともあると。
採れてしまうことが多いから、やっています(笑)。
なるほど。きちんとした求人接点をつくれば、無駄な広告費を出さなくても人は採れると。現に採れている会社が沢山あると。なぜ皆さん、やらないんですかね?
ハローワークってギャップの集積なんですよ。あんなにギャップのある所って珍しいです。
ギャップと言うのは「どうせ良い人いないんだろう」とか。「ろくな会社ないんだろう」とか。
求人企業側の評価が驚くほど低いんですよ。「どうせ職安だろ」みたいな。職安=失業者救済=質が低い、というイメージです。もうひとつ言うと、求人企業の使い勝手が悪い。これは本当にその通り。
ほお。どのように悪いんですか?
求人票でいうとインプットの申込フォームとアウトプットの求人票の見え方がぜんぜん違うんですよ。あと一番大事なところの記載欄に、何字何行書けるのかさえ指定がない。だから書き方ひとつ取っても使いにくい。
でもそこまで本気で「ハローワークの求人票書きました!」みたいな会社、見たことないですけど。
まぁ確かに。使う側もみんな適当でスカスカですね。
タダの媒体だからでしょうね。掲載費を何百万円もかけていれば、もっと本気になるんでしょうけど。
実にもったいない話です。あと、ハローワークのギャップの特徴としては、組織の構造上「企業を相手にする部門」と「求職者を相手にする部門」とが分かれていて、人事交流、情報交換が一切ないんですよ。
へえ~!何と効率の悪い。
企業にしてみたらそんなこと分からないので、求人票部門に「人が来ないじゃないか」とか相談するんですよ。一方で別のフロアで、毎日求職者から相談を受けている人たちもいて。こちらの人たちは「せっかく応募する人が目の前にいても、どう求人を紹介したらいいかわからない」となっている。ここは永遠に共有されないんですよ。
なるほど、それは使いにくい。ところで、具体的な成果を教えてもらうことは可能ですか?
はい。例えばどのような成果ですか?
なかなか採れない職種、あるいは地域なんかで「ハローワーク求人で採れちゃいました」という事例があれば。
例えば、ドライバーさん。今難しいって言いますよね。
はい。
エリアは相模原ですけど、出して3日で決まりました。それから、第二新卒で会計事務所、未経験OK、複数応募があり、もう入社してます。
若い人ですか?
はい。ハローワークは年齢制限できるので。
え!そうなんですか?
これ言うと皆さん驚かれますが、ハローワークが一番強いのは未経験20代です。すごく向いています。第二新卒、既卒者の20代を採るのがすごく強いです。先ほどの事例以外にも、調剤薬局の医療事務、ケータイショップの販売職、などいろいろあります。
20代未経験だったら、まずハローワークやれ、と。
はい。やらないと損です。
次回第11回へ続く・・・
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。