さよなら採用ビジネス 第9回「どうにもならない会社」

このコラムについて

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回のおさらい ①求職者目線の採用が行われていない現実、②出会う仕組み作りが求人 第8回「採用時代の終焉」


安田

前回は「採用と求人は違う」というお話でした。求人ビジネスの具体的な内容を教えてもらえますか。

石塚

まず依頼されると「求人をつくるためにインタビューで3時間ください」と言います。聞くことはただひとつだけ。「僕が求職者だとします。この会社で働いたらどういう良いことがあるのか、全部教えてください」と。そしたら、みなさんギョッとしますね。

安田

ほお。ギョッとしますか。

石塚

おおよそ8割ぐらいの会社さんは「そんなこと言われても、ウチはあんまりないんだよ」と言います。でも不思議なもので、聞いているうちに色々出て来るんですよ。例えばボーリング大会で盛り上がるとか、忘年会は恒例のじゃんけん大会で去年は1等景品はルンバだった、とか。良い話じゃないですか。すごく楽しそうだし。

安田

そうですね。

石塚

条件なんかも詳しく聞きます。例えば看護師さんだったら、夜勤しなくていいとか。どんな良いことがありますか?私が入るとどんなメリットがありますか?どんな幸せな気持ちになりますか?入って良かったと思えるメリットって何ですか?どんな些細なことでもいいんです。勤務条件、社風、福利厚生、スキル。これを順番に聞いていくと、最初ギョッとして「そんなのあるかな」と言っていた会社さんも、2時間もするといろいろ出て来るわけです。

安田

あのちょっと…私「ギョッとする」というのが、どうしても納得いかないんです。

石塚

なぜですか?

安田

人が欲しいわけですよね。「働いたら何か良いことあるんですか?」と聞かれた時に、何もないと思っている状態で募集しているということですか?

石塚

その通りです。

安田

それで人が採れると思っているんですか?

石塚

それが採れない原因ですね。

安田

そうですよね。

石塚

中小企業さんのほとんどがそうです。

安田

平たく言えば、うちは何ひとつ良いことないし、仕事もきついし、面白くもないし、給料も高くもないけど、よかったら来てね、ということが求人票に書いてあると。

石塚

その通りです。

安田

そりゃあ人が来るわけないですね。

石塚

来るわけない(笑)

安田

なるほど。

石塚

私がお手伝いすると「すごく改善した」と言われますけど、ある意味、当たり前のことを当たり前にやっているだけなんです。

安田

そうですよね。「うちは何もない」という会社さんにも、今働いている人がいるわけですからね。掘り下げていけば何か良い部分がありますよね。

石塚

その通りです。普通は何かあります。

安田

あるにも関わらず、ないと思っているのは、どうしてなんですか?

石塚

自分の会社の良さって、自分たちが一番分からないからです。それを見つけ出すために、私も業者としてではなく、求職者目線で質問をすることを心がけています。本当に面接に来たつもりで聞くんですよ。一切の遠慮や予定調和なしに。そうすると向こうは、ギョッとするわけです。

安田

ギョッとすることが、本当に多いんですね。

石塚

採用業者って予定調和の中で動いていますから。

安田

求人広告の制作マンは、ギョッとすること聞かないんですか?

石塚

聞かれたことがないっていう会社さんばかりですね。

安田

そうなんですか!条件は何ですかとか、給与いくらですか、ってことだけですか?

石塚

はい。あと、お決まりのキャッチコピーによくある社内風景とか社員の写真を撮って。雰囲気分かるようなものを。かなりマニュアル化されていますので。

安田

へぇ~。似たような求人広告が増えるわけですね。

石塚

そうです。

安田

自分の良さが分からないと仰っていましたけど、自分の良さを悪さだと思い込んでいる事ってありませんか?

石塚

ありますね。

安田

例えば、すごくノロマだということと、短気じゃなくて優しいということと、コインの裏表みたいな部分。ある人から見たら「そんなトロイ奴は嫌だ」と言われるかもしれませんが、他の人からは「セカセカしていないところが素敵」と言われるかもしれません。つまり働く職場として良いか悪いかも、人によって違うと。

石塚

その通りです。「ある人から見たらとても魅力的だ」という部分を見つけ出すということです。

安田

なるほど。それだったら何がしか、ありそうな気がしますね。

石塚

求人をつくるためのインタビューで見つけた良い点を「それは求職者から見てプラスです。幸せだと感じます。それはこういう理由です」と根拠を明確にして教えてあげます。すると、どんどん良い顔に変わって行くんですよ。この瞬間が一番好きですね。

安田

へぇ~。ウチにも良いところあったんだなと。

石塚

そうです。それがあるからやめられない。僕の仕事の醍醐味です(笑)

安田

素敵ですね。

石塚

「強みはこれとこれ。面接ではこう伝えてください。表現は文例考えますから一緒にやりましょう」と伝えます。すると、みなさん最後に同じことを言います。「人が採れるような気がしてきました」と。パッと表情が明るくなるんですよ。

安田

極端な話、1人2人しか採らないのであれば、その1人2人が素敵だと思ってくれれば採用は成功しますもんね。別にみんなに受ける必要はない。

石塚

おっしゃる通りです。

安田

恋愛と似てますよね。

石塚

すごく似ています。

安田

周りが「こんな男どこがいいんだ」と思っていても、本人が良いと思えばそれでいい。

石塚

そうです、その通り!

安田

なるほど。

石塚

いま、お見合いや結婚相談所も多様化していて、すごく似ているなと思います。全員に好きと言ってもらえなくてもいいんだよと。

安田

そうですよね。みんなと結婚するわけじゃないですもんね。

石塚

はい。前にも言いましたけど、100名以下の会社に100名の応募が来たらひと騒動ですよ。

安田

そうですね、嬉しいですけどね。

石塚

嬉しい悲鳴だけど、ちゃんと選考出来るんですかと。

安田

100人から求婚されたら嬉しいけど、大事なのは誰と結婚したら幸せになるか、ということ。そのベストな1人が来てくれたら、それでいいじゃないか、ということですよね。

石塚

そうです。100人順番に10分ずつ、といっても、最初に会った人のこと忘れますよね。やっぱりみなさん、入ったら長く勤めたいと思うし、会社だって入社してくれたら長く勤めてほしいと思うし。ホント結婚と似ていますよね。末永く付き合うためには人数ではなく相性が大事。

安田

でも自分の人格はひとつなので、100人の中のひとりに響くかもしれない、ということが普通の人には分からないと思います。自分の好みじゃなかったら好みじゃないと思っちゃう。それが分かるということが、求人のプロとしてのスキルということでしょうね。

石塚

はい。私はそのスキルを磨くために、なるべく特定のエリアに注力して仕事をしています。地域性ってやっぱりすごくあるんですよ。

安田

ほぉ~なるほど。

石塚

東京23区でも全部違うので。そこを注力していると、いろんな求職者や採用ターゲットが見えてきます。次に活かせるようになります。

安田

事例をこなすたびに、この地域のこういう人は、と見えて来るんですね。

石塚

採用ターゲットがどんどん的確に速く見えて来る。

安田

職種ごと、地域ごとに「このタイプの人はこういうこと考えている」とインプットされ、どんどん蓄積されて行く。多重人格者ですね。

石塚

そうです!(爆笑)

安田

最後にちょっと、素朴な疑問があるんですけど。

石塚

はい。

安田

そんな多重人格者の石塚さんから見ても「この会社はどうにもならないぞ」という会社ってあるんですか?

石塚

あります。

安田

それは、どんな会社なんですか?

石塚

一言でいうと、経営者が人に興味が無い会社。

安田

人に興味が無い?

石塚

人に興味が無い、人が好きじゃない、という人が経営者さんの会社は難しい。

安田

そういう経営者は、社員さんにも興味がないのですか。

石塚

社内の雰囲気が悪くてもそれに気付いていない場合が多いですね。だから社内も活気がない。訪問しても社員はいい挨拶しないし暗いし。猛暑でも来訪者に冷たいお茶1つ出なかったりする(笑)。でもその経営者に悪気はないんですよ。人に興味がないんです。それでずっとやって来れたし。その会社に融資してる金融機関の人に「どうなんですか?」と訊いても「言われてみれば我々もお茶なんか出してもらったことないなー」と。そんな会社が典型例。社外の人にそうなのだから社員に対してもそう。人に興味がない。温度が低い。

安田

ということは、経営トップが人に興味が無い会社は、手伝えないと。

石塚

申し訳ないですけど。柔らかくお断りします(苦笑)。

次回第10回へ続く・・・


石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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