7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
前回のおさらい ①理想と現実、②何を使うかではなく何を伝えるか、③年齢制限可能なハローワーク 第10回「接点の魅力化を考える」
石塚さん自身も、経営者じゃないですか?
はい。
ご自身の会社の採用については、どうなんですか?会社を大きくして行くために「俺も人を採るぞ」という計画はあるんですか?
全くないです。
全くないですか。ゼロ?
今の「株式会社求人」は2回目の起業なんですけど、最初から決めていました。人は雇わないと。
ほう、私と一緒ですね。それは何か理由があるんですか?
雇う必要がないからです。今の仕事において。
でも人を雇う理由って「必要だから」という以外にも、あるじゃないですか。人を雇う快感みたいなもの。
分かります。僕も…恥ずかしながら告白すると、前の会社を始めて5年目くらいまでは「すごく会社を大きくしたい」と本気で思っていました。
社員を増やしたかった?
社員を増やして、オフィス広くして、フロア増やして。
僕らの世代って、社長同士集まると「社員さん何人?本社どこなの?」って感じでしたもんね。
必ずそうですよね。社員数と本社所在地で見栄の張り合いみたいな。
おきまりの挨拶っていう感じでした。
少年時代のメンコに似てて「おー、どんなの持ってるんだ?何枚持ってるんだ?」って(笑)
中小企業のステータスって「売上よりは社員数」みたいなとこ、ありましたよね。私も社員数が100人超えたときはすごく嬉しかったです。
100人突破は1つのステータスですよね。
実際には何も変わらないんですけどね。99人でも100人でも。
でも、私自身は経験がないですけど、やっぱり100人超えたら「上のステージに来た」みたいな実感があるんじゃないですか?
ありますけど、すぐに劣等感に変わります。一瞬です。会社が大きくなると、さらに上の会社が気になるようになるので。上位の社長と会う時には「え、100人しかいないの?」と思われているような気がして(笑)。
上には上がいる(笑)
はい。キリがないですね。下だけを見てればいいんでしょうけど、なぜか人間は自分よりも上を見て、そして劣等感を抱くんです。無意味ですよね、ほんとに。
そういう本を書いてませんでしたっけ?
書きました。「下を向いて生きよう」という本ですが、全く売れませんでした。今から考えたら、あれは自分に向けて書いた本でしたね。
当時はイケイケで、全くそんな風には見えませんでしたが。
いやいや、自分では分かるんですよ。「かなり無理して背伸びしている」ということが。
そういうもんですか。
はい。でも分かっていても止められないんです。「自分は特別なんだ。デキる経営者なんだ」と自分に言い聞かせて、どんどん会社を大きくして行くわけです。
それで、どんどん人を増やして?
150人、200人、250人と、社員を増やして行きました。
増えるごとに快感は増すんですか?
すごい恐怖なんですよ。だって人件費だけで、毎月億単位の費用が掛かるわけですから。でも大変だ思う反面、間違いなく快感もあるわけです。
それは、どういう快感なんですか?
すごく優秀な社員とか、すごくかっこいい社員とかが増えると、自分の能力とか魅力が増して行っているような、そんな勘違いの快感です。
へ〜。そういうもんですか。
はい。そういう社員を連れてご飯を食べに行って、ちょっと偉そうなことを語るわけです。ビジョンとか、ミッションとか。
社員さんも、喜んでたんじゃないですか?
社員って優しいんですよ。特に新卒は。キラキラした目で聞いてくれる。だから自分に酔いしれて行くわけです。
ある意味怖いですね。
はい。その怖さは、社員を失ってみて初めて分かりました。普通は「社員の方が社長に依存している」というイメージがあるじゃないですか?
ありますね。
でも実際は、社長のほうがずっと依存しているんですよ。社員に。それを分かっていない経営者がほとんど。失ってみれば分かります。
実感こもってますね(笑)。
今は、「絶対社員雇わないぞ」なんて言っていますけど、社員を雇う気持ち良さは忘れられないです。麻薬みたいなもんです。
私も、二度と雇わないです。社員は。
でも、石塚さんのビジョンである「魅力的な求人接点を増やす」という目的を考えたら、1人じゃ無理ですよね。仲間を増やしていかないと。
はい。だから今、パートナーを増やそうとしているわけです。
社員として増やすのと、パートナーを増やすのとは、根本的に違うと?
はい、違います。「雇いたくない」というのも正直な気持ちですが、それ以上に「雇えない」ということが大きいです。
なぜ雇えないんですか?
経験値と属人的なセンスが必要だからです。前回にもお話ししましたが、経験を問わない仕事とか、資格・免許で揃える求人というのは、まだまだ集めることが可能です。でも経験値も、属人的なセンスも求める、という採用は極めて難しいです。
「未経験者を採って育てる」というスタンスであればいいけど、「特殊な専門性をもった人を社員として囲い込む」というのは無理があると?
はい。ひとつの会社が囲い込むことはもはや不可能に近いです。
社員じゃなくてパートナーであれば、可能だということですよね。それは私も実感しています。
そうですね。全員とは言いませんが、個人のセンス・能力もあって、経験値もそれなりにある方って、やっぱり自立しているんですよ。
自立してますよね。経済的にも、精神的にも。
はい。
現に、僕らがそうですからね。
おっしゃる通り。私もそうですけど、自立している人は囲い込まれるのが苦手。そういう人は雇って囲い込むのではなく、パートナーシップを組む方が良いという判断です。
賢明な判断だと思います。が、経営者としての旨味はなくなりますよね?正直なところ。
旨味とは?
その人の利益をピンハネする旨味。
あははは(笑)
パートナーの場合、稼いだら稼いだ分、その人が取っていくわけで。社員だったら固定給以外は会社の利益になって残る。
年収って、その人ごとに物差しが違うと思うんですよ。僕の場合は自分が納得する仕事が出来て、ある程度の生活ができる年収であれば十分です。
今やられているビジネスって、石塚さんがパートナーさんにノウハウを教えるわけじゃないですか。それなのに、石塚さんよりも稼ぐパートナーさんが出て来ても平気だと?
はい。ぜんぜん、問題ないです。
畜生!とか思わないんですか?
全然(笑)。だって、人の考え方はそれぞれなんで。その人は仕事にめちゃくちゃ時間を投入してるかもしれないし。
なるほど。では、パートナーとして組みたいのは、どういう人ですか?
前回も言いましたけど、人に興味がある人ですね。これに尽きます。
次回第12回へ続く・・・
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。