7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第33回「運とコネと嫁と」
大企業の人事って、ぜんぜん想像つかないんですけど。
中小企業は分かりやすいですからね。
中小企業はオーナー経営者が多いんで、社長の鶴の一声みたいなもんじゃないですか。
そうですね。社長次第なところはありますが、結構ちゃんと評価されてますよ。中小企業は。
大企業はそうじゃない?
まったく違いますね。
よく石塚さんは「社内政治が大事」とか言うじゃないですか。
はい。絶対にそこは外せません。
たとえば、次期社長って誰が決めるんですか?
基本的には後継指名ですね。だから現社長が決めます。
でも大手の社長なんて、ほとんど株を持ってないじゃないですか。サラリーマン社長なのに、そんな権限があるんですか?
まず、株式をみんな薄く広く持ち合いしてるから、メインの株主ってあんまりないんですよね。
銀行とかが持ってたりしますもんね。
でも、銀行なんて絶対口を挟まない。だから「〇〇ファンド」って人が来ると、途端にアレルギーになるわけですよ、予定調和を壊すから。
予定調和を壊す?
持ち合いして“シャンシャン”でやるようにしてるのに、「株主としてこれを要求する」なんてM上さんみたいな人が来たら(笑)、それは嫌がりますよ。
テレビドラマで見たんですけど、社長と会長が違う人を推してるみたいな。そういうことって実際にはあるんですか?
ありますね。
そういう場合はどうなるんですか?
天の時、地の利、人の和で決まるんじゃないですか。
運と人脈ってことですか?
政治力と、権謀術数と、多数派工作。大企業って、自分が上に行くと決めた時から、その戦いに参加せざるをえないんですよ。
それは課長ぐらいから始まるんですか?
そうですね。
ちなみに課長は、誰が選ぶんですか?
基本的には事業部門のヘッドが決めます。
事業部門のヘッドっていうのは、取締役ですか?
大きい会社ならそうです。取締役か執行役員クラス。
じゃあ、その時点で誰についていくかによって、だいぶ人生が変わる?
そのとおりです。
「自分を気に入ってくれた事業部長」が出世しそうにない場合は、どうしたらいいんですか?
勝ち馬に乗れるか乗れないか。単純にそこで決まっちゃいますね。
それは選べるんですか?下は。「あっちの勝ちそうな部長のほうに行きたい」とか。
いや、それは無理です(笑)
無理なんですか?ということは運?
もちろん運ですよ。
じゃあ、政治力だけではダメってことですか?運もないと。
だって安田さん、考えてみてください。そもそも、みんな似たような学歴で、似たような仕事してたら、どこで差がつくんですか?運だけでしょ。
え!運だけですか?
いろんな会社の、いろんな人事の裏とかを聞くけど、いつも思うんですよ。「やっぱ運だな」って。
それは元々のポテンシャルが、あまり変わらないからですか?
そのとおりです。差がつかないんですよ。
みんなエリートですもんね。能力も高いし、やる気もあるし。
まず本人の運。それと「奥さん」はやっぱり大きいです。
奥さん?
はい。男子の場合はですよ。これから女子がたぶん出世争いで戦に臨む。そうしたら今度はダンナの内助の功でしょうね。
じゃあ、奥さんも、その出世競争を理解してて、一生懸命応援してるわけですか?
そういう奥さんじゃないと出世できません。
そんなことより「早く帰ってきてよ」みたいな奥さんだと勝てない?
「応援してくれる奥さんをもらう」っていうのも、すでに競争なんですよ。
常務の娘と結婚する、みたいなのもあるんですか?ドラマみたいな。
もちろんありますよ。
あるんですか!?
あります、あります。でも、その常務がダメになったら、ぜんぶ終わりですけどね。
そうですよね。
でも結論から言うと、まず勝ち残れないですよ。
それは、どういう意味で?
大企業って、万単位で社員がいて、取締役とか執行役員になれるのは30〜40人。多くて70〜80人じゃないですか。
かなり確率が低いってことですか?
だって数万で70〜80ですよ。まずそこに入れないですよ、普通は。
実力があっても入れない人って、結構いるんですか?
「この人だったら、ひょっとして」みたいな人でも、あえなく天の時を得ず「関連会社の常務として一丁あがり」みたいな。そういう人を何十人見たことか。
逆に「なんでこの人が?」みたいな人が、社長になるケースもありますよね?
ありますね。
あれも運ですか?
メチャクチャ運がいいんですよ。
たまたま不祥事で、上がいなくなるとか?
あります、あります。
「今回は無難な人をつけたほうがいい」みたいなのも、あるんですか?
おっしゃる通り!「この事業部から不祥事出たから、本当はここから上がるのが不文律だけど、今回だけは違う部署から上がる」みたいな。
それは中継ぎみたいなもんですか?
中継ぎのつもりで登板したら、長期政権になったりとか。
もはやドラマですね。
はい。実際ドラマ性はすごくあるんですよ。
無理やりドラマチックに作り込んでるのかと思ってました。
池井戸潤とか高杉良とか、ほぼ実話です。僕はあまり興味ないですけど。
石塚さんは本物を見過ぎているからですよ。
ですね。ドラマでまで見たくないです(笑)
ちなみに、相撲の世界には「ガチンコ」ってあるじゃないですか?
ありますね。
忖度とか一切なしで「実力だけで勝負する」みたいな。
まあ相撲は本来、そうあるべきですけど。
出世競争にもガチンコってあるんですか?上司の顔色とか人脈とか、一切無視して「俺は実力だけで社長になる」みたいな。
ありえません。
ガチンコで社長になったサラリーマン社長はいない?
いません。
でもたまに、それっぽい人いるじゃないですか?
そう見えるだけで、最初からぜんぶガチンコでやってるわけじゃない。
そうなんですか?
自分の色を出し始められるのは、せいぜい部長ぐらいからです。
そういえば私、新人時代に好き勝手言って、かなり浮いてましたね。
新人時代から「自分の色を出したがる」安田さんみたいな人って、まず出世できません。
やっぱり無理ですか。
とにかく、ものすごい大きな組織なので。そんなことやってたら、みんなに迷惑かかるじゃないですか。
迷惑ですか?
だって交差点の真ん中で車止めてる、みたいなもんですよ。「早くどけよ」「みんなが迷惑するだろ」みたいな。
なるほど。私はそういう状態だったんですね。組織に求められなかった理由がよく分かりました。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。