私(安田佳生)が終わりを意識し始めたのは、まさに終わった時。すなわち会社が潰れた時です。終わると思っていなかったことが終わる。そのとき痛感したのは「終わりを想定していなかった愚かさ」です。会社にも、人生にも、あらゆるものに終わりはあります。終わることが問題なのではなく、自覚がないままに終わっていくことが問題なのです。この対談は、ご葬儀というまさに「人生の終わり」を仕事にしている鈴木社長に、私の率直な疑問をぶつけたものです。社長の終わり、社員の終わり、夫婦や友達の終わり、そして人生の終わりについて。終わりから考えた二人の対談をぜひご一読ください。
『会社員も終わりから考える』
はい。
昔は親や先輩が教えてくれたんでしょうけどね。
そうなんですよ。じつは昭和30年代まで、日本は自営業者のほうが圧倒的に多かったんですよ。
会社員がこんなに多くなったのって、つい最近なんです。
大量生産の賜物なんですかね。
まさにそうです。
ということは会社員が当たり前になって、まだ60年ぐらい?
そうなんです。その間に親子3代会社員という人も増えて。今や「ちゃんと働く」=「正社員になる」と思ってる人が多いです。
言われてみればそうですね。
「就職する」=「まともな社会人になる」という図式で。就職しないと「会社にも入らないで、なにやってんの」ってことになります。
雇いきれないんでしょう。人間の寿命も長くなったし。
そうなんですよ。「70歳まで働く」っていうのが当たり前になってきて。
採用する時にはそこまで想定してないでしょうし。
人間の寿命と反比例して、会社や事業の寿命がどんどん短くなってます。
昔は「会社の寿命は30年」って言われてましたよね。
言われてましたね。今は同じ商品を、同じお客さんに、同じ売り方してると、4〜5年で終わっちゃう。
事業モデルを変えていかないと保たないですよ。うちの会社も私の代で相当変わりましたもん。
カメラ屋さんが家電を売る時代ですから。
いずれトヨタも車をつくらなくなるかもしれないです。
そうなってくると、事業の変化とともに必要な人材や能力も、ぜんぶ変わるわけです。人間が働く期間のほうが事業の賞味期限より長いから。
そうですね。親子3代「ひとつの会社で勤め上げた」って美徳でしたもんね。今は自分がひとつの会社で食べていくだけで大変です。
うん。確かに使えない人いますね。
そっちの方が多いと思います。50〜60代でリストラされたら大変ですよ。1,000万以上もらってた人が300〜400万で働く気にならないだろうし。
それが自分の相場ということじゃないですか。
経営者から見たら「500万払えるようなスキルじゃないだろ」って人が、たくさんいますよね。
今は長いんですよ。50歳手前でようやく折り返し。そこから同じスキルであと20年食えるかっていうと、これが厳しい。
私はそう思います。
あのシャープでさえ台湾企業に売られてしまう時代で。東芝もしんどそうだし。安定してる会社がずっと安定し続ける保証なんてないです。
仮に会社が続いていたとしても、自分の居場所があり続けるかどうかは別だし。
日本の場合は労働法で守られてますけどね。
しがみつくタイプの人は、そこからのほうが長くなりそう。やることがなかったら、会社にいるのもつらいし。
そもそも会社って、誰かの役に立つからお金もらえるわけじゃないですか。
業界によっても違うでしょうけどね。大きい会社に入ると、そういうことが起こりやすいでしょうね。
たとえば今、家も財産も全部なくして、とりあえず食べていくために働かなくちゃいけないとしたら。何します?
現金もなし?
現金は100万ぐらい。そうなったらどうしますか。自分でもう1回事業を起こす?
いまだったら不動産事業をやると思います。
就職はしないですか。
えっ?就職。うーん、ちょっと足かけで、バイトぐらいするかもしれないけど。
なぜ就職しないんですか。
会社員じゃたぶん稼げないだろうってのもあるし。「こうやってください」って言われても、「えっ、なんでこんなことやるの」と思ってしまう。
そうですよね。私は創業者だったので、会社がつぶれても「べつに食べていけるだろ」と思ってたんですよ。
安田さんは余裕で食べていけるでしょ。
じつはそんなことないんですよ。20年も社長をやりつづけると、社員がいないと何も出来なくなってしまう。ひとりじゃ稼げないという現実にぶち当たりました。
ああ。だから「社長も副業をやった方がいい」っていう意見なんですね。
そうなんです。
- 第1話「社長は自ら終わりを決める」
- 第2話「会社員も終わりから考える」←本記事
- 第3話「夫婦の絆は必ず終わる」
- 第4話「生きるとは死ぬこと」
対談相手:鈴木 哲馬
株式会社濃飛葬祭(本社:岐阜県美濃加茂市)代表取締役
昭和58年創業。現在は7つの自社式場を運営。