第139回 AIに「下積み」を奪われた新人は、どう育つ?

この対談について

人は何のために働くのか。仕事を通じてどんな満足を求めるのか。時代の流れとともに変化する働き方、そして経営手法。その中で「従業員満足度」に着目し様々な活動を続ける従業員満足度研究所株式会社 代表の藤原 清道(ふじわら・せいどう)さんに、従業員満足度を上げるためのノウハウをお聞きします。

第139回 AIに「下積み」を奪われた新人は、どう育つ?

安田

以前、AIによって奪われるのはレイヤーの低い仕事だというお話をメルマガでされていましたよね。


藤原

ああ、そうですね。仕事全体を俯瞰するような高いレイヤーの仕事はなくならないと思います。

安田

ええ。でもその高いレイヤーにはいきなり到達できなくて、やっぱり低いレイヤーから訓練を重ねていくしかない。だから低い仕事も必要なんですが、そこを全部AIが奪ってしまっている。


藤原

そうなんですよね。低いレイヤーの仕事=基礎を鍛える仕事だと考えると、そこがごっそり抜けてしまう状況ではありますね。

安田

よく弁護士さんが、「新人弁護士を育てる仕事がもうない」って嘆いてますよ。昔は判例を調べたり整理したり、契約書のひな形を作ることで新人を鍛えていた。それがなくなってしまったと。


藤原

ああ、なるほど。

安田

かといって難しい仕事は任せられないから、やらせることがない。仕方なく新人にやらせるけど、AIの方が100倍速くて質も高い。自己矛盾を感じながら、給料を払って新人に仕事をさせているそうなんです。訓練のための仕事がなくなった時、新人たちはどうやって育っていけばいいんでしょうか。


藤原

難しい問題ですよね。根本的に経営者や上の人間が考え方を変えなくてはいけないと思っています。40代以上の経営者は、AIがなかった時代に地味な仕事をコツコツやってきたからこそ、今の自分の高いレイヤーの仕事ができていると自覚している。だから新人も同じように鍛えようとする。

安田

そうなんですよね。「自分はこういう下積みを経て成長したんだから、お前も同じようにやれ」と思ってしまう。


藤原

ええ、自分の成功体験に縛られてしまうんですよね。でも時代が変われば求められる基礎も変わるわけで。例えば「火の起こし方」と同じだと思うんですよ。昔は火を起こす仕組みを知っているからこそ、できる仕事がありましたよね。

安田

でも今は、その仕組みを知らなくてもスイッチ一つで火がつきますからね。わざわざ木を擦り合わせて火を起こす訓練から始める必要はないと。


藤原

その通りです。だから経営者側は「自分がどう鍛えられてきたか」という発想を一度捨てないといけない。火起こしはAIが全部やってくれる前提で、「じゃあ今後何を鍛えるべきか」に発想を転換しないといけないと思うんです。

安田

つまり、入り口の基礎訓練をすっ飛ばして、いきなり応用編のような能力を身につけると。


藤原

そうですね。私、バイク関係の事業もしているんですけど、昔はスパナを持って手を真っ黒にしながらエンジンをバラしたりして鍛えていったんです。でも最近は、ノートパソコンを繋いで調子の悪いところを直すというケースも増えています。

安田

手を汚す作業が減って、パソコン上のデータで不具合を見つけるような整備に変わってきていると。


藤原

ええ。もちろん昔ながらの仕事もまだまだありますが、全員が下積みを積まなきゃいけないかというとそうではない。むしろパソコンに触れないベテランメカニックの方が整備できなくなるような状況もあります。だから判例を調べる能力はなくても、AIを使いこなすために鍛えなきゃいけないことはあると思うんです。

安田

ただ、どんな分野でも何らかの基礎訓練なしに、いきなり高いレイヤーには行けないと思うんですよ。パソコンを使った修理でも、その分野の基礎がわかっているからこそできるわけで。


藤原

仰るとおり、基礎は必要ですね。

安田

これまでは、その基礎訓練のためにお金にならない仕事を会社がやらせていた。でもそこを全部AIが持っていった時に、会社はお金を払いながら新人を訓練するようなことはもうやらないんじゃないかと思うんです。

藤原

やらないでしょうね。企業にとって、新人のためにわざわざお金を払って無駄な作業をさせる経済的な合理性がなくなりますから。 

安田

その時、人は報酬が出なくても、自らのスキルアップのために仕事をするようになるんだろうかと。「1時間働いたら1時間分の報酬が出ないとおかしい」と思っている人たちが、お金にならないことをやるとは思えなくて。

藤原

私たちが若い頃から、自己努力で学んでいた人はいましたけどね。本を読んだり、電卓があるのにあえてそろばん教室に行ったり。

安田

でもそういう人は少数派だったじゃないですか。自分でやる人は放っておいても育ちますが、問題は大部分の「自分でやらない人たち」じゃないかと。面接で「御社はどうやって私を育ててくれますか」なんて聞くような学生は、今後採用されなくなりますよ。

藤原

ああ、確かに。そういう学生でも内定がもらえたのは、「猫の手も借りたい」ようなビジネスモデルの会社があったからですからね。

安田

そうそう。一つ考えられるのは、大学が就職予備校化していくことじゃないかと。本来はお金になることを学ぶ場じゃないですが、会社に出たらすぐ役に立つスキルを身につけるために4年間行くようになる。就職に活かされない学歴なら、行かなくなる人が多いんじゃないかと。

藤原

確かに、就職の役に立たなかったら、高い学費を払ってまで大学に行かなくなるのかもしれませんね。

安田

大卒というだけで初任給が上がったり就職が有利になったりするからわざわざ行くんだと思うんですよ。アメリカでも大学を出たのに就職先がないということが起こっていますし。

藤原

私はそういう感覚で生きていないのであまりピンときませんが、現実になるかもしれませんね。あと数年したら日本の大学もそういう結果になりそうな気がします。

安田

同感です。日本の大学生の9割以上は、今でも「卒業に合わせて一斉に企業へ就職する」という昔ながらの就活システムに乗っかっていますからね。

藤原

「就職して働く」という選択肢しか持っていない人がまだまだ多いということですね。いい会社に入ることが社会人になることだと。そんな時代はとっくに終わったと思っていましたけど、意外とそうでもないのかもしれませんね。

 


対談している二人

藤原 清道(ふじわら せいどう)
従業員満足度研究所株式会社 代表

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1973年京都府生まれ。旅行会社、ベンチャー企業を経て24歳で起業。2007年、自社のクレド経営を個人版にアレンジした「マイクレド」を開発、講演活動などを開始。2013年、「従業員満足度研究所」設立。「従業員満足度実践塾」や会員制メールマガジン等のサービスを展開し、企業のES(従業員満足度)向上支援を行っている。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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