変と不変の取説 第74回「タメ口の境目」

「変化だ、変化だ、変化が大事だ」とみなさんおっしゃいますが、会社も商品も人生も、「変えなくてはならないもの」があるのと同様、「変わらないもの」「変えてはならないもの」もあるのです。ではその境目は一体どこにあるのか。境目研究家の安田が泉先生にあれやこれや聞いていきます。

 第74回「タメ口の境目」

前回、第73回は「見える病気と見えない病気」

安田

昔から不思議なことがあるんですけど。学年と年齢の関係。

ああ。あれは不可解ですよね。

安田

日本は学年が4月から始まるので、3月生まれか4月生まれかで先輩・後輩に分かれてしまいます。

ですね。

安田

1日しか誕生日が変わらないのに学年が違えば敬語。かたや1年近く違うのに同じ学年ならタメ口が許される。なぜこんな制度になってるんですか?

ひとつは管理がしやすいってことですね。「あなたは何年生」「何年何組」というラベリングがしやすい。

安田

敬語についてはどうですか。

なぜ敬語を使うのかってことですか?

安田

何十歳も年上の人に敬意を使うのは理解できます。でも1日しか誕生日が違わない人に、ある日を境に「この人には敬語で」ってのが理解できない。

不思議ですよね。

安田

更にややこしいのが浪人したとき。学年が入れ替わったりするじゃないですか。

しますね。

安田

2浪して大学に入った先輩と、現役で入った後輩だったら、学年が逆転する。その場合は年齢と学年とどっちが優先されるんですか。

学年のほうが優先されます。

安田

ですよね。ということは高校生まで先輩だった人に、いきなりタメ口になるんですか?

過去に関係性があったら、たぶん変わらないと思います。けど新しい関係性を築くときは敬語に変わります。

安田

ということは、初めて出会う場合は学年が優先される?

はい。学年優先です。

安田

年下でも敬語?

はい。

安田

へえ〜。で、元々上下関係ができてる場合は、それを引きずるってことですね。

はい。

安田

ややこしい。

ややこしいですね(笑)

安田

しかも、4月1日から学年が変わるのかと思いきや、1日じゃないらしいです。

4月2日ですね。

安田

何のために2日になってるんですか?

4月1日生まれの人は3月31日の夜中に年齢が上がるから。4月1日の朝には3月31日の人と同じ歳になってるんですよ。

安田

なるほど。

あと、敬語には儒教文化も影響してる。

安田

儒教文化?

「目上の人を敬え」みたいな。

安田

それは分かります。でも何をもって「目上」かですよね。1日違いでそんなに変わりますか?

学年が上ならランクが上という認識なので。「上のランクの人たちを敬いなさい」ってことですね

安田

日本に飛び級がないのも、それが影響してるんですかね。

そう思います。日本は敬語の割合が高くて「上の人を敬う」というコミュニケーションで成り立ってる社会。だから子どもの頃からそれを教えてる。

安田

上の人を敬うというのは分かります。だけど「目上」を学年で切る必要があるんですか?極端にいえば1秒違いで目上になっちゃう。

そうですね。

安田

双子の場合だと、先に出て来たほうが弟っていう。非常にややこしい。

一応そういうルールですね。

安田

でも後から出てきたほうだけ3月31日の夜中をまたいだら、どうなるんですか?

またややこしいことを考えますね(笑)

安田

だって兄ちゃんの方が下の学年になるんですよ。ルール通りに厳格に言えば。

そうですね。

安田

やっぱりおかしいですよ。ローラさんみたいなタメ口の方が自然なのかも。

私が小学校で授業するときはタメ口OKですよ。「タメ口のほうがしゃべりやすいやろ?」って言います。

安田

泉さんがよくても学校はまずいでしょ?

先生は「敬語使いなさい!」って怒りますね。

安田

ですよね。

はい。そこは頑なですね。

安田

親子もまた不思議じゃないですか?

親子ですか?

安田

親子はタメ口じゃないですか。

そうですね。

安田

私はそれに違和感があって。自分の親には敬語で話すようにしてました。それを見て育ったので、子どもは私に敬語で話します。

面白いですね。でも本当はそっちの方が健全かもしれません。

安田

そうですよ。親は敬わないと。昔の家は厳格だったんでしょ?「父上」って呼んだり。

武家はそうですね。

安田

親にタメ口で「おかん」とか言っときながら、たった1日誕生日が違うだけで「先輩」とか言うのは矛盾してる。

おかんには強いけど先輩に弱いんですよ。

安田

クラブ活動だったらまだわかるんですよ。先輩は自分が知らないことを教えてくれるわけですから。でも学年なんて何の関係もない。

学年ってホント意味がないと思います。「2年生のカリキュラムをやってるから1年生よりも優れてる」みたいな。

安田

カリキュラムで分ける意味なんてあるんですか?

ぜんぜんないですね。

安田

でもなくしたら“敬語制度”が崩壊しませんか?

崩壊してもいいんですよ。

安田

いいんですか!「今日から学年による敬語はなしです」みたいな?

そういう学校もありだと思います。学年なんて意識せずチームで勉強するとか。

安田

学校を超えてやるスポーツチームも、やっぱり敬語なんですかね。

そうですよ。「何年生?」って確認して、上だったら敬語。

安田

会社の場合は入った年度ですよね?

そうです。歳や学年が違っても同期ならタメ口です。

安田

上司と部下になったら?

新しい上下関係ができます。だから敬語を使い直します。公の場では。

安田

公の場では?

タバコ部屋では前のとおりとか。うまく使い分けてます。

安田

ややこしい!


場活師/泉一也と、境目研究家/安田佳生
変人同士の対談


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第1回:「変わるもの・変わらないもの」
長い間、時間をかけて構築された、感覚や価値観について問い直します。

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