第16回 重要なのは「課題の抽象化」

この対談について

人は何のために働くのか。仕事を通じてどんな満足を求めるのか。時代の流れとともに変化する働き方、そして経営手法。その中で「従業員満足度」に着目し様々な活動を続ける従業員満足度研究所株式会社 代表の藤原 清道(ふじわら・せいどう)さんに、従業員満足度を上げるためのノウハウをお聞きします。

第16回 重要なのは「課題の抽象化」

安田

今回お聞きしたいのは、「従業員満足度研究所株式会社」の代表である藤原さんにコンサルをお願いしたら、どんなことをやっていただけるのか、です。


藤原

改めて訊かれると、気が引き締まる感じがしますね(笑)。

安田

藤原さんにコンサルを依頼したら、基本的には「従業員満足度」「定着率」「採用率」などを上げるお手伝いをしてくれるんだと思うんですけど。具体的にどんなことからやってくれるんですか?


藤原

ええと、実はあまり決まっていなくて(笑)。月に2時間程度、ZOOMで社長の悩みを聞いたり、チャットワークなどに来る質問に答えているだけなんです。

安田

ああ、それって、私のやっていた社長との雑談に似ていますね(笑)。


藤原

はい、そうかもしれません。そういう意味ではいわゆるコンサルティングではないのかも。

安田

確かに私も「こんな雑談でいいのかな?」って思っていた時期がありました(笑)。でも、実は雑談の中から生まれることって多いんですよね。それに社長って基本的に孤独なんで、「プライベートの悩みにのってもらいたい」ってニーズもけっこうありますし(笑)。


藤原

わかります。ですから相手のご要望に合わせて対応させていただいている感じですね。もっとも、入り口として「クレドを作りたい、教えてもらえないか」みたいなところから入ってくるケースは多いんですけど。

安田

ああ、なるほど。藤原さんと言えばクレドづくりというイメージありますもんね。とはいえ、それについては藤原さんが作った映像「クレドセミナー教材」があるじゃないですか。あれを案内すれば済む話なんじゃないですか?


藤原

そうですよね。私もそのつもりで映像を作ったんです(笑)。でも社長さんの中には、あの映像を見られた上で、私にコンサルをご依頼くださる方もいて。

安田

へえ。でもあの映像を見れば、クレドの作り方についてはわかっちゃうんじゃないんですか?


藤原

そうなんですけどね。結局、社長さんの悩みって一面的ではないわけですよ。もちろんその一つとして「クレドを作りたい」というものもあるんでしょうけど、話していると「なぜ定着率が高まらないんだろう」「なぜ採用がうまくいかないんだろう」といろんな悩みが出てくる。そういうあれこれの壁打ち相手として、私を選んでくださるんでしょうね。

安田

なるほどなぁ。確かに「クレドを作りたい」って二次感情的ですもんね。何かしら困っている課題があって、それを解決するためにクレドを作りたいわけで。


藤原

そうなんですよ。最初はクレド作りに関する話をしていたんですが、話は自然と経営者さん自身の考え方とか価値観にうつっていく。要は、経営者さんの「意識の変容を促すレクチャー」のような内容になっていくんですね。

安田

ほう、「意識の変容」というのは、どういうことですか?


藤原

私はよく「抽象化と具体化を行ったり来たりする」という表現をするんですけど。具体的な悩みを具体的なまま考えるんじゃなく、敢えて抽象化して視座を変えることで、新たな気付きや実感を得るというか……

安田

ははぁ、なるほど。梯子みたいなものですね。下にいるときと上ったときでは見える景色が違う。川下と川上みたいなものとも言えますが。


藤原

まさに仰るとおりです。具体と抽象を行ったり来たりすることで、社長の思考も深く、クリアになっていく。そして最後は社長自らが解決法に気付くんです。

安田

ああ、なるほど。つまり藤原さんは「答え」を与えるコンサルをするわけではない。「自ら気づく方法」を教えるわけですね。ビジネスの場でも「魚を与えるか、釣り方を教えるか」という話がよく出ますが、まさに「釣り方」を教えると。


藤原

仰るとおりです。そういう意味ではやっぱり私は「コンサルタント」ではないのかもしれない。私はあくまで社長の意識を深めていく手伝いをしているだけですから。

安田

そうですね。「ああしろ、こうしろ」と偉そうに言って、失敗しても知らんぷりなコンサルとはまるで違う。


藤原

だって、自分の頭で考えることができるようにならなければ、ずっと誰かを頼らなきゃいけないわけでしょ? 私としてはなるべく早くご自身で考える力を得て、そして卒業していってほしいんです。

安田

ははぁ、面白い。つまり「コンサルタントに依存しないためのコンサル」だと(笑)。個人的にもすごくいいと思うんですが……でも、そもそも自分の頭で考えられる方でないと、抽象化・具体化みたいな話をしても通じない気がしますが。


藤原

確かに社長さんって、「考え方とかとかじゃなく、具体的な解決策を提案して欲しい」っていう人が多いですからね。私も言われたことありますよ、「もっといろいろやってもらえると思ってた」って(笑)。

安田

笑。まあ、そういうスタンスが間違いとは言いませんが、藤原さんとはミスマッチですよね。ちなみにそういう社長からコンサルを依頼されたらどうしているんですか?


藤原

うーん、まぁ、「じゃあダメです。さよなら」なんて乱暴なことは言いません。「抽象的な考え方って、すごく費用効果が高いんですよ」っていうような言い方をしますね。

安田

ああ、なるほど。「費用対効果」みたいな話、社長だったらみんな好きですもんね(笑)。


藤原

そうやって、相手にとってわかりやすい表現を心がけてますね。で、興味を示してもらえたら、私が壁打ち相手になりながら、具体的な課題をちょっとずつちょっとずつ抽象的にしていく。十分抽象化されたら、今度はまた具体の方にちょっとずつ戻っていく。

安田

ははぁ、なるほど。藤原さんが船頭になって、具体と抽象を行ったり来たりするわけですね。そうすることで、社長自身にいろいろな景色を見せてあげると。


藤原

まさにそんな感じです。そうすることで、「◯円」「◯%」「◯人」というような具体的な課題で頭がいっぱいだった社長が、「あれ? 俺ってなんで会社を始めたんだっけ」「従業員にどんな想いで働いてもらいたいんだっけ」というような抽象的かつ本質的な問いに向き合うようになってくれる。

安田

なるほどなぁ。そうやって聞くと、課題の抽象化がものすごく大事に感じます。


藤原

そうなんです。そうやって抽象的な悩みを通じて、自ら答えを導けるような社長になっていく。別にクレドづくり自体が目的じゃないんですよ。

安田

クレドを作りたくて藤原さんに声をかけたのに、いつの間にか自分自身と向き合う旅に出ていた、というわけですね。


藤原

そういうことです(笑)。社長さんの中には、抽象度の高い話はするけれどクレドを作らないまま2年経つ方もいますから(笑)。

 


対談している二人

藤原 清道(ふじわら せいどう)
従業員満足度研究所株式会社 代表

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1973年京都府生まれ。旅行会社、ベンチャー企業を経て24歳で起業。2007年、自社のクレド経営を個人版にアレンジした「マイクレド」を開発、講演活動などを開始。2013年、「従業員満足度研究所」設立。「従業員満足度実践塾」や会員制メールマガジン等のサービスを展開し、企業のES(従業員満足度)向上支援を行っている。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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