第43回「アラブでビジネスをするにあたって、アラビア語は必須なのでしょうか?」

日本人は中東を「イスラム教の国々」と一括りにしてしまいがち。でも中国・北朝鮮・日本がまったく違う価値観で成り立っているように、中東の国だって様々です。このコンテンツではアラブ首長国連邦(ドバイ)・サウジアラビア・パキスタンという、似て非なる中東の3国でビジネスを行ってきた大西啓介が、ここにしかない「小さなブルーオーシャン」を紹介します。

  質問  
「アラブでビジネスをするにあたって、アラビア語は必須なのでしょうか?」

   回答   

ビジネスに限って言えば、英語で事足りると考えて良いと思います。
メールのやり取りや書類関係もすべて英語ですし、海外と仕事をしている現地のビジネスパーソンには基本的に英語が通じるからです。

【基本、英語でオッケー】

湾岸産油国には世界各国の人々が出稼ぎに来ており、それぞれの母語もバラバラなので、意思疎通は英語で行われることが多いです。
外国人の割合が約9割のドバイを例にあげれば、話者数では英語が一番多いと考えられます。
また、同じアラビア語の話者同士だとしても、方言が強い地域出身者は英語でやり取りするほうがスムーズなケースもあると聞きます。

アラビア語しか話さない地元民もいますが、全体の傾向としては、教育レベルが高いほど英語を話す人は増え、特に産油国には欧米へ海外留学する人も多いので、話せて当然という一般認識があるように感じます。
リッチな家庭でなくとも、海外との仕事をしている人は大抵英語が通じると考えて良いでしょう。

アラブ人の英語には独特の訛りがありますが、それは日本人も同様ですし、しばらく話しているうちに耳が慣れてくるので問題ないと思います。
また、お互いネイティブスピーカーではないので、多少ブロークンでも気になりません。気負わずに喋ることができると思います。

ただ、英語を話す必要のない仕事に従事する人々(たとえば地元民しか来ないレストランのスタッフなど)には、英語が全く通じないこともありますので、短期ではなく長期で滞在する場合や現地で生活をする場合は、ある程度アラビア語を理解できたほうがいいかもしれません。
(私自身は、英語を土台に、いくつかアラビア語の頻出フレーズを加えて使う形で対応しています)

このようにアラビア語は必須ではないものの、ビジネスをする上で知っておいたほうがよい言葉はいくつかあります。
中でも、注意すべき言葉としてよく話題に上がるのが、Inshallah(インシャアッラー)という言葉です。

【インシャアッラーって何?】

アラブ地域で仕事をしている人や旅行した人なら、一度は耳にしているであろうこの言葉。
インシャアッラーはアラビア語で「神が望めば」「神の思し召しがあれば」という意味で、アラブ人との会話の中にしょっちゅう出てきます。

アラブへ行き始めた当初、先輩方から「アラブ人は約束をする際、インシャアッラーという言葉で期限をぼかしてくるから気をつけろ」と注意勧告を受けたことがあります。

約束にインシャアッラーを足すと、「神が望めば、その約束は果たされるだろう」といった意味合いになります。
これが「気をつけろ」と言われるのはなぜか。

たとえば、

日本人「明日、17:00にこの場所で待ち合わせしましょう」
アラブ人「OK、明日17:00にそこですね! インシャアッラー」

というやりとりがあったとして、当日に約束の場所で待っていても相手が現れる気配がない、みたいなことはよく耳にします。
彼にもし遅れた理由を聞いたら、「ごめんね、でもインシャアッラーだから(神が望まなかったから)」と答えるかもしれません。

時間に厳しい日本人なら「なんだその言い訳は!」と怒るところでしょう。
日本の感覚のまま接すると、そうなるのも無理はありません。
時間に甘めの私でさえ、立て続けにすっぽかされて怒り心頭になった記憶もあるので、よく理解できます。

ただ、付き合っていくうちに分かってくるのは、彼らが意図的にぼかしているわけではないということです。
そもそもの世界観というか、設定が違うのです。
どういうことなのか、次回もう少し詳しく見ていきたいと思います。

 

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 この記事を書いた人  

大西 啓介(おおにし けいすけ) 

大阪外国語大学(現・大阪大学)卒業。在学中はスペイン語専攻。
サウジアラビアやパキスタンといった、どちらかと言えばイスラム感の濃い地域への出張が多い。
ビビりながら中東ビジネスの世界に足を踏み入れるも、現地の人間と文化の面白さにすっかりやられてしまった。

海外進出を考える企業へは、現地コネクションを用いた一次情報の獲得・提供、および市場参入のアドバイスを行っている。
現在はおもに日本製品の輸出販売を行っているが、そろそろ輸入も本格的に始めたい。

写真はサウジアラビアのカフェにて。

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