第10回 「石積み」の重~い裏事情

この対談について

庭師でもない。外構屋でもない。京都の老舗での修業を経て、現在は「家に着せる衣服の仕立屋さん(ガーメントデザイナー)」として活動する中島さん。そんな中島さんに「造園とガーメントの違い」「劣化する庭と成長する庭」「庭づくりにおすすめの石材・花・木」「そもそもなぜ庭が必要なのか」といった幅広い話をお聞きしていきます。

第10回 「石積み」の重~い裏事情

安田
前回、庭石を積む時は石の重心をうまく見極めながら積んでいくというお話を聞きました。あらためて考えると、「バランスよく石を組み合わせる」ってすごく難しそうですよね。

中島
僕も最初は全然うまくできませんでした。でも、慣れてくると「綺麗にはまる向き」がわかるようになるんですよね。
安田
へぇ、そういうものなんですね。でも自然石って、大きさや形はバラバラでしょう? どうやってもうまくはまらないものもありそうですけど。

中島
大きさや形を指定して仕入れるわけではないですからね。40㎝くらいから1.5mくらいまでの様々な石を、まとめてバサッと持ってきてもらって。
安田

へぇ! それ全部で何個ぐらいになるんですか?


中島
積む高さにもよりますけど、1日大型ダンプ2〜4台くらいになりますね。多い時は80個くらいの石が運ばれてきます。
安田
ははぁ、すごい量ですね。その80個の石をうまい具合に組み合わせていくと。

中島
ええ。大きさや形、それに模様なども見ながら積んでいきます。まったく大きさの違う石を、模様を活かすことで自然に繋げたり。
安田
すごい技術ですね! ちなみに組み方としては、大きい石が下にあって、上に向かってだんだんと小さくなっていくイメージですか。

中島
いや、一番高いところに小さい石があると、不安定な感じがしてしまうんです。ですから下と上は大きな石でがっしり留めますね。その間を、大中小大きさの違う石を組み合わせて入れていきます。
安田
わざわざ小さい石を使う理由はなんなのでしょう。大きい石だけだと安定しないんですか?

中島
いや、大きい石だけでも安定はします。ただ、大きい石ばかりだと大味に見えてしまうんですよね。
安田
確かに大中小さまざまな大きさの石で組まれていたほうが、繊細で上品な雰囲気になりそうです。ちなみに大きい石は1mと仰ってましたけど、重さはどのぐらいあるんですか?

中島
大きいものだと1.5tから2tぐらいありますね。
安田
単位がt(トン)なんですね! ということはもう人力じゃ持ち上がらないですよね(笑)。

中島
上がらないですね(笑)。クレーン車などの機械を使って積んでいきます。
安田
ははぁ。機械で上げて、ちょうどいいバランスが取れるところに降ろすと。そういう作業を何度も繰り返すわけですか。

中島
そうですね。機械で上げてもらって、私が指示を出しながらピッタリはまる位置に置いていきます。
安田

中島さんが指示を出すということは、機械を操る人は別なんですね。それはそれで技術が必要そうですけど。


中島
クレーン操作は、落ち着いて操作すれば意外と危険はありません。ただ、ワイヤーをかける人は上手でないといけないですね。
安田

ああ、ワイヤーが外れて1.5tや2tの石が落ちてきたら、大変なことになりますもんね。そう思うと、大きな石を使いたがらない庭師さんも多いんじゃないですか? 何かあったら責任問題にもなるわけで。


中島
それだけが理由ではないと思いますが、大きな石を使う人は多くないですね。積むのに慣れている職人さんも減っていますし。
安田

そうすると、大きな造園会社だったらできるけど、小さな外構屋さんに頼んでも石垣なんかは作ってくれないんですかね。


中島
そうですね。石垣を作れる会社は多くないと思います。仮にお客さんからの要望を受けて何とか作ったとしても、同業者から見るとあまり上手じゃなかったり。
安田

ただ積めばいいわけじゃないですもんね。しかも自然な景色に近づけるとなると、積み上げて終わりではないでしょうし。


中島
まさにその通りで。例えば積んだ石の間からも木を生えさせたいと思うと、先に木を植えてその上から石を置いたりもします。
安田
上から石を置いても木は大丈夫なんですね。でも、将来的に木が枯れてしまったら、石垣も崩れちゃうんじゃないですか?
中島
ああ、それは大丈夫なんです。木で支えているわけじゃなくて、石同士を噛み合わせることで支えているので。
安田

ははぁ、なるほど。でもなぜ先に植えるんですか? 木が邪魔で石が積みにくくなりそうですけど。


中島
植木鉢を想像していただくとわかりやすいと思うんですけど、木の根元って幹よりも太くなるんです。ですから、石を積んだ後だと大きい木は生やせないんです。
安田

そうか。じゃあ石垣の間に木が生えているのは、最初からそこにうまく組み込んでいるわけですね。


中島
大きな木はそうですね。ツツジのような低木は後から入れることもできますけど。
安田
へぇ、そうなんですか。木だけじゃなく草も生やすわけですか。
中島
そうですね。そういう場合は植栽スペースを空けながら積んでいきます。山の美しい風景をお庭で再現するようなイメージですね。
安田
なるほど。言葉だけだと想像しにくいかもしれないので、施工例を見ながら読んでいただくといいかもしれませんね。

対談している二人

中島 秀章(なかしま ひであき)
direct nagomi 株式会社 代表取締役

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高校卒業後、庭師を目指し庭の歴史の深い京都(株)植芳造園に入社(1996年)。3年後茨城支店へ転勤。2002・2003年、「茨城社長TVチャンピオン」にガーデニング王2連覇のアシスタントとして出場。2003年会社下請けとして独立。2011年に岐阜に戻り2022年direct nagomi(株)設立。現在に至る。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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