第15回 「盆栽」は木を取るか苔を取るか

この対談について

庭師でもない。外構屋でもない。京都の老舗での修業を経て、現在は「家に着せる衣服の仕立屋さん(ガーメントデザイナー)」として活動する中島さん。そんな中島さんに「造園とガーメントの違い」「劣化する庭と成長する庭」「庭づくりにおすすめの石材・花・木」「そもそもなぜ庭が必要なのか」といった幅広い話をお聞きしていきます。

第15回 「盆栽」は木を取るか苔を取るか

安田

私は盆栽が好きで、自分でも育てているんですけど、どうもうまくいかないんです。失敗して枯らしてしまうことも多くて……。植木の方が育てやすいのかなとも思うんですけど、そもそも「盆栽」と「植木」ってどう違うんですか?


中島
木を刈り込んだりして調整することを「仕立てる」と言います。盆栽は基本的に仕立てますが、植木は仕立てないものが多いですね。
安田
なるほど、わかりやすい。

中島
植木でも仕立てるものはあるんですが、僕が庭作りで使う場合は、自然な雰囲気を活かしたいので仕立てないですね。
安田
植木が「自然そのまま」を植木鉢に植えたものだとすると、盆栽は日本庭園などの「お庭を切り取って」植木鉢に移すイメージでしょうか。

中島

ああ、まさにそういう感じです。単に「植物が好き」ということであれば、植木の方がいいかもしれない。安田さんが仰ったように、盆栽に比べ育てやすいので。

安田
とはいえ、盆栽の方が「ミニチュアのお庭」を眺めているようで心地いいんですよね。で、眺めているうちに「ちょっと石を置いてみようか」「苔を生えさせてみようか」となってしまう(笑)。

中島
盆栽の世界では、苔の存在も重要ですからね。
安田
そうなんですよ。でもこの苔が厄介で。最初に購入したときには綺麗な苔なんですけど、家で育てていると見事に枯れていくんです。そのくせ、苔を生えさせようなんて思ってない植木に勝手に苔が生えてきたり(笑)。

中島
日当たりが良すぎたのかもしれませんね。苔は日が苦手なので。
安田

一応、霧吹きしたり日陰に置いたりと、いろいろ試したんですけどね。


中島

ちなみにどんな種類の苔でしたか?

安田

えーと、「よくある苔」というか(笑)。モコっとした毛足の短い苔ですね。


中島
ああ、それであれば、やっぱり日差しは避けた方がいいですね。あとは湿度が大事です。乾燥すると枯れてしまうので。
安田
なるほど。日に当てず、乾燥させないと。ちなみに勝手に生えてくる苔は、その環境に合っている種類ということなんですかね。

中島
そうだと思います。例えば、エアコンの室外機の近くに生えてくることがありますよね。あれは苔にとって、その場所の日当たりや湿度が適しているわけです。
安田
確かにそういうところに勝手に生えてきますね。そんなところに生えてないで、目的の植木鉢の方に生えてほしいんですけど(笑)。でも逆に言えば、適した環境さえ作れれば室内でも育てられるっていうことですよね。

中島

育てられると思いますよ。とはいえ、苔にもいろいろ種類があるので、どういう環境を好むかをしっかり調べてから購入するのがいいかもしれませんね。

安田

なるほど。その場所に合った苔を選ぶことが大事なんですね。ちなみに、お庭に苔を植えることも多いと思うんですが、中島さんはどういう苔を使うんですか?


中島
僕がよく使うのはスギゴケという苔で、少し根が付いていて、身が分厚く、管理しやすいのが特徴です。他に日差しに強い種類だと、スナゴケという苔もあります。湿気が多いところでないと駄目なのがハイゴケなんですが、水をあげすぎるとゼニゴケという別の苔が出てきてしまうんです。
安田
へぇ。苔にもいろいろな種類があるんですね。それを要望に合わせて植えるわけですか。

中島
植えるというか、貼り付けるイメージですね。
安田
ああ、なるほど。例えば石に貼り付けたら、そこにはあまり日が当たらないようにするんですか。

中島

そうですね。とはいえまったく日光を当てないのは無理なので、湿度で管理したりして。でも正直なところ、お庭でも苔を育てるのは難しいんです。枯れてしまって貼りかえることもありますよ。

安田

ああ、やっぱり難しいものなんですね。そういえば、屋久島に苔がすごく綺麗な場所があるんです。「もののけ姫」に出てくるような。そこも確かに一年中水が豊富で、木が茂っていて日陰になってますね。


中島
そうですよね。岐阜のお寺にも苔で有名なところがあります。地盤が低くなった結果、日当たりが悪くなって、湿気が多くなった場所で。そこは特に手入れしなくても、スギゴケがびっしり生えてます。
安田
苔に適している環境なんですね。でも、盆栽で植えている木には日を当ててあげないといけませんよね。本当に苔を育てようと思ったら、木を犠牲にするくらいの気持ちでないといけないのでは(笑)。
中島
それは確かにそうかもしれない(笑)。安田さんが育てている盆栽は桜でしたっけ?
安田
桜以外にもいろいろありますね。実は桜は盆栽にすることを諦めて、植木鉢に植え変えたんですよ。そしたらすごく元気になって、花もよく咲くようになりました。

中島
それはよかった。植木だとやっぱりのびのび育てられますからね。

対談している二人

中島 秀章(なかしま ひであき)
direct nagomi 株式会社 代表取締役

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高校卒業後、庭師を目指し庭の歴史の深い京都(株)植芳造園に入社(1996年)。3年後茨城支店へ転勤。2002・2003年、「茨城社長TVチャンピオン」にガーデニング王2連覇のアシスタントとして出場。2003年会社下請けとして独立。2011年に岐阜に戻り2022年direct nagomi(株)設立。現在に至る。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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