第6回 トゥモローゲート、採用に苦戦中

この対談について

「オモシロイを追求するブランディング会社」トゥモローゲート株式会社代表の西崎康平と、株式会社ワイキューブの代表として一世を風靡し、現在は株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表および境目研究家として活動する安田佳生の連載対談。個性派の2人が「めちゃくちゃに見える戦略の裏側」を語ります。

第6回 トゥモローゲート、採用に苦戦中

安田

いい人材が集まれば、いい仕事ができて業績も上がり、結果顧客満足にも繋がっていく。それ自体は私もまったく同意見なんです。ただ、そのいい人材を、ビジョンとかやりがいでずっと繋ぎ止めていられるか、という部分には疑問符が付くんですね。


西崎

なるほど。

安田

たとえば西崎さん自身がいま若い会社員だったとしてですよ、すごくやりがいある会社で働いていたとしても、いつかは辞めて起業したと思うんです。


西崎

確かにその通りですね。

安田

そう考えると、いい人材をずっと会社に留めておくことは果たして可能なんだろうかと思うわけですよ。社長自身は誰にも雇われたくないのに、自分のところの社員は雇い続けたい。ここに矛盾は感じませんか?


西崎

なるほど(笑)。ウチの会社ということで言えば、そもそも起業家思考向けの採用をやってこなかったので、あまり考えたことはないですね。

安田

なるほど。いわゆる独立志向の人は採用しないと。


西崎

採用しないこともないんですが、独立志向であるかどうかを重要な基準にはしていませんね。たとえば安田さんの古巣であるR社も、僕が新卒で入ったV社も、完全に独立志向型の人向けの採用だったじゃないですか。

安田

そうでしたね。「ジャパニーズドリーマー集まれ!」「将来起業したい奴募集!」みたいな(笑)。


西崎

そうそう(笑)。僕も安田さんもそこに惹かれたタイプだったわけですが、いまのトゥモローゲートの事業で言うと、あまり起業に向いているビジネスモデルじゃないんですね。

安田

ああ、なるほど。完全に分業体制の業務だって仰ってましたもんね。


西崎

そうなんです。一方で、僕や安田さんがいた会社って、新規開拓からフォローから売上回収まで、ある意味自分1人で完結できたじゃないですか。つまり起業向きの業務だった。

安田

まぁそうですよね。お金の流れがぐるっとわかるような業務ではありますよね。働いている人のタイプ的にも、会社がわざわざモチベーションを管理してあげなくても、勝手に学んで勝手に起業していくイメージです。


西崎

ええ。それに比べるとうちの業務は対照的で、常にチームで動くんですね。そもそも「独立したい方集まれ」とも言っていないし、業務的にもそっちの方向じゃない。

安田

なるほど。でもどうなんですか、面接とかで「いつかは起業したいと思っている」って言ってくる子はいませんか?


西崎

あ、いますよ。先ほどもお伝えしましたが、そこを重要な基準にはしないだけで、実際に独立志向の人材も採用してますし。でも、やっぱりそういう方の場合、別のところで突出した能力をもとめてしまいますよね。

安田

ああ、つまり「3年で辞めます」っていう人と「ずっと御社で頑張ります」という人だったら、後者の方を採用すると。


西崎

そうですねぇ。辞める宣言してる人の能力が100、してない人が80だったとすると、80の方を採用するかな。100の人が3年務めて300の成果、80の人が5年務めると400の成果なので。ただ、宣言してる人が120あるなら、そちらを採用しますね。

安田

それはそうでしょうね。まぁ、起業するかどうかは一旦置いておくとしても、今の時代、定年まで1つの会社で働くという人のほうが珍しいわけじゃないですか。


西崎

確かにそうですね。

安田

昔だったらね、「40歳まで1度も転職したことがありません」って人は、愛社精神が強い頑張り屋さんだと思われたんです。でも令和の時代にそんなこと言ってたら、「ちょっとあなた大丈夫?」と心配されてしまう。


西崎

転職自体が、キャリアアップの手段という感じですもんね。

安田

そうそう。新卒で大手に入ってしっかり研修してもらい、そこでビジネスマナーを覚えたら次はもう少し専門的なスキルを学べる会社に行って、それが手に入ったらそのスキルを使って起業する、みたいな。


西崎

ええ。今だとむしろ、どういう会社を何社渡り歩いてきたか、でその人の能力を測ったりしますしね。

安田

そうなんですよ。だからこそ、私はいい人材を1つの会社が雇い続けるのは難しいと思う。言い換えれば、「卒業前提」で入社をしてもらう時代になるんじゃないかなと。


西崎

そうですね。もちろん僕個人として「退職有りき」で採用をしているわけじゃないですが、現実として退職者がゼロということはあり得ませんから。

安田

それはその通りなんですが、私が提唱したいのはもう少し踏み込んだ採用で。つまり会社側で出口を設定してしまうんです。たとえば「5年間での卒業が前提の採用です」と。その方が優秀な人材が集まる気がする。西崎さんはどう思いますか?


西崎

なるほど~。その発想はなかったです。でも僕はやらないですね(笑)。

安田

笑。でもハッキリ言えば、西崎さんみたいに定着を優先すると、採用レベルが下がるんじゃないかと思うんです。もちろん、「5年後絶対出て行ってね」というわけじゃなく、「その時に卒業するか続けるか選んでね」でもいいと思いますけど。


西崎

なるほど……優秀な人材を採用するという視点ではその考え方はありですね。ただ僕の場合好きな人と仕事したいって想いが強くて、コロコロメンバーが変わるのが嫌なんですよね。だから採用に苦戦してるんだと思います(笑)。

安田

え? トゥモローゲートさんは採用に苦戦しているんですか? 応募なんてめちゃくちゃ来そうですけど。


西崎

ええ、単純に応募だけで言えば、いくらでも来ます。

安田

ああ、なるほど。入りたい人はいっぱいいるんだけど、欲しい人が来ないと。


西崎

スキルが高い人っていうのはたくさんいるんです。でも、うちはやっぱりそこにマインドフィットも求めるので……なかなか簡単ではないですね。

安田

確かに両方フィットする人って、なかなかいないのかもしれません。う~ん、いやでも、そんなこともない気がするんですよ。


西崎

と言いますと?

安田

たとえば、愛社精神を求める日本企業に対して、外資企業って「ドライ」だと思われることが多いじゃないですか。でもAppleとかMicrosoftとかで働いている人って、ものすごく愛社精神が強いんですって。


西崎

ああ、つまりスキルだけじゃなくマインドもフィットしていると。

安田

そうそう。なんだけど、彼らはやるべき仕事を終えたり、スキルを充分に得たら、やっぱり卒業して別の会社に行く。


西崎

ああ、つまり、高いスキルと愛社精神が両立している。そしてそれらが両立していても、卒業していくものだと。

安田

仰るとおりです。だからスキルとマインド両方を求めることと、卒業前提の採用をすることは矛盾しないんじゃないかと。むしろそれを公言することで、AppleMicrosoftに集まるような優秀な人材も応募しやすくなるんじゃないでしょうか。


西崎

マインドフィットの考え方かもしれないですね。僕らが求めているのが愛社精神ではないんですよ。「押し付けではなく、目指している生き方が一緒の仲間を集めて、そのビジョンを一緒に実現する」。だからなかなかそういう人材がいないんでしょうね。

安田

なるほど。


西崎

一緒にこの会社を作ってきてくれた人たち、役員はもちろん今のマネージャーやサブマネージャーたちと、これからも一緒に頑張っていきたいんです。安田さんの考えは理解できますし、確かに効果的かもしれないと思うんですけど。

安田

でも気持ちが乗らないと(笑)。


西崎

はい。さらに言うと僕らしい生き方じゃないなと(笑)。

安田

笑。なんていうか西崎さんって、めちゃくちゃ合理的に経営されているようでいて、その実ものすごくウェットですよね。話せば話すほどそう思います。


西崎

そうなんです。意外とね、アナログな人間なんですよ(笑)。


対談している二人

西崎康平(にしざき こうへい)
トゥモローゲート株式会社
代表取締役 最高経営責任者

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1982年4月2日生まれ 福岡県出身。2005年 新卒で人材コンサルティング会社に入社し関西圏約500社の採用戦略を携わる。入社2年目25歳で大阪支社長、入社3年目26歳で執行役員に就任。その後2010年にトゥモローゲート株式会社を設立。企業理念を再設計しビジョンに向かう組織づくりをコンサルティングとデザインで提案する企業ブランディングにより、外見だけではなく中身からオモシロイ会社づくりを支援。2024年現在、X(Twitter)フォロワー数11万人・YouTubeチャンネル登録者数18万人とSNSでの発信も積極的に展開している。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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