vol.117【『無』|喪失のイメージを描いてほしい、アナログでもデジタルでも制作するアーティストSさんの場合】

 この記事について 

自分の絵を描いてもらう。そう聞くと肖像画しか思い浮かびませんよね。門間由佳は肖像画ではない“私の絵”を描いてくれる人。人はひとりひとり違います。違った長所があり、違った短所があり、違うテーマをもって生きています。でも人は自分のことがよく分かりません。だからせっかくの長所を活かせない。同じ失敗ばかり繰り返してしまう。いつの間にか目的からズレていってしまう。そんな時、私が立ち返る場所。私が私に向き合える時間。それが門間由佳の描く“私の絵”なのです。一体どうやってストーリーを掘り起こすのか。どのようにして絵を紡いでいくのか。そのプロセスをこのコンテンツで紹介していきます。

『無|喪失のイメージを描いてほしい、アナログでもデジタルでも制作するアーティストSさんの場合』

 

「喪失のイメージを思い出しました。
水の気配です。これを描いてほしいです」

セッションで今の仕事や生活から今までのことまで様々に話した後に、Sさんがキッパリと言いました。

クライアントにとりとめなく自由に話してもらうことを、マインドマップに書き留めていくと、話のどこかで描いてほしいものがポン、と浮かんでくることがよくあります。Sさんは、子供の頃の記憶を生き生きと語り始めました。

「子供のころ、たくさんの友達と仲良く遊んでいた学校から地方の学校に転校しました。当たり前なのですが、転校先の学校には友達がいません。しかし、小学生だったので、友達がいないことに大きなショックを受けました。今、大人として振り返ると、世界が変わる喪失感を知ったのだと思います。

そして、この頃、‥‥なぜか繰り返し川の夢を見ました。

だから、私にとって、喪失は川、水のイメージです。

喪失を描いてほしいって、ちょっと不思議に思われるかもしれません。でも、私にとって、喪失は東洋的無なのです。東洋的な『無』は、『有』の裏返し。

アイデアや発想、勇気があればなんでもできる。そんな発想ができるのが、東洋的な『無』だと思うのです。

だから、喪失を感じる水を描いてもらいたいのです」

人は生まれて、成長し、大人になる中で、無数の体験を重ねます。

毎日のなかで最高に嬉しかったことも、心が痛む悲しかったことも
忘れていることが多いですが、それは心の奥深くにあります。

無意識の世界は、無や悟り、もののあわれなど、東洋では昔から積極的に肯定されてきました。例えば、老子は紀元前の哲学者です。

一方、西洋の哲学者では、「無意識は非合理なもの」、と考えるのが一般的でした。しかし、
第一次世界大戦が大きな転機になります。戦争の中で起こった様々な不合理を前にして、「二千年にわたる理性中心の西洋文明観を乗り越え、非合理な無意識の世界を認めることができた」とカント学者のフランツ・アレクサンダーの父は言いました。

そして、心理学で無意識の研究が始まりました。しかし、心理学の巨匠、フロイトとユングで無意識の解釈は違いました。現在でも、いろんな分野でさまざまな説が言われています。
私は、ドクターと科学的な議論をする機会がありますが、画家/ビジョンクリエイターとしては、心には数値化や再現化できない部分が残るので、いろんなアプローチがあっていいと考えています。

何よりも大切なのは、一人ひとりが、幸せになったり、成長したり、ビジョンを掴むことができること。
絵と言葉で目の前にいる人に語りかける中で、いちばん効果があるものを探し出し、作品に表現して届ける。それを何より大切にしています。

Sさんは、写真そっくりに見えるような見事な写実的な絵を描いて賞をもらう画家であり、デジタルで描くイラストレーターとしても活躍してきました。そのSさんが、あえて私に絵をオーダーする理由は何なのか。

「門間さんには、私にない作品発想があります。だから、自分が思いつかない、水のイメージ、見たことのない水のイメージが見たいのです。

以前、白、緑、黄色により描かれた、体験オーダーで描いてもらった水の配色が好きなので、門間さんにこの配色を使って描いて欲しいです。

今回は、濃い緑の部分から湧き出てくる感じ。ブルーホール(英:blue hole)は、かつての洞窟や鍾乳洞といった地形が何らかの理由で水に沈んで、浅瀬に穴が空いたように見える地形のことです。

解釈の幅がとてつもなく広い水の世界‥‥。それでいて、自分を絵の中にすっぽり入れてしまえると感じる、手のひらサイズで掬えそうとも感じる‥‥、そんな世界です」

確かに‥‥、そういった心の世界を描くのは、私の得意分野です。

セッション後、アトリエに戻り、構想の絵を描きました。
2回目のセッションでは、絵を見ながら話すことになります。

そして、Sさんが構想の絵を見て、

「構想の絵が好きすぎます!」

と、携帯の待ち受けにするくらい気に入ることになるのです。

さらに、「構想をもとに本画を作ってください」
今までにない、オーダーメイド絵画の制作パターンに発展していくのですが、
それはまた次の物語です。

今回完成した作品 ≫『無』構想画

 

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 著者の自己紹介 

ビジョンクリエイター/画家の門間由佳です。
私にはたまたま経営者のお客さんが多くいらっしゃいます。大好きな絵を仕事にしようと思ったら、自然にそうなりました。

今、画廊を通さないで直接お客様と出会い、つながるスタイルで【深層ビジョナリープログラム】というオーダー絵画を届けています。
そして絵を見続けたお客様から「収益が増えた」「支店を出せた」「事業の多角化に成功した」「夫婦仲が良くなった」「ずっと伝えられなかった気持ちを家族に伝えられた」「存在意義を噛み締められた」など声をいただいています。

人はテーマを意識することで強みをより生かせるようになります。でも多くの人は自分のテーマに気がついていません。ふと気づいても、すぐに忘れてしまいます。

人生

の節目には様々なテーマが訪れます。

経営に迷った時、ネガティブになりそうな時、新たなステージに向かう時などは、自分のテーマを意識することが大切です。
また、社会人として旅立つ我が子や、やがて大人になって壁にぶつかる孫に、想いと愛情を伝えると、その後の人生の指針となるでしょう。引退した父や母の今までを振り返ることは、ファミリーヒストリーの貴重な機会となります。そして、最も身近な夫や妻へずっと伝えられなかった感謝を伝えることは、絆を強めます。そしてまた、亡くなった親兄弟を、残された家族や友人と偲び語らうことでみなの気持ちが再生されます。

こういった人生の起点となる重要なテーマほど、大切に心の中にしまいこまれてカタチにしづらいものです。

でも、絵にしてあげることで立ち返る場所を手に入れることができます。

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