第123回 バランスの悪いお店に惹かれる訳

 本コラム「原因はいつも後付け」の紹介 
原因と結果の法則などと言いますが、先に原因が分かれば誰も苦労はしません。人生も商売もまずやってみて、結果が出たら振り返って、原因を分析しながら一歩ずつ前進する。それ以外に方法はないのです。28店舗の外食店経営の中で、私自身がどのように過去を分析して現在に至っているのか。過去のエピソードを交えながらお話ししたいと思います。

私には休日に家族でたまに食事に行く、お気に入りの個人経営レストランがあります。
4人がけテーブルが5卓の店内でオーナーさんと数人のアルバイトさんが働く、こぢんまりとしたレストラン。

5年以上前から使わせてもらっているので、合計すればかなりの時間をお店で過ごしていることになります。

こんな事を書くと私がさぞ、お店のオーナーさんと仲が良いのだろうと思われる方もいらっしゃるかも知れません。

でも、実際は違います。
実は私、このお店のオーナーさんとほとんど話をしたことがないのです。

なぜ、そんなに通っているのに話をしたことがないのか。
それは、このオーナーさんが厨房に入りっぱなしで全く接客をしないからなのです。


全く接客をしないオーナー。
この言葉には、どこかしらマイナスの印象があります。

にも関わらず、私はなぜこのお店に通いたくなってしまうのか?
自分自身で改めて考える、その答え。

それは料理が美味しいのはもちろん、それに加えてオーナーさんの料理に対するこだわりを応援したい気持ちがあるからだと思うのです。

先ほど私は「オーナーさんが厨房に入りっぱなしで全く接客しない」と書きました。
確かにこう書いてしまうとマイナスの印象になりますが、これは逆に考えると「美味しい料理を出すことにこだわっているために接客できない」とも言えます。

小さな個人店を経営するならば、オーナー自らがお客さんにサービスするのは当然と考える方は多いでしょう。事実、私もそう考えていたからこそ、開業後は率先して接客をしていた訳です。

でも、このお店で食事をしていると、ふと思うのです。
「もしこのオーナーさんが『料理もそこそこ、接客もそこそこのお店』を経営していたら、果たして私はここまでお店を応援したい気持ちになったのだろうか?」と。

お店全体のバランスで考えるならば、その方が良いのかも知れません。
ただ、商売においてはバランスを取ろうとすればするほどお店の強みは失われ、強みを失ってしまったお店は結果的に応援してくれるお客さん自体も失ってしまうことになると思うのです。

つまり、バランスが偏っているからこそ強みを維持できているのであり、強みを維持することに集中し続けているからこそお客さんからの信頼や応援が集まっている、いうこと。

そう考えるのであれば、「一見バランスが悪そうに見えるお店こそ、実はバランスの良いお店」であり「一見バランスが良さそうに見えるお店こそ、実はバランスが悪いお店」と言えるのではないでしょうか。

本当のバランスの良さとは、偏りの中にあるという事実。
商売とは面白いものだと、このお店で食事をする度につくづく思うのです。

 

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著者/辻本 誠(つじもと まこと)

<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。
https://tsujimotomakoto.com/

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