バームクーヘンで有名な大阪の洋菓子店が求人の件で訴えられたとヤフーニュースになってましたね。
はい。正確には訴訟ではなく労働審判ですが・・。大変なことになってます。
求人サイトには月給35万以上って書いてあったにもかかわらず、働き出したら試用期間が25万で、さらに試用期間が終わったら17万に減っちゃったっていう。
そうみたいですね。
こういう案件って多いんですか。
多いですね。人があまりに採れないので。求人広告は高めに出すんだけど、いざ来させてから低く交渉するという。
工場の生産ラインって、そんなにパフォーマンスが変わる仕事じゃないと思うんですけど。試用期間で下げる理由なんてあるんでしょうか。
ないでしょうね。
インタビューでも、「ちょっと良く見えるように提示しただけです」みたいなことを答えてます。
言ってましたね。「閲覧者を増やすために給与額を高くしたものにすぎません」とか。
何が「すぎません」なんだって感じですけど(笑)
これは駄目だと思いますよ。誇大広告になりますから。
なりますよね。初任給に手当が入ってんのすら駄目な時代なのに。Indeedってこんなに遅れてるんだと思いました。労働審判の結果はもう出てるんですか?
いや、労働審判の結果は公表されないので分からないです。
雇用契約書には基本給16〜25万となっていて、残業代の明記がなく、「男性上司が口頭で月給35万円と言ったから署名した」とのことです。
口頭でも契約は成立しますから。ただ労働基準法で雇用契約書は必ず書かなきゃいけないんです。
契約書に書いてなければ、法的拘束力はないってことですか。
いや、口頭で合意したことに関しては、これはもう法的効力はあるんです。
それと書面が違うってことが問題じゃないですか。雇用契約書には基本給16〜25と書いてあって、残業代の明記がなかった。だけど口頭では月給35万と言われてた。
そのようですね。
試用期間が終わって給料が下がるのは、能力が低かったらしょうがないんでしょうか。
それもちゃんと書いておかないと下げられないです。
求人の段階で書いておかないといけないってことですか。
求人の段階でも書いとかなきゃいけないですし、雇用契約書にも「試用期間中は25万で、その期間中に具体的に〇〇の仕事ができなかったら17万円に下がります」ということを書いて。もちろん教育もしないといけません。
書いてあれば下げられる?
書いてあっても下げられるかどうか分からない、というレベルですね。
書いてなければ到底下げられないってことですか。
そうです。
そもそも試用期間って、雇用契約を結ぶ必要があるんですか?
あります。雇用契約書に試用期間何カ月って書いてあるか、最悪書いてなくても、口頭で伝えて、就業規則に試用期間というのが明記されてないといけない。
つまり試用期間も雇用期間の範囲に入るってことですか。
そうです。試用期間であろうが社会保険は加入させなきゃいけないし、給与も下げないことが前提です。
なるほど。今回は「未払いの差額200万円を払え」という労働審判らしいですけど。これは企業が払わざるを得ないですよね。
どうなるか分かりませんが会社側は不利ですよね。
ゼロでは済まないですよね。
そうですね。求人広告にもそう書かれてますし。もし仮に雇用契約書がなかったら、致命的に負けると思います。基本的には募集広告を見て来てるので。
広告に書いた通りに払わなくちゃいけないと。
その通りに給与が払われるもんだという認識で、口頭で合意してるから。それが労働条件になる。
でも言ったかどうかって証拠がないじゃないですか。録音してないから。それで大丈夫なんですか。
言った、言わないの話になります。「35万です」と上司が言った確認が取れるかどうかがポイントです。
ですよね。
ただ入口の求人が35万だったよねってところと、それなのに雇用契約が25万とかで、最終17万になっちゃったっていう、そこが問題じゃないですか。
求人サイトに35万って書いてる時点でアウトってことですか。
たとえば20万〜35万って書いてあって、20万円っていうのはしょうがないと思うんです。
月給35万円以上、残業代含むって記載されてたらしいです。
書き方に悪意がありますよね、ちょっと。
求人数を増やすために「あえて高く出してるだけ」なんて、開き直ってますけど。こんなこと言っちゃう時点でリテラシーの低さを感じます。
こんなこと言っちゃうと人が来なくなりますよ。
ですよね。
ハローワークだと、そもそもそういう求人は載せないようにしてます。
そりゃそうですよ。Indeedの情報を見ると「週休二日制で月給35万〜50万」になってます。想定年収400万から700万になっていて。
ちょっと無茶苦茶ですね。
こんなことが許されたら、もう書きたい放題じゃないですか。入ってから問題になるに決まってるし、辞めた人がSNSに書いたりするでしょうし。
SNSで炎上して厳しいことになりますね。
そもそも今どき17万で人を雇おうなんて。ここまでしないと利益が出ないこと自体、「ビジネスとして成り立ってないぞ」ってことですよね。
そうですね。嘘なんて書いてもろくなことないです。どうせ辞められちゃうし。
まともに書いたら人が来ない。嘘をついて採用して、それで文句も言わず働いてもらわないと成り立たないって、もうビジネスとして成立してないですよ。
そう言われてもしょうがないです。
これも根っこは安売りが原因なんでしょうか。
このケースは詳しく調べないと分かりませんけど。一般的にはそうですね。
人を安く使うのではなく、商品を値上げして売る努力をしろと。
それができない会社はもう生き残っていけないです。
やっぱり結論はそこに行き着きますね。
ただ今回のケースはちょっとひどいです。
なるほど。起こるべくして起こった事件という感じですね。
久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/
安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。