さよなら採用ビジネス 第22回「日本型大企業の未来」

この記事について

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回のおさらい 第21回「デフレがもたらす新世界」


安田

ライザップとか、日産とか、社長レベルの交代劇が多いですよね、最近。

石塚

そうですね。

安田

石塚さんからすると「まあ、こんなこと、しょっちゅうあるよ」程度のことなんですか?

石塚

「しょっちゅう」って言うと語弊はありますけど、まあ、よくある話ですよね。

安田

「社外から引っ張ってきた社長」だからでしょうか。あんなにポンポン交代するのは?

石塚

別の面から光を当てれば「オーナー企業だから」とも言えますね。

安田

どういう意味ですか?

石塚

プロ経営者の需要って、ほぼオーナー系企業なんですよ。

安田

それは、なぜですか?

石塚

人がいないから。

安田

あ~。社長がひとりで引っ張ってきて、社長以外ぜんぶイエスマンになっちゃってるみたいな。

石塚

おっしゃるとおりです。日本のプロ経営者市場って、9割ぐらいはオーナー経営もしくはオーナー創業家が強い会社で求人が発生しますね。

安田

そこにしかポジションはないと?

石塚

ライザップもオーナー企業じゃないですか。

安田

日産は、そうでもないですけど。

石塚

日産は外資救済型で、ルノーに支援を求めたら「やり手のゴーンを送ってきた」っていう、どちらかというと派遣型ですね。

安田

なるほど。外資による救済&派遣型ですか。

石塚

日本から見たら救済。外資から見たら単なる買収です。

安田

確かに。「支援してくれてありがとう」みたいな話になってましたけど、つまりは身売りですもんね。

石塚

おっしゃるとおりです。

安田

ルノーが利益を「搾取してる」みたいに言ってますけど、「今さら」って感じですよね。

石塚

はい。あのときクビを切られた人が、なんか恨み節言っていますけど、僕は冷ややかに見てますね。

安田

あのとき、もしゴーンさんじゃなかったら、どうなってたんでしょうね。

石塚

日産を倒産させるわけにはいかないですから、たぶん当時の産業再生機構が「日の丸企業」として助けたでしょうね。

安田

JALみたいなパターンですか。

石塚

JAL、ダイエー、カネボウと、いくつか前例がありまして、僕はてっきり日産もそうなると思っていました。

安田

どうして、そうならなかったんですか?

石塚

当時はメルセデスとクライスラーが提携したり、自動車業界がスケールを求めて積極的に資本提携をしていった時期なんですよ。

安田

その流れで資本提携したと?

石塚

はい。そのトレンドのほうが強くて、ルノーが「日産を取り込む」という判断になったんでしょうね。

安田

自動車産業はすでに寡占化してますけど、家電なんかもそうなりますよね?

石塚

なるでしょうね。

安田

シャープなんかも、もはや台湾の企業ですもんね。

石塚

あれも救済ではなく、単なる身売りです。

安田

日本人は「日の丸企業」が好きですけど、ある程度大きな会社って、今後は「純日本企業」ではいられなくなると思いませんか?

石塚

産業によると思いますね。国をあげて救済するのか、それとも外資と合併して飲まれて行くのか。

安田

それでいけば日産は「国が助けるべき」だったんじゃないですか?自動車は日本の基幹産業でしょ?

石塚

いや自動車は、いちばん政府の庇護が得られない産業なんですよ。

安田

え!そうなんですか?

石塚

覚えてませんか?鳩山政権のとき、トヨタはアメリカで訴訟起こされたんですよ。

安田

そんなことも、ありましたね。

石塚

あのとき豊田章男社長は、アメリカの公聴会で証言を求められた。

安田

はい。そうでした。

石塚

どの先進国も基本的に、その国のナショナルフラッグを背負ってる会社は庇護するんですけど。

安田

そうじゃなかったと?

石塚

当時の鳩山首相は「関知しない」って言ったんですよ。

安田

自民党だったら違ったかもしれませんね。

石塚

あるいは、そうかもしれません。ただ30〜40年前に為替が自由化されて、自動車業界が苦しんでいる時も、政府は介入しなかったです。

安田

そうなんですか?

石塚

政府が介入して輸入車に高い関税を掛けるとか、やらなかったじゃないですか。

安田

なるほど。それで、どうなったんですか?

石塚

政府の庇護を得られなかったがゆえに、グローバル化が進んで、強くなって行ったんですよ。

安田

いいことじゃないですか。

石塚

そうですね。ただ、もはや日本車は組み立ても、部品の調達先も、世界中に広がっています。

安田

もうすでに「純日本企業」ではないと?

石塚

そう思いますね。

安田

では今後、政府が守って行く「純日本型大企業」とは、どんな産業ですか?

石塚

金融なんかは、国を挙げて守って行くんじゃないですかね。

安田

そういう「国を挙げて守ろうとしている大企業」って、今後どうなるんでしょうか?コストカットも含めた大胆な改革って、なかなか日本人だけでは出来ないですよね?

石塚

出来ないでしょうね。

安田

ゴーンさんみたいに優秀な人を、海外から引っ張ってくることになるのでしょうか?それとも国内でプロ経営者を見つけるか。

石塚

いや、下から上がって経営者になるのが基本。そこは変わらないでしょうね。

安田

やっぱり、変わりませんか。

石塚

はい。変わらないと思います。

安田

何割ぐらいですか?

石塚

経営上、何も問題がなければ、10割そうだと思います。

安田

何と!10割ですか。

石塚

はい。これはもう崩せないと思います。外部招へいがあるとしたら、経営危機が起こった場合だけ。

安田

経営危機になる前に、手を打ったほうが良くないですか?

石塚

そうは、ならないんですよ。日産にしても、シャープにしても、どうにもならなくなってから、経営交代だったでしょ。

安田

でもその場合って、もはや身売りじゃないですか?

石塚

そうですよ。身売りです。それでしか変わりません。

安田

じゃあ、いわゆるサラリーマン型の大企業は、今までと同じように、下から上がってきた調和型、忖度型の社長が続くってことですか?

石塚

はい、続きます。

安田

で、どこかで経営危機になって、結局は身売り?

石塚

このままいけば、そうなりますね。

安田

でも、国を挙げて救済するんですよね?

石塚

やろうとはするでしょうね。

安田

でも出来ない?

石塚

すべての大企業を救済することは不可能です。

安田

オーナー型のところは、どうなるんですか?

石塚

これまで通りやるんだったら、一族の誰かが引き継ぐか、番頭をおいて経営を任すか。

安田

それでうまくいかなくなった場合は、外部からプロ経営者を連れてくる可能性も?

石塚

あるでしょうね。

安田

それで、うまくいきますか?

石塚

いずれは、合併や資本提携をして、ホールディングス化して行くでしょうね。

安田

それでオーナーさんはどうなるんですか?

石塚

段階的に、株を売っていくんじゃないでしょうか。

安田

じゃあ、どちらにしても、純日本型大企業は、なくなって行くと?

石塚

可能性は高いですね。

安田

でも日本って、100年以上続く会社が、世界でいちばん多い国ですよね?それだけの継続力と安定感があったということですよね?

石塚

おっしゃる通りで日本は100年以上続く会社が、世界でいちばん多い国です。ちなみに第2位はドイツです。

安田

ドイツですか?

石塚

ドイツ含めてヨーロッパに共通するのは、みんなファミリービジネスだという点です。

安田

日本はファミリー型の経営がうまくないってことですか?

石塚

同族企業の血の結束みたいな点では、日本もべつに下手ではなかったと思います。

安田

では、日本型大企業が弱くなってしまった原因は他にあると?

石塚

はい。

・・・第23回へ続く・・・


石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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