第26回 経営者出身の政治家が結果を残せない2つの理由

この対談について

国を動かす役人、官僚とは実際のところどんな人たちなのか。どんな仕事をし、どんなやりがいを、どんな辛さを感じるのか。そして、そんな特別な立場を捨て連続起業家となった理由とは?実は長年の安田佳生ファンだったという酒井秀夫さんの頭の中を探ります。

第26回 経営者出身の政治家が結果を残せない2つの理由

安田
「経営者出身の政治家」って、私の知ってる人も何人かいるんですけど。例えばタリーズの社長だった松田さんや、ワタミの渡邉社長もそうですね。彼らは「外野から意見を言うだけでは国は変わらない」と想って政治家になられたと思うんです。

酒井
そうでしょうね。
安田
でも実際には、「何かをやった」という印象すらないまま終わっている気がして。経営者出身の政治家ってぶっちゃけどうなんですか?

酒井
役人の考えとして、経営者経験のある方に政治家になってほしい、というのはあると思います。話せばわかるというか、合理的な話ができるので。
安田

ははぁ、なるほど。国家運営もある意味で経営ですしね。でも、だとするとなぜ、経営者出身の政治家は活躍しないまま終わっちゃうんでしょう。


酒井
理由の一つとして、今の自民党のシステムでは「当選回数が全て」なんですよ。経験がある人もない人も、当選回数が1回より2回が偉い、2回より3回が偉い。
安田

へぇ。何回か当選すると昇進したりするわけですか。


酒井
まさにその通りで、政務官や副大臣になるにも当選回数が重視されます。また、国会の中には、外交防衛、財政金融、経済産業といった委員会がありますが、「どの委員会に行きたい」という希望も、当選回数が上の人が優先されるんです。
安田

じゃあ、当選回数が少ない人は、人気のない委員会に行かされるかもしれないということですか。


酒井
まあ、そういう可能性はありますね。なお、衆議院は任期途中で解散して総選挙をするじゃないですか。で、選挙があって当選すれば、任期が短くても、それは1回とカウントされるんです。
安田
へぇ、なるほど。つまり、「何回任期を務めたか」ではなく、シンプルに「何回当選したか」が重要だと。

酒井
しかもそれは国会の中でしか見ていないんですよ。例えば前三重県知事の鈴木英敬さんは、経産省時代の私の後輩なんですけど。
安田
ああ、私もお会いしたことがあります。

酒井
ああ、そうでしたか。彼は知事経験があるわけですけど、衆議院での当選経験は1回しかないわけですよ。そうすると、衆議院議員としては一番下っ端なんです。
安田
えっ、知事までやっていても下っ端なんですか。

酒井
そうなんです。県知事として自民党の先生方と渡り歩いた経験があっても、あくまで「1回目の人」に戻っちゃう。
安田
へぇ。「総理になる近道」として知事を選んだように思ってましたけど、そういうわけでもないってことですか。

酒井
彼もそのつもりで衆議院に出たんだとは思います。さすがに彼ぐらいになると他の人よりも出世は早いでしょうしね。ただ、今回のテーマである「元経営者の政治家」という意味で言えば、経営者としてどれだけ実績があろうが、政治家としては下っ端からのスタートになるよね、という話で。
安田

世の中的に有名だったり、たくさんお金を動かせる社長だとしても関係ないと。


酒井
ええ。裏でいろいろあるかもしれませんが、少なくとも表面上の自民党のルールとしては関係ないです。
安田
なるほど。それが経営者出身の政治家が結果を出せない理由だと。

酒井
ええ。一方で経営者出身の政治家自身の原因もあるんじゃないかと思っていて。ワタミの渡邉社長のように一代で大きな会社を作ってお金も相当稼いで、社員は全て自分に従う体制を作って……そんなオーナー社長を20年やった人が、いきなり下っ端の仕事をするのはやはり難しいんじゃないかと。
安田
ああ、プライド的に難しいと。

酒井
そうそう。「とりあえず全議員の事務所に挨拶回りをしてこい」とか普通に言われるので(笑)。上の人が忙しいときに「代わりに全部の陳情を面談して聞いてこい」とか(笑)
安田

ビジネス界で有名人になって、さらに衆議院議員にまでなれば、皆から「いろいろ教えてください」なんてチヤホヤされると思ったら(笑)。


酒井

そんな状態から、「イチからコツコツ修行しよう」とはなかなか思わないんじゃないですかね。

安田

思わないですよね。でも田中角栄さんだって元は新潟の経営者から総理大臣になったわけで。ああでも、彼はそれこそ役人の名前を全部覚えていたという話もありましたもんね。そういう地味なところからコツコツやったんでしょうね。


酒井

ビジネスの世界でも、会社を始めてすぐは新入社員の名前を必死に覚えたりするじゃないですか。でも経営者歴の長い渡邉さんや松田さんがそういうコミュニケーションをしていたかというと、それはもう部下に任せていた世代なんじゃないかな。

安田
なるほどねぇ。ということは能力があるない以前の問題だったわけですか。

酒井
「下っ端から始める」っていう、一番初めのハードルを突破できなかったっていうことでしょうね。
安田

でもそれって、政治の世界に入る前にわかりそうなものだと思うんですけど。


酒井
そこは私も不思議に思っていて。政治に詳しい方も近くにいたはずなので、わかってはいたけど想像以上だったのか、はなからわかっていなかったのか……
安田
ちなみに自民党側から声がかかって「ぜひ立候補してください」って頼まれたとしても一緒なんですか?
酒井

ええ、一緒ですね。

安田
「そっちから声をかけたんだから特別扱いしろよ」というのは通用しないわけですね(笑)。
酒井

通用しません(笑)。でも、たとえばタレント議員さんなど、そもそも政治のことがわからないという場合だと、代わりに優秀な秘書を付けることはありますよ。

安田
ああ、でも渡邉さんや松田さんはそういう秘書をつけたがらないでしょうね。
酒井

ええ。信用してる部下とか、自分のロジックがわかる人と一緒にやりたいと思うでしょうから。自民党の話にまんま乗っかるような、旧態依然とした秘書は雇わないと思うんですよね。

安田
なんだか聞けば聞くほど自民党が日本を変えれる気がしなくなってきました……(笑)。
酒井

ちょっとずつは変わってきていると思うんですけど、大きな変化はなかなか難しいでしょうね。


対談している二人

酒井 秀夫(さかい ひでお)
元官僚/連続起業家

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経済産業省→ベイン→ITコンサル会社→独立。現在、 株式会社エイチエスパートナーズライズエイト株式会社株式会社FANDEAL(ファンディアル)など複数の会社の代表をしています。地域、ベンチャー、産官学連携、新事業創出等いろいろと楽しそうな話を見つけて絡んでおります。現在の関心はWEB3の概念を使って、地域課題、社会課題解決に取り組むこと。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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