さよなら採用ビジネス 第42回「生き残ればひとり勝ち」

この記事について

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第41回「3社目理論の真実」

 第42回「生き残ればひとり勝ち」 


安田

私、仕事柄いろんな業界の相談を受けるんですけど。

石塚

はい。

安田

「いい加減、見切りをつけて、新しいことをやろうと思ってます」という相談。

石塚

多いでしょうね。あらゆる業界のマーケットが、今シュリンクしてますから。

安田

で、私は「既存のビジネスモデルに変化を加えよう」ってアドバイスするんですよ。

石塚

安田さん得意ですもんね。ちょっと、ひねったりするアイデア。

安田

私はひねくれているので、ひねるのが好きなんです。

石塚

(笑)

安田

でも石塚さんは、意外と「最後まで残ったものが独り勝ちする」って、おっしゃいますよね?

石塚

はい。「生き残れば、ひとり勝ち理論」と言います。

安田

そういうケースを見たことがあるんですか?

石塚

これ、いくつも事例あるんですけど。

安田

ほう。

石塚

たとえば業務用金物屋さんって、昔は何軒もあったんです。

安田

はい。金物屋さんは、近所にもありましたね。

石塚

でも今は、人手不足だとか、後継者がいないとかって、どんどんなくなって。

安田

「金物屋では食っていけなくなった」ってことですよね。

石塚

それがですね、儲かってたりするんですよ。

安田

それはどういう理由で?

石塚

だって、どこにもないわけですから。ガテン系の職人さんはみんな、遠くても不便でもそこに買いに行くしかない。

安田

なるほど。シュリンクしてるけど、ゼロになったら困ると。

石塚

困る人がいて、残った店に集中する。たとえば練炭なんて、もう使わないじゃないですか?

安田

練炭?使いませんね。

石塚

でも、練炭使う焼肉屋とかには、ご飯食べに行きますよね?

安田

確かに!行きますね。

石塚

ガスとか、IHとかで、練炭ってものすごくマーケットが減ったんですけど。

安田

でもゼロではないと。

石塚

絶対、使うところがあるじゃないですか?で、最後に残ったところが、それを供給する。

安田

なるほど。

石塚

これを「残存者利益」って言うんですけど。

安田

でも市場がシュリンクしてる途中で、値段たたき合ったりしますよね?

石塚

はい。しますね。

安田

それで利益が出なくなるんじゃないですか?

石塚

けど、そこを耐え忍べば、値段上げることも可能になる。

安田

そこしか買える場所がないから?

石塚

おっしゃるとおり。

安田

なるほど。言われてみれば、氷屋さんとかもそうですよね?

石塚

同じですね。マーケットは小さいけど、必ず残ります。

安田

どうしても「かち割り氷」を使いたいって店、ありますもんね。

石塚

都心で「よく、こんな店構えで続いてるな」っていう、八百屋さんとか魚屋さん見たことないですか?

安田

あります!広尾の高級商店街の魚屋さん。

石塚

番町麹町にもあります。「こんなボロい魚屋」って思うけど、ずっと続いてる。

安田
そうなんですよ。品揃えとかも、大したことなさそうなんですけど。
石塚

そういうお店って、お刺身にして届けるのがほとんどなんですよ。

安田

そんなんで売上あがるんですか?

石塚

これがあるんですよ。地域にお魚屋さんそこしかないし、刺身なんか届けてくれると高齢のお客さんは喜びますから。

安田

じつはウチのマンション、1階に大きなスーパーがあるんですけど。

石塚

はい。

安田

にも関わらず、すぐ横に小さい肉屋がありまして。

石塚

安田さん、好きそうですね。そういう店。

安田

買っちゃうんですよね。そこで。

石塚

結構、流行ってるんじゃないですか?

安田

行列ができる、というほどではないんですけど。でも、やっぱり肉にこだわりある人はスーパーじゃなくてそこの肉買うんですよ。

石塚

でしょうね。

安田

スーパーは24時間営業なんですけど、そこは11時からで夕方5時にはピシャッと閉めちゃう。木曜日も最近休みになっちゃって。

石塚

でもそこで買うんでしょ?

安田

そうなんですよ。わざわざその時間に合わせて、買い物に行きます。

石塚

これ、どの業種でも当てはまりますよ。たとえば、いろんな神社用品を作ってる仕事とか。

安田

そんな仕事があるんですか?

石塚

あるんですよ。で、「申し訳ないけど、息子が継がないから、やめるわ」なんて言ったら大変なことになる。

安田

誰もいなくなっちゃいますもんね。

石塚

こっちは、神社をやめるわけにはいかない。で、どんどんエリアが広がって行って「そのエリアの神社にぜんぶ納品します」みたいなところに集中する。

安田

なるほど。で、儲かると。

石塚

儲かるし、こっちの都合も言えるんですよ。休みとか、配達時間とか。

安田

私の知り合いに「玄翁鍛冶(げんのうかじ)」の職人さんがいるんですけど。

石塚

玄翁鍛冶?

安田

ノミを叩く専門のかなずち。その頭の部分を作ってるんですけど、納品まで三年待ちらしいです。

石塚

そうなってきますよね。

安田

はい。待ってでも買いたいらしいです。仕事は絶対なくならないって言ってました。

石塚

むしろ増えるでしょうね、これから。

安田

昔からある仕事でも、立派なブルーオーシャンになりますね。

石塚

レッドオーシャンを耐え忍ぶと、だんだんブルーに変わり、最後は真っ青なブルーオーシャンになる。

安田

でも本当になくなっちゃう場合って、ないんですか?

石塚

いや、必ず残るんですよ。たとえばお風呂入るときの洗面器あるでしょ?

安田

はい。

石塚

あれ昔はぜんぶ木だったんですけど。プラスチックに代替した瞬間にマーケットが消えた。

安田

消えましたか。

石塚

いや、消えたように見えた。でも高級旅館の温泉って、木桶でしょ?

安田

たしかに。プラスチックじゃちょっと嫌ですよね。

石塚

そうすると、なくならないんですよ。

安田

なるほど。

石塚

毛筆だってそうでしょ?銀座の鳩居堂っていつもお客いるじゃないですか。

安田

行ったことないですけど。

石塚

いますいます。鳩居堂、人気ですよ。万年筆とかもそうですけど、それが好きな人って絶対にいるんですよ。

安田

だから、なくならないと?

石塚

なくならない。練炭もそう、毛筆もそう、木桶もそう。

安田

じゃあ、シュリンク市場にいるときは、変に何かやって体力を減らすより、生き延びる体力を温存したほうがいい?

石塚

そうです。続けるだけでいいんですよ。ただ、そこで大事なのは「人が切れないこと」ですよ。

安田

なるほど。人が切れたら終わりですもんね。

石塚

なのに、後継者をつくる算段をやってない。

安田

途中で諦めちゃうんでしょうね。

石塚

もったいないです。とにかく残りさえすれば、ぜんぶ取れるんですから。

安田

じゃあ、あえてそこを狙って転職するのもありですか?

石塚

大ありですね。

安田

ゼロイチで会社つくるよりいいですか?

石塚

だって、ブランドある、商号ある、信用ある、お客ある、っていう。

安田

確かに。

石塚

若いときは、お金もそんなに必要じゃないし。「よし、ここで10年頑張ろう」と耐えて跡を継ぐ。

安田

そこを耐え凌げば?

石塚

残存者利益を独り占めできます。


石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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