7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
前回は 第41回「3社目理論の真実」
第42回「生き残ればひとり勝ち」
私、仕事柄いろんな業界の相談を受けるんですけど。
はい。
「いい加減、見切りをつけて、新しいことをやろうと思ってます」という相談。
多いでしょうね。あらゆる業界のマーケットが、今シュリンクしてますから。
で、私は「既存のビジネスモデルに変化を加えよう」ってアドバイスするんですよ。
安田さん得意ですもんね。ちょっと、ひねったりするアイデア。
私はひねくれているので、ひねるのが好きなんです。
(笑)
でも石塚さんは、意外と「最後まで残ったものが独り勝ちする」って、おっしゃいますよね?
はい。「生き残れば、ひとり勝ち理論」と言います。
そういうケースを見たことがあるんですか?
これ、いくつも事例あるんですけど。
ほう。
たとえば業務用金物屋さんって、昔は何軒もあったんです。
はい。金物屋さんは、近所にもありましたね。
でも今は、人手不足だとか、後継者がいないとかって、どんどんなくなって。
「金物屋では食っていけなくなった」ってことですよね。
それがですね、儲かってたりするんですよ。
それはどういう理由で?
だって、どこにもないわけですから。ガテン系の職人さんはみんな、遠くても不便でもそこに買いに行くしかない。
なるほど。シュリンクしてるけど、ゼロになったら困ると。
困る人がいて、残った店に集中する。たとえば練炭なんて、もう使わないじゃないですか?
練炭?使いませんね。
でも、練炭使う焼肉屋とかには、ご飯食べに行きますよね?
確かに!行きますね。
ガスとか、IHとかで、練炭ってものすごくマーケットが減ったんですけど。
でもゼロではないと。
絶対、使うところがあるじゃないですか?で、最後に残ったところが、それを供給する。
なるほど。
これを「残存者利益」って言うんですけど。
でも市場がシュリンクしてる途中で、値段たたき合ったりしますよね?
はい。しますね。
それで利益が出なくなるんじゃないですか?
けど、そこを耐え忍べば、値段上げることも可能になる。
そこしか買える場所がないから?
おっしゃるとおり。
なるほど。言われてみれば、氷屋さんとかもそうですよね?
同じですね。マーケットは小さいけど、必ず残ります。
どうしても「かち割り氷」を使いたいって店、ありますもんね。
都心で「よく、こんな店構えで続いてるな」っていう、八百屋さんとか魚屋さん見たことないですか?
あります!広尾の高級商店街の魚屋さん。
番町麹町にもあります。「こんなボロい魚屋」って思うけど、ずっと続いてる。
そういうお店って、お刺身にして届けるのがほとんどなんですよ。
そんなんで売上あがるんですか?
これがあるんですよ。地域にお魚屋さんそこしかないし、刺身なんか届けてくれると高齢のお客さんは喜びますから。
じつはウチのマンション、1階に大きなスーパーがあるんですけど。
はい。
にも関わらず、すぐ横に小さい肉屋がありまして。
安田さん、好きそうですね。そういう店。
買っちゃうんですよね。そこで。
結構、流行ってるんじゃないですか?
行列ができる、というほどではないんですけど。でも、やっぱり肉にこだわりある人はスーパーじゃなくてそこの肉買うんですよ。
でしょうね。
スーパーは24時間営業なんですけど、そこは11時からで夕方5時にはピシャッと閉めちゃう。木曜日も最近休みになっちゃって。
でもそこで買うんでしょ?
そうなんですよ。わざわざその時間に合わせて、買い物に行きます。
これ、どの業種でも当てはまりますよ。たとえば、いろんな神社用品を作ってる仕事とか。
そんな仕事があるんですか?
あるんですよ。で、「申し訳ないけど、息子が継がないから、やめるわ」なんて言ったら大変なことになる。
誰もいなくなっちゃいますもんね。
こっちは、神社をやめるわけにはいかない。で、どんどんエリアが広がって行って「そのエリアの神社にぜんぶ納品します」みたいなところに集中する。
なるほど。で、儲かると。
儲かるし、こっちの都合も言えるんですよ。休みとか、配達時間とか。
私の知り合いに「玄翁鍛冶(げんのうかじ)」の職人さんがいるんですけど。
玄翁鍛冶?
ノミを叩く専門のかなずち。その頭の部分を作ってるんですけど、納品まで三年待ちらしいです。
そうなってきますよね。
はい。待ってでも買いたいらしいです。仕事は絶対なくならないって言ってました。
むしろ増えるでしょうね、これから。
昔からある仕事でも、立派なブルーオーシャンになりますね。
レッドオーシャンを耐え忍ぶと、だんだんブルーに変わり、最後は真っ青なブルーオーシャンになる。
でも本当になくなっちゃう場合って、ないんですか?
いや、必ず残るんですよ。たとえばお風呂入るときの洗面器あるでしょ?
はい。
あれ昔はぜんぶ木だったんですけど。プラスチックに代替した瞬間にマーケットが消えた。
消えましたか。
いや、消えたように見えた。でも高級旅館の温泉って、木桶でしょ?
たしかに。プラスチックじゃちょっと嫌ですよね。
そうすると、なくならないんですよ。
なるほど。
毛筆だってそうでしょ?銀座の鳩居堂っていつもお客いるじゃないですか。
行ったことないですけど。
いますいます。鳩居堂、人気ですよ。万年筆とかもそうですけど、それが好きな人って絶対にいるんですよ。
だから、なくならないと?
なくならない。練炭もそう、毛筆もそう、木桶もそう。
じゃあ、シュリンク市場にいるときは、変に何かやって体力を減らすより、生き延びる体力を温存したほうがいい?
そうです。続けるだけでいいんですよ。ただ、そこで大事なのは「人が切れないこと」ですよ。
なるほど。人が切れたら終わりですもんね。
なのに、後継者をつくる算段をやってない。
途中で諦めちゃうんでしょうね。
もったいないです。とにかく残りさえすれば、ぜんぶ取れるんですから。
じゃあ、あえてそこを狙って転職するのもありですか?
大ありですね。
ゼロイチで会社つくるよりいいですか?
だって、ブランドある、商号ある、信用ある、お客ある、っていう。
確かに。
若いときは、お金もそんなに必要じゃないし。「よし、ここで10年頑張ろう」と耐えて跡を継ぐ。
そこを耐え凌げば?
残存者利益を独り占めできます。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。