変と不変の取説 第81回「内から変えにくい国」

「変化だ、変化だ、変化が大事だ」とみなさんおっしゃいますが、会社も商品も人生も、「変えなくてはならないもの」があるのと同様、「変わらないもの」「変えてはならないもの」もあるのです。ではその境目は一体どこにあるのか。境目研究家の安田が泉先生にあれやこれや聞いていきます。

 第81回「内から変えにくい国」

前回、第80回は「リスクヘッジができない理由

安田

日本の社会システムって、これまでに何度かリセットされてますよね。

はい。明治維新とか。

安田

太平洋戦争の後もリセットされました。

そうですね。

安田

どちらも外圧。外圧がないと日本って変わらないんでしょうか。

大きな変化は外圧が多いです。

安田

それはどうしてですか?

日本って基本的に平和国家なので。だんだん“ゆでガエル”状態になっていくんですよ。

安田

ゆでガエル?

はい。外から熱いお湯をビャッとかけてあげないと飛び出さない。

安田

基本的には平穏無事がいいってことですか?

そうですね。

安田

明治維新は「自分たちの意思で政権を倒した」という見方もできますよ。

中の人が外圧を利用したのと、外の人も内圧を利用した。明治維新はお互い利用し合ったケースですね。

安田

なるほど。

それがうまくパコンとはまった。

安田

外圧なしで変わったケースもあるんですか?

聖徳太子は自ら新しい法律をつくって変えました。

安田

中国の影響ではなく?

中国の制度を参考にはしてるでしょうけど。「自分たちで法治国家をつくるんだ」という気持ちでやった。

安田

日本人にも自発的なリセットは可能だと。

やろうと思えばできるんでしょうね。いちばん最初の元号も“大化の改新”ですから。

安田

今や外圧がないと変わらないイメージですけど。日産もシャープも外資に買われてようやく変わった感じだし。

残念ながらそうですね。

安田

外圧か内圧かで、その後の成長に違いが出そう。

出ると思います。

安田

もう内圧では変わらないんでしょうか。日本は。

もともと日本の内圧って「話し合い」なんですよ。

安田

話し合いですか。百姓一揆のイメージが強いですけど。

「打ち壊すぞ」「一揆するぞ」という雰囲気を醸し出しておいて、上のお代官様とか殿様も「ちゃんと話さなあかんな」ということで、話し合う。

安田

なるほど。平和な民族ですね。

だから日本は「市民革命」っていうのが1回も起こらなかった。

安田

そうなんですか。

上杉鷹山じゃないですけど、ちゃんと現場の話を聞けるリーダーが「徳を持ってやっていく」という社会。

安田

明治維新は市民革命ではない?

違いますね。明治維新の後に市民革命を輸入しただけ。

安田

へえ。でも一揆はやっぱり市民革命のイメージです。

いや、違います。一揆はただのデモです。

安田

デモ?

はい。政権は取ってないので。

安田

政権は何度も入れ替わってますけど。

あれは市民革命ではないです。豪族どうしの戦いです。

安田

なるほど。権力者どうしの戦い。

そうです。

安田

企業の場合はどうですか?日本の大企業って、なかなか内側からは変わりにくいと言われてます。

今はそうですね。昔は気骨のある労働組合長のおっさんとか、管理部門の親分みたいなのがいたんですけど。

安田

昔はそんな人がいたんですね。

「ちょっと俺、社長に言うたるわ」みたいな強面がいたんですけど。そういう人はもういない。私の知る限りほぼ駆逐された。

安田

じゃあ今後は、外圧がない限り日本企業は変わらない。

そうですね。だから、みなさん口をそろえて「外部の経営陣に入ってきてほしい」って言います。

安田

他力本願ですか。

自分たちがガチンコで経営陣とやり合う気は毛頭ない。そういうパワーもない。早く外部からゴーンさんみたいな人に来てほしい。

安田

社員は外圧を望んでると。

そうですね。外圧を望んでる。「マッカーサー来てください」と同じレベルで。まあ大手企業はだいたいそんな感じです。

安田

日産ではゴーンさんがああいう状態になっちゃいましたけど。

なっちゃいましたね(笑)

安田

今はもう経営危機を脱したので「ルノーは口出すな」って言ってます。

社員はそんなこと言ってないです。

安田

じゃあ上層部だけ?

そうです。社員はそもそも興味をもってない。「言われたことやっとくわ」「余計なことせんとこ」っていう。

安田

やっぱり市民革命って、白人社会の文化なんですかね。

そうですね。個人主義というか。自分たちで権利を獲得するというのがベースにある。キリスト教はそういう考え方なので。

安田

日本は「和をもって尊し」ですもんね。

それが日本人の根底にある価値観です。

安田

だからこそ「長く続いてきた」ってこともあるわけですよね。

うまくバランスを取れるリーダーがいたら長く続く。それが天皇だったと思うんです。

安田

革命が起きないのは必ずしも悪いことではないと。

平和な社会だったらそれでもうまくいきます。

安田

なるほど。

だけど、危機のときはまずいですよ。

安田

今回のようなコロナ危機とか。

そうです。

安田

結果的に死者の数は抑えられてますけど。

一部の人たちが人海戦術でドリャーって頑張った結果ですね。もう完全にキャパを超えてる気がします。

安田

やはりこういう非常事態には強烈なリーダーシップが必要ですね。

はい。ただ経営者もそうですけどズバッと舵を切れる人が少ない。外堀が埋まってから決めるサラリーマンばっかり。

安田

みんなが反対する方向に舵をきるのが、リーダーなんですけどね。

そのとおり。

安田

そういうリーダは海外から連れてくるしかないと。

今の仕組みではそういうリーダーは出てこない。教育のやり方を根幹から見直すしかないです。


場活師/泉一也と、境目研究家/安田佳生
変人同士の対談


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第1回:「変わるもの・変わらないもの」
長い間、時間をかけて構築された、感覚や価値観について問い直します。

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