さよなら採用ビジネス 第112回「二段目ロケットがある会社・ない会社」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第111回『変化できる経営者とは』

 第112回「二段目ロケットがある会社・ない会社」 


安田

大田区民ニュースのコラムを読ませていただきました。

石塚

一粒万倍(いちりゅうまんばい)ですか?

安田

はい。これからの企業は「勝負球を変えなきゃいけない」って話。非常に面白かったです。

石塚

ありがとうございます。

安田

ちょっと詳しくお聞きしてもいいですか?

石塚

はい。どうぞ。

安田

剛速球を投げてた人が、球のスピードが落ちてきたら「コントロール重視に変えなきゃいけないよ」って話ですよね。

石塚

「もう若くない」「勝負球を変えなきゃいけない」という自覚が大事という話。

安田

野球だと分かりやすいんですけど。これをビジネスに置き換えると、そう簡単じゃないだろうと思いまして。

石塚

おっしゃるとおり。コラムではロケットで例えてるんですけど、安田さん自身も経験されてるじゃないですか。新卒採用コンサルで初速ブワーって打ち上がったでしょ?

安田

はい。ブワーッと上がって落ちてきました(笑)

石塚

安田さんの場合は、時代とも噛み合ったから。ダーって加速していくじゃないですか。あっという間に成層圏突入。だけど、一段ロケットっていつか切れるわけですよ。

安田

見事に切れましたね。

石塚

そうすると、それを切り離して、二段目のロケットに着火して、さらに行かなきゃいけない。けど、これはやった人じゃないとわからない難しさ。

安田

難しいですよ。私もチャレンジしましたけど。

石塚

実感こもってますよね。

安田

ピッチャーだったら個人技じゃないですか。だから勝てる投げ方に変えるってのは自分次第なんですけど。

石塚

当時は200人以上社員がいたんですよね。

安田

はい。しかも採用ビジネスだけをやって20年。中にいる人材は当然採用のスペシャリストなわけで、他のことはやったことないわけですよ。

石塚

そうなりますよね。

安田

「新卒採用の会社」というブランドもできあがっていたし。お客さんも当然うちに採用を期待するわけです。

石塚

分かります。

安田

ここでまったく違う事業立ち上げて「二段目に点火する」なんて、ほぼ不可能じゃないかなって気がします。

石塚

実際にそれをやって成功してる会社もあります。

安田

たとえば富士フイルムが化粧品業界に行きましたけど。あれも全員が生き残れたわけじゃないと思いますよ。

石塚

富士フイルムはもともと「富士写真フイルム」だったんですよ。社名が。

安田

そうなんですか。

石塚

「写真」を切って「富士フイルム」って会社に社名変更をした。そのときから「脱写真だ。フィルム事業じゃないものをつくれ」ってことを意識して、いろんなことをやって今に至ってるわけです。一撃必殺なんてあり得ないから。

安田

もう「フイルム」も取っちゃったほうがいいんじゃないですか。「富士」でいいんじゃないですか(笑)

石塚

それって、ある意味、いまの富士フイルムにとってのほめ言葉じゃないですか。

安田

そうとも言えますね。

石塚

あそこって他にもまだ“決め球”があるんですよ。

安田

大成功した例としてよく出てきますけど。私の実感では「新しいビジネス」が運よく立ち上がったとしても、そこに全員を引き連れていくのは無理ですね。

石塚

へえ。

安田

富士フイルムも会社としては、たしかにうまく次のロケットに点火できたと思います。でもいままで写真やフィルムに携わってきた社員が乗り換えれるの?って思う。全員が乗り換えるのは無理。

石塚

基本的には「隣地戦略」と言われるもので、「メイン事業の周辺領域に必ずビジネスのネタがあるはずだ」っていう考え方なんですよ。

安田

隣地戦略ですか。

石塚

たとえば「フィルムをつくる要素を全部バラしてみよう」となったときに、「ナノ技術があります」と。「じゃあ、ナノと何を組み合わせればネタになるんだい?」って、たぶん10も20も考えて、いろんなことをやったと思うんですよ。

安田

単なる二段ロケットではないと。

石塚

オリックスっていう会社の歴史を学ぶと、この隣地戦略の連続なんですよ。オリックスって、まあ、なんにも自分でつくらないのに、なんでも売る会社なんですよ。

安田

何でも売るというか、単なる金融屋さんにしか見えないですけど、私には。

石塚

オリックスの歴史ってまさに隣地戦略の歴史で。もともとリースをやってたけど、リースから少しずつ接しているところ、会計ソフトを買収したり、次には会計事務所を買収しようとしたり。その時は会計業界に震撼が走りました。

安田

へぇ~。

石塚

他にも、たとえば保険とか、ノンバンクとか、要するに「リースプラスこれもこれも……」っていうふうに、隣地を広げていった歴史なんですよ。

安田

「オリックスにだけは金を借りるな」って言われましたけど(笑)

石塚

主事業をプラットフォームとして見たときに、関連するもので何がネタになるのか。そこからどう事業化していくか。それを常に考えてる会社です。

安田

よくわかります。私もそういう仕事をやってますので。主事業をちょっとズラすことによって「まったく新しい価値をつくる」という。

石塚

そうですよね。安田さんのいわば得意分野じゃないですか。

安田

そうなんですけど。新しい事業をつくり出すときの「最も大きな弊害」って、やっぱり「ついてこれない社員がいる」ってことなんですよ。

石塚

おっしゃるとおりですね。

安田

今までの事業に固執する人もいますし。そっちでは評価されてたけど、新しい事業じゃ評価されないって人もいて。勝負球を変えるときには「人の入れ替え」が必須になる。

石塚

それは避けられないです。

安田

そこは覚悟しないといけないってことですか?

石塚

はい。だからM&Aで買うんですよ、会社を。

安田

なるほど。

石塚

自分で生み出すのは大変だから。会社を買えば人もついてくるし。だけど、自社で生み出していったところも数多くあるわけです。どうやるかっていうのは経営判断だと思う。

安田

どんなに「伸び続けている会社」であっても、必ず勝負球を変えなきゃいけないときが来るってことですね。

石塚

おっしゃるとおり。単体の事業でずっと続いてる会社って、逆に僕は知らないです。

安田

時価総額の世界トップ50社に日本企業は1社しか入ってません。30年前には30社以上も入ってたのに。

石塚

おっしゃるとおり。それは本業に執着し続けた結果ですよね。

安田

アメリカなんて、まったく違う会社が出てきてますもんね。

石塚

はい。

安田

タイミング的にはどうなんですか。まだ剛速球を投げれてるうちにやるべきなんですか?

石塚

そうですね。貸会議室のTKPなんかは創業のときからそういう発想でやってます。「貸会議室だけでは絶対生き残れないぞ」と。「貸会議室を空間として、空間をどう利用するか」っていうことを河野社長は1期目から考えてたらしいです。

安田

社長が最初からそこを見据えてる会社はすばらしいと思います。

石塚

いま安田さんが図らずも変わって、関連事業の中から次の新しい儲けの種を見つけて事業化する仕事されてるじゃないですか。

安田

はい。

石塚

当時、安田さんみたいな人が安田さんを手伝ってたら、話は違ったのかもしれないです。

安田

言われてみればそうですね。

石塚

経営者ひとりでは絶対に無理なんですよ。外部の優秀なブレーンやリソースを早め早めに活用するところがカギだと思う。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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