「企業改革?大学改革?」さよなら採用ビジネス 第129回

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第128回「面白いビジネスが死ぬとき」

 第129回「企業改革?大学改革?」 


安田

トヨタが技術系の大学推薦を全廃するらしいです。

石塚

当然の流れですよ。

安田

記事によると「推薦を受ける学部に偏らない、幅広い理系が欲しい」という理由だそうです。

石塚

機械工学を中心に「内燃機関を動かして操作をする自動車をつくる技術者はもういいよ」ってメッセージだと僕は受け取ってます。

安田

それ以外の学部からも推薦を受けりゃいいだけの話じゃないんですか?

石塚

トヨタとしたら今までのしがらみなく、世界中から優秀な人を集めたい。だから「フリーという形にしたい」ってことじゃないでしょうか。

安田

推薦があるから「必ず採用するわけじゃない」ってことですか?

石塚

要するに学校推薦廃止で自由競争にしようってことです。

安田

でもメリットがあるから大学推薦にしてたわけでしょ。トヨタともなれば優秀な学生を回してもらえそうだし。

石塚

豊田章男さんが欲しいのはイーロン・マスクみたいな人ですよ。

安田

イーロン・マスク?

石塚

いままでの延長ではなく「コイツは何を言い出すかわからない」っていう人材。そういうメッセージだと思う。

安田

推薦に頼る時点で「型にはまっちゃってる」ってことですか?

石塚

おっしゃるとおり。トヨタには東大・京大を頂点としたピラミッドができてるんですよ。「どこに配属して何をやらせる」という大学とのひも付け。

安田

え!入社前から決まってるってことですか。

石塚

そう。たとえば日大理工学部なら「君はエンジン内部のオイル受け皿の設計をやりなさい」とか。

安田

学生もそれをわかって入社するんですか。

石塚

それでもトヨタでやれることの喜びがあるから入る。

安田

へぇ~。

石塚

「車の最先端の開発はここまで」「その次はここ」「車両設計はここ」「パーツの設計はここ」みたいな感じでヒエラルキーができてるんです。

安田

じゃあ事業部の先輩はぜんぶ大学の先輩?

石塚

おっしゃるとおりです。

安田

すごいですね。

石塚

「東大工学部の安田研究室?」「あぁ~。じゃあそこに配属ね」みたいな。そういうものができてるわけですよ。

安田

そこまでつながってる組織を断絶させるって、ものすごいリスクじゃないですか?

石塚

もう車自体がリスクですから。たとえばイギリスは2030年以降、ガソリン・ディーゼル車の販売を禁止する法律ができましたし。東京都も同じ意向です。

安田

世界はそういう流れですよね。

石塚

いよいよガソリンやディーゼルエンジンではなく、電気自動車に変わっていく。

安田

だから組織も変えなくちゃいけないと。

石塚

車でさえこれからどうなるかわからない中で、予定調和で人を送ってもらっても意味がないってことです。

安田

なるほど。

石塚

「次のイノベーションを起こすのは、こういう人じゃないんだよなあ」っていう思いが間違いなくトップにはある。

安田

東大・京大ぐらいは推薦枠を残しておいてもいい気がするんですけど。

石塚

「世界中からいちばん優秀な人をとりたい」っていうのがトヨタの意向だと思う。だから全てのしがらみをなくして自由にやる。

安田

ということは、「一切推薦してくれなくても文句は言いません」ってことですよね。

石塚

そう思います。

安田

人手が足りなくはならないんですか?

石塚

もちろん必要なのはイノベーションをやる人ばかりじゃない。トヨタもそこはわかってると思う。

安田

それでも推薦を全廃したいと。

石塚

はい。「トヨタの知名度があればこれぐらい集まる」っていう読みもあると思う。

安田

まあそうですよね。

石塚

「まったく新しいイノベーションを起こせるような人を採りたい」っていうのがひとつ。もうひとつは「自由にエントリーさせたって、それなりの人は来る」っていう自信。

安田

これからは海外人材も積極採用しますか?

石塚

むしろそっちが欲しいんじゃないですか。

安田

「いままでとは毛色の違う人をとっていくぞ」ってことですね。

石塚

そのとおりです。

安田

トヨタがやると追随する会社も出てきますか?

石塚

当然そうなりますよね。

安田

じゃあ大学には相当な危機感がある?

石塚

おっしゃるとおり。指定校の終焉とまでは言わないけど、指定校制度への風穴は開くでしょうね。

安田

へぇ~。

石塚

たとえば「東京海上日動には、何々大学じゃないと入れない」っていう、見えないシーリングがあるのはみんな知ってるわけです。

安田

そうなんですか!

石塚

電通だって、たとえば東洋大学出身なのに電通に入れたとしたら「ああ、お父さんがあそこの社長だからコネ枠ね」って、みんな分かってるわけですよ。

安田

へえ〜。

石塚

日本を代表するような有名企業というのは、出身大学によってエントリー制限があるのはみんな知ってる。

安田

私は知りませんでした(笑)じゃあ入社後も「慶應じゃなきゃ出世できない」みたいなウワサは本当なんですか?

石塚

だから三井物産は商社の中でも業績が悪いわけです。

安田

へえ〜。

石塚

似たような育ちの、似たような頭の、似たような人間をとれば、その中から「ずば抜けてすごい人」なんて出てこない。

安田

でもそのやり方で「世界に冠たる日本企業」をつくってきたわけでしょ。

石塚

これまではそれでよかった。もう無理ってことです。とくにトヨタはグローバルで戦ってるので感じたんじゃないですか。

安田

何を感じたんでしょうね。

石塚

日本の人材の乏しさ。新しいものをゼロイチで生み出すことができる人間の少なさ。

安田

なるほど。

石塚

それをつくづく痛感してるから「もういいよね。ウチは降りるから。研究所ひも付けはもう終わりにしよう」っていう。

安田

推薦がなくなることによって大学も変化しますか?

石塚

変わると思う。「何々研究室でどれぐらいの成績を取って、教授の推薦をもらえればトヨタに入れる」っていう方程式が崩れるから。

安田

学生が教授の言うことを聞かなくなると。

石塚

おっしゃるとおり。

安田

教授も大変な時代ですね。

石塚

もっと大変なのはスポンサーが降りることですよ。

安田

スポンサー?

石塚

研究室にも支援してたけど「これを機に淘汰するよ」ってことなので。これは企業改革だけど、同時に大学改革にもなるかもってことです。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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