第200回「世界一厳しい消費者」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第199回「派遣が建てる億ション」

 第200回「世界一厳しい消費者」 


安田

「企業物価」って、あまり意識したことがなくて。

石塚

そうですか。普通に発表されている数字ですけど。

安田

つまり企業が物を仕入れる値段ってことですよね。

石塚

そうです。企業が買い手の場合の物価ってことです。

安田

たとえば牛丼だったら、牛肉を仕入れる値段ですか。

石塚

そう。でも材料費が上がっているのに売価には転嫁できない。ここが日本経済の、日本企業の宿痾ともいうべき構造です。

安田

企業物価には人件費も入るんですか?採用費とか給料とか。

石塚

入ります。

安田

給料が安い代わりに物価も安いって、よく言われますよね。

石塚

これまでは。だけどこの先はそうもいかない。

安田

海外から仕入れるとなると、そういうわけにいかないですもんね。

石塚

そうなんですよ。いまウクライナ紛争で想像以上にいろんなものが値上がりしてて。食料から、鉄から、石油から、なにからなにまで。日本は海外依存が強いから。

安田

ですよね。よく「食料自給率を上げろ」って話がありますけど、食料をつくるにしてもエネルギーは不可欠なわけで。

石塚

おっしゃる通り。どう考えても自給自足をやるのは無理なんですよ。

安田

なぜここまで日本は安くなってしまったんですか。

石塚

安易にグローバル展開したからでしょうね。要するに「いちばん安いところで仕入れりゃいいんだ。それがグローバル化だ」って20年もやっちゃったから。

安田

先のことまで考えてなかったんでしょうか。

石塚

まさかこんな戦争が起こるとは予想もしてなかったし。ロシアがこうなっちゃって、みんな慌てふためいていると思いますよ。

安田

ロシアの問題があるにしても、円安って国力の低下が原因でしょ?

石塚

おっしゃる通り。

安田

日本人がずーっと安い給料を我慢している間に、他国の経済はどんどん伸びていって。円の価値が低くなっている分、高く買わざるを得ないという。

石塚

買値が高くなる、仕入れ値が高くなるという問題。そして買いたくても物が入ってこないという問題。このダブルパンチですね。

安田

この先どうなるんですか。企業が値上げして、消費者も高いものを買うしかないってことですか。

石塚

いま続々と値上げの発表をしてるじゃないですか。

安田

してますね。

石塚

「戦争という非常事態だから、値上げもやむを得ない」って空気に、いま日本はなってる。

安田

確かに。今は我慢だって思っている人は多いです。

石塚

だから値上げのチャンスでもあるんですよ。ここで上げられなかったら、もう上げられないから。

安田

ロシアと関係ないものでも上げちゃえってことですか。

石塚

だってこのまま安売りを続けたらどこかで破綻しますよ。

安田

海外に行くと値切り交渉が凄いじゃないですか。中国とかも。

石塚

すごいですよね。

安田

日本人はそこまでしないじゃないですか。それなのに値上げにはうるさいんですか。

石塚

表立って文句を言わないだけ。

安田

表立って文句は言わないけれど、みんな買わないっていう。

石塚

買わない。

安田

なるほど。

石塚

だって牛丼をちょっと値上げしただけで、一斉に客離れするんですよ。たった30円の値上げで。だから怖いんですよ。

安田

離れた客にしたって、どこかの店では食べるわけですよね。

石塚

日本人は外食するのを控えて、家で食べるわけです。

安田

家で食べるにしても、そもそも原料自体も高いじゃないですか。

石塚

そうなっていきますね。だからいま「米粉でいろんなことをしよう」としてます。米は国産率が高いから。

安田

米は値上がりしませんか?

石塚

いや、お米も100%自給できるわけじゃないし。過剰に「欲しい欲しい」となれば、それは当然値上がりするでしょうね。

安田

それでも家でつくるという選択をしますか。

石塚

日本人はそうなりそうな気がします。

安田

へぇ~。

石塚

どこまで給与を上げていけるかって話になるでしょうけど。

安田

値上げしても給料は上げられないですよね。原材料費も上がってるわけで。儲けが増えたわけじゃないし。

石塚

そうなんですよ。給料を増やすのは難しい。

安田

もっと早く値上げしときゃよかったんですよ。

石塚

この10年で社会保険料が何割上がったか知ってますか。

安田

5%ぐらいでしたっけ。

石塚

いやいや。この10年で11%上がってるんですよ。

安田

そんなに上がったんですか!?

石塚

給料の3割は社会保険料で引かれる。日本人の生活はどんどん厳しくなってます。

安田

恐ろしい。

石塚

給料を増やすにも、社会保険料の値上がり以上に上げないと意味がないんです。

安田

ちょっとぐらい給料が増えても手取りは増えないと。

石塚

あんまり言いたくないけどシュリンクするばっかりで。

安田

最終的にはどうなるんでしょう。どこかで底を打って上がっていくのか。このままずっと下がりつづけて貧乏になっていくのか。

石塚

ゆっくり死んでいくような感じがします。

安田

死にはしないんじゃないんですか。贅沢しなければ。

石塚

まあ、なんていうか、ゆっくり後退していく感じ。そして価格に転嫁できない企業は廃業せざるを得ない。

安田

値上げできない企業は廃業ですか。

石塚

街の飲食店なんか当然そうなわけで。ここで勝負して値上げしないと。

安田

牛丼とかハンバーガーは難しいですよね。高いと行かなくなっちゃうし。

石塚

外食業界は「街の飲食店」か「超・大チェーン」の二択になるでしょうね。真ん中はもう存在できない。大手チェーンはバイイングパワーでとにかく安くしないと。

安田

いい店だったら多少高くても行くんじゃないですか。

石塚

余程のお気に入りじゃないと行かないと思う。

安田

行かないんですか。それとも物理的に「行けない」んですか。

石塚

むずかしい質問ですけど。たぶん行かないんだと思う。

安田

そこまで貧乏ではないけど、節約すると。

石塚

「そこまで出して買わないよ」っていう。ここが日本の「世界一厳しい消費者」って言われる所以じゃないかと思う。

安田

味が落ちたら文句言うし。サービスも下がったら文句言うし。店が汚いと文句言うし。だけどちょっとでも値上げしたら行かないし。

石塚

たくさん文句を言ってるうちに「世界一厳しい消費者」になってしまったんですよ。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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