第213回「無事に過ごしたいのは誰?」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第212回「教育と国家の未来像」

 第213回「無事に過ごしたいのは誰?」 


安田

ホンダが「テレワークをやめて原則出社」という方向に行っているみたいで。

石塚

そうですね。

安田

OBの意見は割れているそうです。「時代遅れだ!」というのもあれば「テレワークなんかでやっていけないだろう」みたいなのもあって。どうなんですかね。

石塚

これ、仕事がなにかによって違うと思うんですけど。

安田

ものづくりじゃないんですか。ホンダですから。

石塚

ものづくりの最先端や技術開発は、原則出社して議論したほうがいい。そこは僕、わかるような気がするんですよ。

安田

そうですか。

石塚

それもガチガチの議論ではなく。お茶を飲みながら、なんとなくフラッと来て、「安田さん、こういうのできないだろうかねえ。むずかしいよなあ。でもなあ」みたいな。

安田

そんなのでいいんですか。

石塚

それがいいんですよ。ふと横に佐藤さんが来て「こんな話聞いたぜ」「えっ、おもしろいじゃん」みたいな。そういうシナジーを現場で生んでいく。

安田

そのためには出社が必要だと。

石塚

まさに研究開発の最前線には必要なのかなと思う。けどバックオフィスって、べつにそんなの要らないような気がする。だから事務系はテレワークでもいい。

安田

事務系をテレワークにするとマネジメントが難しいらしくて。マネジメント層が出社させたがるという話です。

石塚

マネジメント層が「出社させたい」と言うのは、それはマネジメント力の欠如を露呈しているようなものだから。

安田

でも、難しいですよ。テレワークでマネジメントするって。

石塚

じゃあ「マネジメントって、一体なにをマネジメントするのか?」って話。ぜんぶ棚卸ししたらいいんじゃないかと思う。

安田

たとえばテレワークでうまく回り出したら、逆に「マネジメント要らないじゃん」となって、仕事がなくなりませんか。

石塚

なくなればなくなったでいいじゃないですか。

安田

会社としてはいいのかもしれませんけど。現場のマネージャーはたまったものじゃないですよ。

石塚

いま世の中が変わっている時代だから。それに対応・適応していかないと。

安田

大手は基本的にテレワークをやめる方向に動いているように見えます。

石塚

まあ大勢はそっちのトレンドを感じますね。

安田

そうですよね。イーロン・マスクさんも「会社に出てこい」って言ってるし。やっぱりテレワークは限界があるのかなあとも思います。

石塚

イーロン・マスクは「新しいものを生み出すためには、ワイワイガヤガヤしながら議論が必要で」という、「イノベーションを生むには」って発想だと思う。

安田

なるほど。

石塚

さっきのホンダの話と一緒で、能力の高い人がちょっと集まって、いろいろシナジーを生み出す。リアルなコミュニケーションをしたほうが生まれやすい。そこは賛成です。

安田

メーカーの開発職は出社が必須だと。

石塚

そう。けど「そんな議論いらないよね」という職種もあるわけですよ。

安田

マネジメントの課題はどうするんですか?

石塚

「人事制度や評価制度を崩壊させるから」みたいな建前は、「いまの時代に進化・適応できない」ということをただ言っているだけ。

安田

たしかにクリエイティブなミーティングはオンラインではやりにくいです。人が集まって、無駄な時間も多少あったほうが、新しいアイデアは生まれやすい。

石塚

でしょ。

安田

だけど「物事を決めていく」となると、逆にオンラインのほうが無駄がなくていいかも。

石塚

そうなんですよ。「今日は議論して決めるぞ」というのであれば、オンラインでいい。

安田

ある程度自立した人はいいと思うんです。けど事務職でも、仕事の指示をもらわないとできない人は出社せざるをえなくないですか?

石塚

絶対に出社しなきゃいけないのは、さっき言った研究開発の最前線にいる人、クリエイティブの最前線にいる人、あとはエッセンシャルワークのみ。

安田

エッセンシャルワーク?それは現場があるから。

石塚

そう。現場があるから。これは現場に行かざるをえない。

安田

そりゃそうですよね。事務職はどうですか?

石塚

事務職なんていらないですよ。出社の必要がゼロとは言わないけど、ほとんど必要ない。

安田

でも事務処理の速さや正確さって人によるじゃないですか。

石塚

人によります。

安田

オフィスにいたら「おまえ遅いぞ」って言えますけど、オンラインでは言いにくいらしくて。仕事が遅くて労働時間が長いと支払いも多くなりますし。

石塚

すべての仕事は締切があるので、「締切までにどれぐらいのことができたのか」というのは、どの仕事でも測れるわけじゃないですか。

安田

計測することは可能でしょうね。

石塚

そこで評価されてしかるべきですよ。

安田

大企業の事務職って、横一線で勤続年数によって給料が上がっていく仕組みですよ。

石塚

そこをシビアに、納品するクオリティやスピードを評価するように変えるべき。

安田

変えたいんですかね。

石塚

経営層は変えたいはずですよ。

安田

のんびりが大手のいいところな気もするんですけど。

石塚

さすがにそれだと変化対応には勝てないから。

安田

厳しい時代ですね。

石塚

「仕事のやり方そのものを変えるべき」というのは、会議をファシリテーションする人ほど痛感してるそうです。

安田

へえ〜。

石塚

マネジメント上位の人ほど、「ああ、結論はこれなんだな」というのがわかってる。あとは経営層が踏み切るか、踏み切らないか。その差なんじゃないかなと思います。

安田

踏み切りたくない理由もあるんですか。「いままでの慣例に基づいて」みたいな、大手っぽい理由なんでしょうか。

石塚

やっぱり「昔ながらの仕事のほうが楽だから」というのがひとつで。2つめは「テレワークなんかにして人事制度が持つのか」ってこと。

安田

評価しにくいってことですか?

石塚

逆ですね。もし仕事の優劣がはっきりしたら、「いまの人事制度の処遇でこぼれちゃうぞ。どうするんだ」っていう。

安田

できない人がこぼれていくのはしょうがない気もしますけど。

石塚

経営者が「ここは自分が悪者になって一掃するぞ。老害や不要な人は全員降りてもらう。そして最後は俺が辞める」と言えるかどうか。

安田

自分も辞めなきゃいけないんですか。

石塚

そういう覚悟を持った人が現れないかぎり、時代に追いついていけないと思う。

安田

なるほど。厳しい選択ですね。

石塚

「老害をどうやって脱却するか」という論点を、大企業はまたしても突き付けられているわけですよ。バブル崩壊でもそう。リーマンショック後もそう。

安田

今回は脱却できますか。

石塚

無理でしょうね(笑)「なにもしないで無事に過ごしたい」というのが、トップにいる人たちの本音だから。

安田

そんな人がトップになれるんですか!?

石塚

そういう人だからトップになれるんですよ。ラディカルな人なんて日本の大手では絶対にトップにはなれません。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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