経営者のための映画講座 第62作『ジャン=リュック・ゴダール』

このコラムについて

経営者諸氏、近頃、映画を観ていますか?なになに、忙しくてそれどころじゃない?おやおや、それはいけませんね。ならば、おひとつ、コラムでも。挑戦と挫折、成功と失敗、希望と絶望、金とSEX、友情と裏切り…。映画のなかでいくたびも描かれ、ビジネスの世界にも通ずるテーマを取り上げてご紹介します。著者は、元経営者で、現在は芸術系専門学校にて映像クラスの講師をつとめる映画人。公開は、毎週木曜日21時。夜のひとときを、読むロードショーでお愉しみください。

ジャン=リュック・ゴダールという作品。

2022年9月13日、スイスでゴダールが亡くなった。91歳。いくつかの病気に侵されていたゴダールはスイスでは合法とされている安楽死を選んだという。

とにもかくにもゴダールが死んだ。ゴダールがいなくなった。ゴダールの新作を目にする機会が失われた。もう91歳なんだし、という感情がまったく出てこない。だって、ゴダールなんだもの。100歳まで映画で遊んでいると思っていた。編集途中に老衰でキーボードに突っ伏してなくなるもんだと思っていた。

でも、最後の最後、意表を突いて、自ら死を選択するなんてゴダールらしい。らしいけれど、やっぱり、「なんでだよ」と思ってしまう。

ゴダールの映画は難解だと言われるし、確かになんのことだかわからない表現もある。けれど、それも含めて笑っていればいい。すべてを解ろうとする、傲慢な観客なんて振り捨てて、ゴダールはずっと映画と遊び続けた。80歳を超えてから発表した『さらば愛の言葉よ』が3D映画として公開された時も、立体で飛び出して見えるオッパイに「何をやってるんだね」と笑ってしまった。映像コラージュ的な作品で、言いたいことを渋いナレーションで語っているゴダールが好きだった。

経営者の皆さん、身も蓋もない私の考えをお伝えすると、これからの経営は、芸術を愛するものにしか勝機がやってこないのではないかと思う。芸術を理解するという話ではなく、世の中のあらゆるものを愛でようとする姿勢がなければ、商売なんて成り立たない。そんな気がしてならない。

利潤を追求するだけのビジネスに魅力を感じている若者は皆無だし、これから先、そんな考えを持っているだけで、ビジネスハラスメントだと言われるような時代が来るかもしれない。

映画表現の可能性を遊びながら広げてきたゴダールのように、私たちは生きれるかどうかの岐路に立っているような気がする。

遺作となった『イメージの本』の中にこんなナレーションが入る。

「ひとつの世紀が次の世紀へと溶けていく時、旧来の“生き抜く術”は新しいものへと作り変えられる。それを我々は芸術と呼んでいる」

芸術もビジネスも、生きるという人生のひとつの紋様なのだ。

著者について

植松 眞人(うえまつ まさと)
兵庫県生まれ。
大阪の映画学校で高林陽一、としおかたかおに師事。
宝塚、京都の撮影所で助監督を数年間。
25歳で広告の世界へ入り、広告制作会社勤務を経て、自ら広告・映像制作会社設立。25年以上に渡って経営に携わる。現在は母校ビジュアルアーツ専門学校で講師。映画監督、CMディレクターなど、多くの映像クリエーターを世に送り出す。
なら国際映画祭・学生部門『NARA-wave』選考委員。

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