さよなら採用ビジネス 第82回「船から降りるベストタイミングはいつ?」

この記事について

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第81回『日本は再び世界の工場になる?』

 第82回「船から降りるベストタイミングはいつ?」 


安田

かの朝日新聞社さんまでもが早期退職やってます。

石塚

退職金はなんと6,000万。伊勢丹よりもさらに多いっていう。

安田

前回は7000万円だったそうですね。

石塚

はい。前回は年齢も40歳以上でした。今回は45歳以上。

安田

なぜ変えたんですかね。

石塚

若手の応募が殺到したらしいです。優秀な若手が一気に辞めて大変なことになったって。

安田

なるほど。で、今回は年齢を引き上げたと。金額が下がったのはなぜですか?年齢と関係があるんですか?

石塚

それは単純にお金がなくなってきたからだと思います。新聞の購読部数もどんどん減ってるので。「押し紙」ってご存じですか?。

安田

いえ、知りません。

石塚

新聞って、公称何万部という部数と実売とに差があるんですよ。

安田

ありそうですね。

石塚

で、その差は何かっていうと、販売店に押し込んでる部数と実際に売れてる部数のギャップなんですよ。朝日はそのギャップ一番激しい。

安田

それを押し紙っていうんですか?販売店さん大変ですね。

石塚

はい。背景にいつもこの「押し紙」の問題があって、朝日は世間的なイメージほど経営が安泰ではない。

安田

なるほど。

石塚

それに朝日新聞って、社員の企業年金がすごく手厚いんですよ。

安田

企業年金ですか。

石塚

はい。でも低金利時代だからいい運用ができない。実は何年も前から朝日の企業年金はかなりマイナスなんです。

安田

どんどんお金が減っていると。

石塚

そうです。だから定年退職して年金を受け取る人をとにかく減らしたい。この2つが大きな要因でリストラをやってるわけです。

安田

手厚かった年金が、逆に社員さんにとっては裏目に出て、リストラされちゃうと。

石塚

もう余裕がないんです。

安田

でも大阪の本社ビルは凄いですよ。

石塚

フェスティバルホールでしょ。

安田

はい。大きな建物が2つ並んでて、ものすごいゴージャス。よっぽど儲かってるんだと思ってました。

石塚

朝日新聞って不動産をたくさん持ってまして。逆にそこしか利益が出ない。

安田

なるほど。そちらが本業だと。

石塚

おっしゃるとおり。ビルがあるからなんとか持ってるんです。

安田

もはや新聞屋じゃなく不動産屋ですね。

石塚

だから朝日は倒産の心配はないんですよ。

安田

資産があるから。

石塚

はい。ただ新聞事業は残念ながら縮小の一択しかないですけど。

安田

まあそうでしょうね。新聞いらないですもん。

石塚

ネットに移行したら今いる社員のほとんどは必要ない。

安田

ちなみに先ほどの「押し紙」って、つまりはマイナスを販売店が負担してるってことですよね?

石塚

そうです。

安田

じゃあ販売店が疲弊してなくなっていくと、最終的には本体が厳しくなる?

石塚

確実にそこに向かってます。

安田

でも新聞社って、ものすごい数の社員を抱えてるでしょ?

石塚

新聞という事業モデルはたくさん人が必要ですから。

安田

そのビジネスモデルが終焉を迎えて、リストラ期に入ったと。

石塚

流れとしてはそのとおりです。

安田

最終的にはメディア業ではなくなるんですか?

石塚

どうするんでしょうね、本当に。

安田

印刷物を出し続ける可能性もありますか?

石塚

印刷部門にものすごい数の人材を抱えてますから。

安田

ですよね。

石塚

だから今、いろんな印刷を引き受けてるわけですよ。自社の新聞を刷るだけじゃなく。

安田

でもそんなのじゃやっていけないですよね。

石塚

無理でしょう。

安田

だからリストラするしかないと。

石塚

待ったなしです。

安田

業界全部がそんな感じなんですか?

石塚

読売はいろんな事業を抱えてるので、結構強いですけど。

安田

じゃあ朝日の優秀な記者が読売に流れる可能性もあると?

石塚

いや、業界内で他紙に行くっていうのはほとんど聞かないです。

安田

じゃあどんな業界に行くんですか?雑誌とかですか。

石塚

いちばん入りたいのは大学でしょうね。

安田

大学ですか。

石塚

はい。大学で教授とか講師とかをやりたい。

安田

なるほど。記者さんだから専門的な知識を持った人が多いってことですね。

石塚

まあ一応は。ただ大学にはそんなに求人需要がない。

安田

じゃあ辞めた人はどうなっちゃうんでしょう。45歳まで新聞の仕事しかやってないわけでしょ?

石塚

おっしゃるとおり 。

安田

まあ、でも優秀なんでしょうね。新聞社に入るぐらいなので。

石塚

優秀“だった”んでしょうね。ただ新聞社って、出世すればするほど現場から遠ざかるんですよ。

安田

なるほど。じゃあ実務能力はかなり落ちてると。

石塚

はい。しかも業界には人がダブついてるんで。関連会社とかイベント会社とか、ぜんぶ人が余ってる。

安田

業界をあげて人が余ってると。

石塚

そう。報道とかジャーナリズムから距離のある人も含めて、今回の希望退職でしょう。

安田

でも、その状況で応募してくるってことは、辞める人はそこそこ自信があるんでしょ?

石塚

うーん、どうでしょう。

安田

「外に出たら食えないよ」って人は、最後までしがみつくんじゃないですか?

石塚

うーん「いまだったらこの金額がもらえるから、これ一択だな」「先のことは後で考えよう」みたいな感じじゃないですか。

安田

このまま居たら、さらに悪くなると。

石塚

実際に退職金も減ってきてるじゃないですか。7,000万が6,000万になって、次はさらに下がりますよ。

安田

なるほど。後になるほど、どんどん減っていくと。

石塚

そう。「いまを逃したら6,000万もらえない」ってなったら動きますよ。

安田

でも残った人たちは不動産業で食べていけるんでしょ?

石塚

無理無理(笑)会社としては不動産があるから倒れることはないけど、人が残りすぎるとさすがに沈む。だから必ずどこかで追い出されますよ。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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