7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第85回「一生働くつもりはありません」
2021年卒の就職人気企業ランキング、見ました?
はい。見ました。
ランキング上位は伊藤忠、JTB、味の素。
相変わらずですね。
でもJTBって、入ったら「給料安いし大変だ」ってずっと言われてるんですけど。その割に20年ぐらい前からずっと人気がある。
理由は2つあって。ひとつはもちろん就業経験がないこと。もうひとつはご家庭が自営業という学生がものすごく減ったこと。
親が会社員ってことですよね?
はい。なので商売とかビジネスがバーチャル化してる。
親が会社員なら現実を肌で感じられると思いますけど。
正直、親も分からないんですよ。何が正解か。
だからとりあえず大手に行くと。
最近よく聞くのは、新卒で入社するときから「リセールバリュー」を意識して就職先を選んでること。
リセールバリュー?
つまり、辞める前提で「どこの“元〇〇〇”がバリューあるのか」を考えてる。
え!入る前から?
そう。中古車市場で値段の下がらない新車を買うのと同じ原理。
なんと!
「そういう意識が高くなってる」というのが、いまの大学生の大きな特徴ですね。
なるほど。じゃあ「元JTB」はブランドバリューがあると。
いや、ないと思います。
ですよね。伊藤忠だったらあるような気もしますけど。
伊藤忠はありますね。
じゃあ、なんでJTBがこんなに人気あるんですか?
たぶんエントリーシートが書きやすいんですよ。「英語得意な人がJTB」とか。分かりやすいじゃないですか。
エントリーシートって書くのが大変みたいですね。
そうなんですよ。だからセールスポイントを書きやすい会社は人気が出る。「リーダーシップに自信があって旅が大好き」とか「有名大学で体育会系」とか。JTBはエントリーシートが書きやすい。
なるほど。昔だったら「添乗員としてタダで旅行にいける」っていうのも、魅力だったんでしょうけど。
今は旅のコストが下がったから。日本でも世界でもグルグル回る学生も増えたし。自分で行ったほうが楽しい。
確かに。
旅行体験が増えたので、「自分ならこんなツアーを考える」っていうアピールがしやすいんでしょうね。
でもやめた時の「元JTB」はあまりウリにはならないと。
「元JTBにいた」っていったら、「ああ、あのJTBね」っていう知名度はあります。だからリセールバリューがゼロとは言わないですけど。
でも学生が考えているほどリセールバリューは高くない。
と思いますね。単に「有名だから」っていう。
その割に仕事はキツイですよね。
はい。店舗によって人間関係が固定されるから、精神疾患を発症しやすい。法人部門の営業なんてかなりハードだし。
その割に給料は安いし。
あと教育旅行。これが非常にストレスフルなんです。
教育旅行?名前を聞いただけでストレスがたまりますね。
心のバランスを崩してる社員がすごく多い仕事です。
ちなみに中途だと、ガラッとランキングが変わるんですか?
はい。あまり「有名大企業に行こう」という傾向は出てこない。
名より実をとる感じですか。
その通り。逆にいうと新卒の人気企業って、いまだに新卒純血主義が濃い。JTBの中途採用なんて見たことないです。
へえ。そうなんですか。
新卒で採れてしまうから。
逆に新卒じゃないと採れないですよね。あんなに安い給料で。
ですね。
まあ当然ですけど「人気企業=いい会社」ってわけじゃないですから。
新卒ランキングって、いわば偏差値の高い・低いみたいなものが大事なんですよ。
偏差値?
有名な会社・入りにくい会社の「内定をとった」というのが、「自分が優秀だ」ということの証明になるので。
なるほど。じゃあ受験の延長みたいなもんですね。
そこは昔から変わらないと思います。
だけど最近は、入社した時点で「辞めること」も視野に入れてるわけでしょ。
僕の感覚でいうと、半分以上は「辞める」ってことを織り込み済みで決めてる。
「一生」という感じでは入ってないと。
「一生」っていうのは公務員だけだと思います。
そうなんですか。じゃあ有名な大手に入る学生も、辞めるのが前提だと。
そうです。
大学でもそういう指導をしてるんですか?
大学はとりあえず大手や有名企業に入ってくれればいいんですよ。
「有名企業に学生を就職させた」ってことが、大学のステータスになるから。
そのとおり。
そこは昔と同じですね。
はい。ただし就職部とかキャリアセンターは、我々の時代とはまったく違う。
どう違うんですか?
どんどん外注し始めてる。
外注?そうなんですか。
はい。有名私大ほどそういう傾向ですね。
もう就職課ってないんですか?
ありますよ。ただ、そこの運営を外注化させ始めてる。
へぇ。それはどうして?
大学の職員って一般企業と比べてリストラがないから。ずっと古いリソースを使い続けるんですよ。それも年齢層の高い50代60代の人が。
それじゃあ、今どきの就職相談には乗れないですね。
無理ですね。だから「外注しよう」っていう話です。
委託してる業者のミッションは「できるだけ大手に就職させる」ってことですか?
はい。それと学生全体の就職率を高くすること。
そういう業務を請け負うベンチャーが出てきてると。
いや、ベンチャーじゃないです。リクルートとか。
え!リクルートがやってるんですか?
はい。それなりに単価が取れるし、そこを押さえておけばデータが全部手に入るから。
個人で出来る、採用支援。
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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。
2件のコメントがあります
歯に衣着せぬ?意見が面白かった。
20年前に来るべき国際化・情報化の社会に向けた将来設計のビジョンを示せなかった大学は淘汰されるべきだった、大学・短大・専門学校に期待する若者が可哀想、と還暦爺は改めて思いました。
小林さん、コメントいただきありがとうございます。
日本にも先端教育校が、大学・短大・専門学校に存在しています。その多くがいわゆるネームバリューが無いため目立ちませんが。
また海外大学も日本に居ながらにして、オンライン教育で学べます。大学数も多いです。
文科省主導ではない、教育システムの変容が実は起こりつつあります。
報道されませんが、日本の高校生の学校選びに静かに「異変」が起きているのです。