第7回 法律を作るのは何のため?

この対談について

国を動かす役人、官僚とは実際のところどんな人たちなのか。どんな仕事をし、どんなやりがいを、どんな辛さを感じるのか。そして、そんな特別な立場を捨て連続起業家となった理由とは?実は長年の安田佳生ファンだったという酒井秀夫さんの頭の中を探ります。

第7回 法律を作るのは何のため?

安田
法律を作るのが政治家の仕事ではあると思うんですけど、「現実的に法律を作ってるのは誰か」っていうと官僚の人が作ってると思うんです。

酒井

そうですね。もちろん政治家主導でできる法律もありますけど、細かい法律とかいっぱい作らないといけないんで、役人が作ってるケースがほとんどですね。

安田

その法律は何のために作ってるのかなって考えるんです。法律が変わる時ってビジネス業界ではもう大チャンスじゃないですか?


酒井
ルールが変わって、その「新しいルール」で「新しい勝者」になろうとマーケットが一斉に動くわけですからね。
安田

それだけマーケットが大きく動く法改正が、何のためにあるのかが非常に疑問なんですよ。どうしても利権絡みに見えてしまう部分もあるんですけど、そんなことないんですか?

酒井

まあ、まずないと思いますね。昭和の時代に役所が持っているツールって 「法律」「予算」「税」「財政投融資」とかいう様々な制度があって、それを使い分けるんですけど、どれが一番難易度が高いかというと……

安田
その中で言うと、法律が一番難易度高そうですね。

酒井
そうですね。国会を通さなきゃいけないので、一番難易度が高いわけです。なので仮にどこかと癒着していたら、そこに有利なように予算を組むのが一番早いんですね。
安田
なるほど。利権だったらわざわざ法律なんか作らずに、予算を取ってくるよと。

酒井
ええ。ただ、利害調整の中で「せっかく法律を作ったんだから利権っぽいことも作ろうよ」って思う人もいるにはいます。でもそれは、法律の要素の中でも最後の5%ぐらいですね。
安田
私が法律を見て思うのは、あまりにも曖昧な書き方が多いなと。あと例えば、今は全然状況が変わってるのに、「昔からの習わしでこうなってます」みたいな法律がものすごく多いんです。

酒井
なるほど。世の中の変化に法律が追いついてないと。
安田

そうですね。これを変えないのは、今までのルールの利権を持っている人に有利になってるんじゃないかって思えてくるわけです。なぜ、こんなにややこしい法律になってるんですか?


酒井
これは非常に難しくて、そして同時に新しい論点でもありますね。「アジャイル開発」といって、状況に合わせて柔軟に変えていくっていうシステム開発の方式があるんですけど、国のルール作りでも同じように「アジャイルガバナンス」という動きがあるんですよ。
安田
へえ。そうなんですね。

酒井

とはいえ、なぜどんどん変えられないかというと、日本の法律体系が根本から変えるのに向いていないものになっている、というのが大きな理由なんです。

安田
なるほど、根本から変えるには体系を変えないといけないと。

酒井
例えば、前にAだったことをBに変えるとなった時に、AとBの何が違うのかを明確に書かなきゃいけないんですね。
安田
その時に「Aの話は全部なしにして、Bが新しいです」とは書けないんですか?

酒井
そうですね。根本から変えてしまうと、Aのもとで動いてた人たちが混乱するのがよくない、っていうのが日本の法改正の基本ですね。
安田
へえ。変えるとこだけちょっとずつ変えていこうみたいな感じなんですね。

酒井
いわゆる「古い温泉旅館のような造り」とか言われてます(笑)。継ぎはぎ継ぎはぎでやっていかないといけなくて、新たに一から作れないってところですね。
安田
なるほど(笑)。既存の法律のもとでやってた人に、一応、忖度してるわけですね。

酒井
そうですね。例えば人材業の規制緩和のようなことって、世の中の一般的な1億人が喜ぶわけです。それに対して、すごく困る人が100万人ぐらいいるんです。
安田
その人たちにとっては大変な改正になるんですね。

酒井
ええ。世論調査で意見を求めると、その100万人の人が一斉に「反対!」って言ってくる。1億人の我々は「別にどうでもいい」って言うので、その100万人の方に忖度せざるを得ないというか。
安田
つまり、日本人の気質に合わせているからこうなってるってことですね。

酒井
そういうところもありますね。経産省という組織の良さでもあり傲慢さでもあるのは、「僕たちは1億人の側に立っているんだ」と言い張ってるところなんです。
安田
ああ、なるほど。我々は名もない1億人の声を上げるためにどうするかということを考えて動いているんだと。

酒井
ただ、その結果どうみんなが嬉しくなるのかってことは、今後のことなのでなかなかしゃべれない。でも困ってる人の声はめっちゃ出てくるわけで、そういう声を聞くとみんな日和るわけです。
安田
それでも日本の将来を考えたら、今の国民にはちょっとネガティブに映るけど、やるべきっていうことがあると思うんですよ。なかなかそっちには思い切ってできないんですか?

酒井
それが民主主義の弱点なんでしょうね。よく財務省が万能で大きな権力があるとか言われてますけど、本当にそうだったら、今や消費税30%ぐらいにできてるはずなんですよ。
安田
1970年代ぐらいから消費税上げたい上げたいって言ってましたね。

酒井
そんなに大きな権限があるんだったら、もっと早く財政再建ができていると思いますよ。財務省といえども、政治家や国民の力を無視した意思決定ができない証拠だと思います。
安田
どうなんですかね。民主党さんがこけてくれたおかげで、消費税上げようが社会保険料上げようが「どうせ自民党が勝つんでしょ」って思ってるんですけど、そんなことないんですか?

酒井

私もそう思ってるんですけど(笑)、でもやっぱり政治家の先生は怖いみたいですね。

安田

ああ、そうなんですか。もうここまで来たらやりたい放題なのかと思ったら、そんなことはないんですね。


酒井
やっぱり皆さん選挙のたびに自分の地位がかかってますから。ちょっとでも不利なことを言って、自分が落ちたら結構大変ですよね。
安田

確かに、自分が落ちたら党が勝とうが何しようが関係なくなっちゃいますもんね。ちなみに政治家は給料をもらいすぎとかよく言われてますけど、どうなんですか?


酒井
政治家って言ってみれば中小企業みたいなもので、売り上げが5~6千万ぐらいで社員もいる。でも2~3年に1回、全然よくわかんないことで会社がなくなるかもしれない、っていう状態なんです。
安田
言われてみれば、確かにそうですね。
酒井

自分の努力でどうしようもないことも結構起こりますし、経営者としては、ちょっとでも逆風を避けるために何でもするっていうのは正しい姿だと思いますね。


対談している二人

酒井 秀夫(さかい ひでお)
元官僚/連続起業家

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経済産業省→ベイン→ITコンサル会社→独立。現在、 株式会社エイチエスパートナーズライズエイト株式会社株式会社FANDEAL(ファンディアル)など複数の会社の代表をしています。地域、ベンチャー、産官学連携、新事業創出等いろいろと楽しそうな話を見つけて絡んでおります。現在の関心はWEB3の概念を使って、地域課題、社会課題解決に取り組むこと。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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