第33回 ケーキ屋さんが1年で1番忙しい時期にホノルルマラソンを走る理由

この対談について

地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。

第33回 ケーキ屋さんが1年で1番忙しい時期にホノルルマラソンを走る理由

安田

スギタさん、ホノルルマラソンに出場されるんですって?


スギタ

そうなんですよ。12月7日から12日まで、ハワイに行ってきます(笑)。

安田

ふ〜む、もちろんなにか深い理由がおありなんですよね? 私だけでなく社員さんたちも「ケーキ屋さんにとって1年で一番忙しい時期になんでまた…」って思っているはずなので(笑)。


スギタ

深い理由…あればいいんですけど…(笑)。そもそものきっかけは、昔書いた「ウィッシュリスト」で。

安田

ウィッシュリストって、自分の夢ややりたいことを書き出すやつでしたっけ?


スギタ

そうですそうです。いろいろ書いていた中で、「ホノルルマラソンとボルドーマラソンに出る」という2つだけをハッキリ覚えていて。開催時期なんかも加味すると、今から準備して参加できるのはホノルルマラソンだな、と思い立ったというわけです。

安田

つまりホノルルやボルドーに旅行したかったわけではなく、マラソンを走りたかったわけですか。とはいえ「さすがに12月は無理だよな」と思わなかったんですか?


スギタ

いやぁ〜、逆に言えば「今しかないな」と思ったというのが正直なところで。というのも、今年8月に『ninon patisserie(ニノン パティスリー)』というお店をオープンさせたじゃないですか。

安田

スギタさんのお店で長く働いていた方の「独立支援」という形で出したお店ですよね?


スギタ

ええ。もともと『ハーベストタイム』の「製造責任者」を13年くらい務めてくれていたスタッフだったんですが、彼女が抜けてからハーベストタイムの製造責任者は「不在」のままなんですよ。

安田

え? そうなんですか。次の製造責任者を指名していないと。


スギタ

そうそう。あえて決めずにいたんですよ。そうしたらスタッフ同士が「これ、どうやったらいいかな」とか「そろそろこれも考え始めないといけないんじゃない?」とか、お互いに相談しながら仕事を進めるようになったんですよね。

安田

ほう。今までマネジメントしてくれた人がいなくなったことで、自分たちで考えて動き始めるようになったんですね。


スギタ

そういうことです。で、その様子を見て少しひらめきまして。

安田

ん? というと?


スギタ

クリスマス時期が近づいてくると製造責任者が先頭に立って「誰がこれをやる」とか「いついつまでにあれを用意する」とかの計画を立てるんですね。だけどそのポジションが不在なら、当然「全体の責任者」である僕がやらなくてはいけないかなと思ってはいたんです。でも主体的に動いてくれている彼らを見ていたら「これはもしかしたら…」って。

安田

「スギタさんも不在」という状況になれば「もう自分たちが頑張るしかない!」って気持ちで働いてくれるんじゃないかと思ったと?


スギタ

そうそう!(笑) それで「ちょっとやってみたいな〜」と思っちゃって。とはいえ根拠なくこんなことをしているわけではないんです。実は『スギタベーカリー』では、すでにこの方法でうまく回っていまして。

安田

あ、パン屋さんも責任者不在なんですか?


スギタ

はい(笑)。6年ほど前にそれまで長く店長を務めていたスタッフが抜けまして。その時にあえて次の店長を立てることはしなかったんですよ。というのも、店長っていろんな責任を負うじゃないですか。それこそ火元責任、清掃責任、顧客対応などなど。

安田

確かに確かに。大変な仕事ですよね。


スギタ

そうなんですよ。だったらスタッフ全員で店長業務を「分担しながら」やってみるのはどうだろう、と。そうしたらそれが思いの外うまくいって。なにかトラブルがあっても、各スタッフが率先して対応してくれるようになったんです。

安田

へぇ〜すごい。なんだか「新しいカタチの組織」って感じがしますね。


スギタ

やっぱり「店長」や「製造責任者」を置くと、それ以外の人が「これ以上は自分の仕事じゃないよね」ってラインを引いてしまいがちなんですよね。でもそういう「上の立場」の存在がいなければ、「自分たちでなんとかするしかない」って考えるようになる。

安田

なるほどなるほど。実際「製造責任者不在」になって数ヶ月が経つ『ハーベストタイム』もうまく回っている?


スギタ

ええ。僕が見ている限りはすごくいい感じですね。そういうことも含め、総合的に判断したら「今年なら12月に僕が抜けても大丈夫かもしれない」と思えたので、ホノルルマラソンに出場することを決めたわけです。

安田

ははぁ…「社員を成長させたい」というスギタさんの「親心」もあったというわけですね! ところでスギタさんはこれまでにもフルマラソンは走ったことあるんですよね?


スギタ

いえ、全く。…あ、数年前に友達に誘われて5kmマラソンは走ったことあります(笑)。たった5kmで死ぬかと思いましたけど(笑)。

安田

…そんな状態でよくフルマラソンを走ろうと決断しましたね(笑)。


スギタ

ホノルルマラソンに出ようと決めたのが9月だったので、本番まで3ヶ月真面目に練習すればイケるでしょ〜と思ったんですよ(笑)。ただ…今、両膝を絶賛故障中でして(笑)。

安田

えぇ?! じゃあ練習は?


スギタ

しばらく走っちゃダメって言われました(笑)。病院でステロイドの太い注射を打たれて、テーピングでガチガチに固定されてます(笑)。

安田

なんと…(笑)。ちなみにこれまでの練習で、一番長く走れた距離はどれくらいです?


スギタ

15kmです。

安田

…フルマラソンの半分もいってないじゃないですか(笑)。


スギタ

…ですね(笑)。ただ15kmを走った時は「これだったら余裕だぞ」って思ったんですよ。ところがフルマラソンを走った人に聞くと、最後の10kmくらいが死にそうになるらしくて…。

安田

そうですよ。フルマラソン走った後、みんな1週間くらい足引きずって歩いてるじゃないですか(笑)。


スギタ

やっぱりそうですよね〜。いやぁ〜42.195kmは全然想像つかなくて。僕、本当に走れるのかな?(笑)

安田

しかもそんなボロボロの状態で繁忙期のお店に復帰されても、社員さんにはなかなか迷惑な話かもしれないですよ(笑)。


スギタ

確かに…。帰ってきてからはしっかり戦力にならないといけないのに(笑)。

安田

まぁ、きっと社員さんたちも「帰国後のスギタさんはアテにならない」という前提で、クリスマス商戦の計画を立ててくれると思いますよ(笑)。


対談している二人

スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役

1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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