第55回 15,000円の寿司に込められた「説得力」

この対談について

地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。

第55回 15,000円の寿司に込められた「説得力」

安田

世の中には「高くて美味しいもの」ってたくさんありますよね。高いものが必ずしも美味しいとは限らないですが、逆に美味しいものはある程度高い、という感覚があって。


スギタ

僕も近い感覚を持っています。例えば本当に美味しいお寿司を食べようと思ったら、1人前5,000円じゃ無理だろうなと。もちろん安くてある程度美味しいものも全然ありますけど、飛び抜けて美味しいものを食べたいなら、ある程度の値段は必要ですよね。

安田

そうそう。もちろん価格帯だけで比較したら、全体的にお寿司よりパンの方が安い、みたいなことはある。でもお寿司の中で、パンの中でと考えると、「安くて美味しい」が成立するには限界があるなと。


スギタ

仰るとおりだと思いますよ。美味しいものにはそれだけコストがかかるので。

安田

そうそう。でもね、「安くて美味しい」に飛びつく人って世の中にものすごく多いじゃないですか。「3,000円でマグロがお腹いっぱい食べられますよ」なんて聞いたらすぐ行っちゃうみたいな。ビジネスの感覚で考えるとあり得ないことだってわかると思うんですけど。


スギタ

確かに。まぁ、入口商材として出しているならわかりますけどね。他でもっと稼ぐ仕組みがあるなら。

安田

もちろん集客のためと割り切って出すならそれはアリです。でも、バカ正直に「安くて美味しい」ものばかり出していたら、ビジネスとして成り立つはずがない。私からするとそれが当然なんですが、世の中の皆さんさんはそう考えないんですかね。


スギタ

まぁでも、やっぱりだいぶ単価は上がってきてますよ。例えば今ショートケーキって単価がもう600円を超えてきてるんですね。東京だともっと高いくらいで。でもそれはいい材料を使って、職人がきちんと作っていたら当然の値段なんです。

安田

それなりにこだわって手作りで作ったら、そりゃそのくらいの値段になりますよね。それより安くしてしまったら儲けがない。でもそれを消費者側がわかってない気がしちゃうんですよ。「本当に美味しいものを安く提供すべきだ」と言われても、そんなの無理なわけで。


スギタ

自分が買う側になると皆さんちょっとワガママになっちゃうんですよ(笑)。かく言う僕も最近久しぶりにすき家に行ったら、並盛りが500円近くすることに驚きましたから。「お肉が減ってるのに高くなってる!」なんて(笑)。

安田

笑。まぁ私も高いものばかり食べたいというわけではないですし、安いものの中にも美味しいものはありますしね。ただまぁ、経営者の一人として、だいたいの相場感は知っておきたいなと。


スギタ

ああ、よくわかります。相場感ってすごく大切ですよね。

安田

ええ。例えばお寿司屋さんでも「この立地でこのネタならこの値段」というのがわかると、一食15,000円でも高いと思わない。むしろリーズナブルだと感じて満足度が上がることもあるわけで。


スギタ

わかります。その値段の「説得力」みたいなものを、目や舌などの五感でしっかり実感できた時は、格別の喜びがありますよね。

安田

そうですよね。ちなみにスギタさんが「美味しいお寿司を食べよう」と思ったら、いくらぐらいの予算で考えるんですか?

スギタ

僕はお酒も結構好きなので、2万円は超えますね。

安田

ああ、やっぱりそのくらいですよね。3〜4万円となるとさすがに「高いな」と思いますけど、2万円くらいで満足できたらいい店だな、となりますもんね。


スギタ

そうそう。だから5,000円とかってなると、逆に心配になっちゃうというか。何か足りないんじゃないかと思ってしまいます(笑)。

 


対談している二人

スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役

1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

Twitter  Facebook

1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

感想・著者への質問はこちらから