第29回 親が遺すべきは「資産」ではなく「教育」

この対談について

株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。

第29回 親が遺すべきは「資産」ではなく「教育」

安田
今日は「相続」についてお話していこうかなと。

鈴木
いいですね。ちょうど先ほども「相続不動産テラス」で一緒に仕事をしている行政書士の方と、相続税について話していたところです(笑)。
安田
タイムリーですね(笑)。相続税って「高すぎる」という人もいれば「もっと高くするべきだ」という人もいますよね。鈴木さんはどう思われますか?

鈴木
うーん、どうかなぁ。そもそも「相続するもの」があるかどうかで、大きく意見が分かれそうですけれど。
安田
確かにそうですね。でも「相続するもの」といっても、土地や家屋だけじゃないと思うんです。たとえば二世議員の「選挙区」も相続だと言えるんじゃないかと。

鈴木
ああ、親の地盤を相続している、と。
安田
そうです。親は確かに頑張ったのかもしれないけれど、それを相続する子どもは努力をしなくとも「富」が約束されている。こんな状態は不公平じゃないでしょうか。

鈴木
確かに、生まれた瞬間から受け継ぐことが決まっているとなると、不公平かもしれません。まるでインドのカースト制度ですね。とは言え、子どもは親を選べませんから。
安田
まさにそこなんです。親を選べないからこそ、国民を平等に扱うためには、相続税を100%にしないといけないのではないか。私はそう思ってるんです。

鈴木
100%!? それはなかなか大胆な主張ですね(笑)。
安田
自分が蓄えた富は、自分の代で終わり。死んだらすべて国に戻すんです。

鈴木
なるほど…。まあ今の日本の相続税の仕組みでも、三世代経つ間に全部なくなってしまう、なんて言われていますけどね。
安田
そういえば昔、近所の家が代替わりするたびに小さくなっていくのを不思議に思っていました(笑)。あれはきっと、相続税のせいで家を縮小せざるを得なかったんですね。

鈴木
確かに、相続には土地の売買がつきものですね。相続税を払えないから土地を売ると。そう考えると、相続税って土地を手放してもらうための仕組みだとも言えますね。
安田
ああ、なるほど。特定の人が土地を独り占めするのを防いで、ある種強制的に別の人へと循環させている。

鈴木
ええ、そう思います。
安田
一方で、先祖代々引き継いできた土地を売ることに抵抗感のある方もいますよね。そういう場合は、売らない限りは相続税は低くしてもいいと思うんです。

鈴木
ああ、なるほど。相続したものをそのまま保持するだけなら税金は低くする、でも売って現金や利益を得るなら、満額支払ってもらう、と。確かにそういう仕組みなら、かなり平等になる気もしますね。
安田
ちなみに、相続税100%になったら鈴木さんはどうします? 「子どもや孫には何ひとつ金目の物を遺せません」と言われたら、全部自分で使い切りますか(笑)。

鈴木
いや〜どうだろうなぁ…。「せっかく蓄えてきたんだから、使わないと損だ!」という考えにはならないかな。というか、そういう思考にはなりたくないです(笑)。安田さんはどうですか?
安田
もしも自分の子孫に物質的なものを何も遺せないとなったら、私はたぶん徹底的に「教育」にお金をかけると思います。

鈴木
ほぉ、なるほど。子どもや孫が自力で稼げるよう、知識や経験という形で遺すと。
安田
ええ。それが子どもにとっても世の中にとっても一番いいと思うんです。どうでしょう。いずれ相続税100%になるような気がしてきませんか?(笑)

鈴木
安田さんの想いは伝わりますが、政治家がそうはさせないんじゃないかな(笑)。
安田
笑。共産主義社会はどうなんでしょうね。個人で土地などを所有することはできないじゃないですか。それで平等な社会が実現できているんでしょうか。

鈴木
いや、たとえば中国を見ても、そうはなっていませんよね。投資目的で海外の土地やマンションを買ったり、海外で金目の物を爆買いしたり、ということが当たり前に起こっている。
安田
ですよね。つまり共産主義社会でも「全員が平等」というのは無理なわけですよ。だからやはり相続税100%にして、すべての富を「次の世代」に遺せばいい。そちらの方が平等な社会になるんじゃないでしょうか。

鈴木
なるほどなぁ。次世代の人たち全員を「自分の子ども」と捉える。そういう感覚ですか?
安田
仰る通りです。抜け道も裏技もなく、全国民が相続税100%という社会。そうなれば、国民全員が「次世代にどんな教育を遺すべきか?」を真剣に考えるんじゃないかな。

鈴木
一理ありますね。とはいえ、やっぱり僕としては、自分の子どもに遺してやりたいという感情が強いかな(笑)。
安田
ええ、もちろんわかります(笑)。現実的にはやっぱり、かわいい我が子に遺したいものですよね(笑)。

 


対談している二人

鈴木 哲馬(すずき てつま)
株式会社濃飛葬祭 代表取締役

株式会社濃飛葬祭(本社:岐阜県美濃加茂市)代表取締役。昭和58年創業。現在は7つの自社式場を運営。

安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 

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