さよなら採用ビジネス 第66回「やりすぎない経営」

この記事について

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第65回『誰が資本を持つべきなのか』

 第66回「やりすぎない経営」 


安田

「大手は外資化する」「合併する」って、何回もこの対談でやってるんですけど。

石塚

そういう方向でしょうね。たぶん各分野で2社か3社じゃないですか。生き残れるのは。

安田

でも日本企業の場合は1社の問題じゃなくて、系列の子会社・関連会社ってものすごい数ありますよ。

石塚

おっしゃる通り。

安田

親会社や関連会社から100パーセント仕事をもらってる下請けって、今後どうなっていくんですか。

石塚

独自路線に舵を切るしかないですね。

安田

たとえばトヨタの仕事だけを受けてたのが、いろんな会社の仕事を受け入れるようになるってことですか。

石塚

デンソーとかアイシンって、まさにそういう歴史ですよね。

安田

そうなんですか?

石塚

はい。「べつにトヨタからもらわなくてもいいよ。世界中から注文来るから」って。

安田

すごいですね。

石塚

圧倒的な技術力がそこにあることが条件ですけど。「おたくの部品じゃないとだめなんです」「おたくの技術じゃないとだめなんです」っていう。

安田

でもそういう企業は、ほとんど大手資本の傘下って気がするんですけど。

石塚

いや必ずしもそうじゃないですね。

安田

そうなんですか。

石塚

もちろん友好関係を保つために、お互いが少し株を持ってたりはしますけど。でも必ずしも傘下じゃなくて、株式を公開してない中堅企業もあります。

安田

ちょっと前にエアバッグのタカタが、アメリカで事故を起こして訴訟になりましたよね。

石塚

はい。

安田

すごい技術を持ってたと思うんですけど。独立資本では結局立て直せなかった。あれって大手系列だったとしても同じですか?

石塚

1995年にミノルタが自動焦点レンズに関しての特許で、アメリカの裁判で負けて、確か二千数百億の賠償金払ってるはずなんですよ。

安田

すごい金額ですね。中堅どころだったら潰れてますよね。

石塚

当時はアメリカと日本で特許権の法体系が違ってたし、そもそもアメリカでの法廷闘争に関してあまりにも無知だった。

安田

甘く見ていたと。

石塚

はい。製造物責任法が脚光を浴びた時なんですけど。あれも日本封じ込めプログラムの1つ。

安田

そうなんですか!

石塚

「日本メーカーの競争力をそいでやれ」ってことで、徹底的に訴訟をぶつけられて負けた歴史があるんですよ。

安田

じゃあタカタも同じような感じですか。

石塚

いや、日本はそこで学んだので、相当パテントとか特許に関しては防衛策をしたはずなんですよ。

安田

それでも負けたと。

石塚

たぶん「事故が起こるような欠陥があった」というその一点で突破されて、いいようにやられてしまったということなんでしょうね。

安田

じゃあタカタにも問題があったと。

石塚

タカタレベルであれば相当な法的対策はしたでしょうし、アメリカの特許とか技術に詳しい弁護士を当然顧問してるはず。それだけ深刻な欠陥だったということでしょうね。

安田

でもエアバッグ自体は、どこかがつくり続けるわけじゃないですか。

石塚

おっしゃるとおり。

安田

タカタが賠償金を払えなくなって身売りするのか、技術を売るのか。結局はどこかの資本が事業を引き継いでいくことになりますよね。

石塚

なるでしょうね。

安田

「御社の部品じゃなきゃだめなんです」って言われるぐらいの技術力があっても、結局はタカタみたい外資に食われちゃうんじゃないですか。

石塚

小さくとも技術力があれば対抗はできます。いいように植民地支配されて、まったく自由がなくなるってことはないと思いますよ。

安田

そうでしょうか。なんか外資って怖いですけど。なんでもありな感じで。

石塚

かつてのような「下請け」対「元請け」みたいなイメージはもう古いですよ。もっと友好的で前向きなアライアンスもたくさんありますから。

安田

そうですかね。元請けのほうが圧倒的に儲かってるイメージですけど。

石塚

もちろん儲かるような構造にはなってますけどね。

安田
ですよね。
石塚

でも現場レベルで求人やってると、元請けは下請け孫請けをすごく大切にしますよ。

安田

それは人手不足だから?

石塚

そうです。楽天が携帯電話事業を延期するじゃないですか。あれも結局人手不足なんですよ、原因は。

安田

そうなんですか?

石塚

「無線基地局をつくれませんでした」って。あれ結局、受けてくれる会社がないんですよ。

安田

いくらなんでも、ないってことはないでしょ。

石塚

大きな設備工事会社が受けたとしても、実際に人を動かして現場をやる会社がないんですよ。小さなアンテナ工事なので粗利が低いからやりたがらない。

安田

なるほど。

石塚

結局、人を集められなかった。だから遅々として進まず、とうとう延期してしまったというのが真相のようですね。

安田

ということは、現場の人間を抱えている会社が、この先主導権を握っていくってことですか。

石塚

そういうことです。

安田

でも日本企業ってなんか駆け引きが弱そうなんですよね。あっという間に世界で足元すくわれて、いいところだけ持っていかれそう。

石塚

まあ確かに、右手で握手しながら左手でボディーブローを入れ合うような関係って、日本人は苦手ですよね。

安田

そういう「したたかさ」では中国やアメリカの会社に勝てないですよ。

石塚

堅実にいけばいいんじゃないですか。0対100じゃなく49対51みたいな関係で。勝ったのか負けたのかよくわからないようなところで、たゆまざる技術革新をしていく。

安田

地味ですね。

石塚

地味でもそういう立ち位置をつくって、暴利をむさぼることもせず、適正利益でキチっとやっていけばいいんですよ。

安田

日本人はそういう真面目な企業体質が合ってるんですかね。

石塚

規模を追わずに身の丈に合った売上を維持すれば、お客さんだって選べるし。

安田

確かに。

石塚

で、その余力を研究開発に回していけば独自の価値が生み出せる。そういうのが得意だと思いますよ。日本人は。

安田

そういう真面目な企業風土みたいなのは、まだまだ日本企業に残ってますか?

石塚

中堅・中小企業には、そういう良い会社がいっぱいありますよ。

安田

これから守っていくべきは大手じゃなく、中堅と優良中小ってことですかね。

石塚

べつにマッキンゼーの言うことなんて取り合わなくてもいいんですよ。「ぜんぜん競争するつもりもないよ」と。

安田

欲張らず、拡大しすぎず、儲けすぎず、みたいな。

石塚

そうです。3億売り上げて1億近い粗利とか。

安田

そういう会社がいっぱいできるといいですよね。

石塚

10億目指すから挫折をしていくわけじゃないですか。

安田

1,000億いっちゃうから世界に狙われちゃうと。

石塚

その通りです。


石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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