この対談について
株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。
第38回 安売りの波に乗らないのはサービスに自信があるから
第38回 安売りの波に乗らないのはサービスに自信があるから
『のうひ葬祭』さんは、岐阜の美濃加茂市にありますよね。鈴木さんは、この場所で葬儀の仕事をやり続けるなかで、どんなことを大切にされているのでしょうか。
やはり「長く続けていくこと」ですかね。葬儀の仕事って、パッと儲けてパッと次にいくわけにはいかないし、儲からないから会社を畳みます、ということもしづらい商売なんです。
ということは、鈴木さんが60歳で社長を引退した後も、美濃加茂市にのうひ葬祭はずっと存在し続けなければならない、と。
はい。ウチは息子が跡を継ぐことになっているので、まだしばらくは美濃加茂市でやっていけそうです。
それは地元の方もホッとしていると思います。葬儀会社って、都会だと選択肢は多いですが、地方都市にはそれほどたくさんないじゃないですか。そういう意味で文字通りの「地域密着型企業」ですよね。
そうですね。実際リピート率も高いです。「ずっとお宅に頼んでいるから、今回も頼むよ」みたいな。
やはりそうですか。きっとのうひ葬祭さんと地元の方々との間に、長く続く信頼関係があるんでしょう。
ありがたいことですよね。とはいえ最近は我々の業界でもM&Aが頻繁にありますし、ネットではびっくりするような低価格の葬儀も目にします。
様々な企業が参画して、価格破壊のようなことも起こっているわけですか。
ええ。もちろんお客様からしたら、選択肢が増えるのは良いことでもあるんです。ご葬儀の内容より値段で選ぶという方も一定数おられますから。
実際昔のように大規模な葬儀をする人は少なくなりましたよね。コロナ禍も影響してか、家族だけで小ぢんまりやることも増えたとか。
そうなんですよ。正直な話、葬儀って「効率」を求めようと思えばいくらでもできるんです。結果「12万円の葬儀」なんて商品が出てきている。
ほぉ、なかなか破格ですね。
ですよね(笑)。ただ、そこに対抗してウチもどんどん安くしていくぞ、とはしたくないわけですよ。
ああ、なるほど。安い値段に対抗して値下げをしていると、その瞬間はいいかもしれませんが、長期的にみれば続かないと思います。
結局のところ自分の首を絞めることになってしまいますよね。
まったくその通りですね。ちなみにその12万円のプランって、どんな葬儀なんですか。
御遺体を病院から直接会社の霊安室にお運びし、しばらくお預かりすると。で、火葬が許可された数日後に、霊安室から火葬場へと御遺体をお運びする、という内容だそうです。
ということは、お通夜やお葬式もなければ、お通夜の「寝ずの番」もしないということですか?
はい、御遺族が故人とご対面できるのは火葬する直前だそうです。
それなら確かに金額は抑えられそうですね。場所代も人件費もほとんどかからないわけだから。
ええ。でも僕らはそういうことは絶対できない。心情的に「そんなの、ありえないでしょ」と思ってしまうんですよね。
つまり、のうひ葬祭さんとしては、たとえニーズがあったとしてもそれはやっちゃいけない、という判断なんですね。
仰る通りです。僕らとしては「寄り添う」というワードをすごく大事にしていて。たとえ効率が悪かろうとも、御遺族にしっかりと寄り添う姿勢、それは今後も変わらず守っていきたいところです。
逆に言うと「効率だけを求めて、とにかく安くやりたい」という人たちは、のうひ葬祭さんのお客さんではない、と。
ええ、そういう人たちに来てもらっても困りますね。「後悔のないよう、故人と最期のお別れをする時間をゆっくり取りたい」という方向けの葬儀をしています。そこだけに客層のターゲットを絞っていると言ってもいいかもしれません。
ターゲットが明確なんですね。実際100人いて100人全員に受け入れてもらう必要はないわけで。遺族にしっかりと寄り添ってくれて、手厚いサービスをしてもらいたい。そう考える人だけをお客さんにしていけばいいと。
そういうことです。ですから、「価格を安くするためにサービスの質を落とす」ということは今後も絶対しないです。
となると、ご葬儀の場所や道具、サービスをする人材が絶対に必要になりますよね。
はい。運営コストも採用コストもかかります(笑)。
採用後の教育にも時間がかかりますね。昨日採用した人を、今日からすぐに現場に出すことなんてできないでしょうし。
まさに仰る通りです(笑)。大変なんですが、でもそこは「子どもを育てる」みたいな感覚ですね。人を育てることで、育てているほうも成長していけると思っているので。
素晴らしいですね。ということはつまり、のうひ葬祭さんは「故人を手厚く送り出すお手伝いを、最高レベルのスタッフが担います。だからそのサービスの対価として、これくらいはいただきますよ」という方に舵を切られているわけですね。
まさにそうです。それからこの業界はハードの見栄えも重要になるので、今年11月には式場をリニューアルしました。最近値上げをしましたが、それに見合うソフトとハードはご提供できていると思っています。
なるほどなぁ。ちょっと思ったんですが、マーケティングの1つの案として「当社は最安値ではありません! 安さを求めている方はウチに来なくていいですよ!」と言ってしまうのはどうですか(笑)。
笑。業界的にそれを大々的に言うのはちょっと難しいかもしれないですが、考えておきます(笑)。
ぜひご検討ください(笑)。
対談している二人
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。