この対談について
株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。
第42回 経営には「予選型」と「本戦型」がある?
第42回 経営には「予選型」と「本戦型」がある?

鈴木さんはレーサー時代、まず頭の中で設計図みたいなものを作ってからレースに挑んでいたんですか? 「あのカーブはこれくらいのスピードで走ろう」というような。

ええ。ただ、先ほどの話同様、相手がいるわけだから自分の思い通りに走れるわけじゃない。レーサーにはそれぞれ「レコードライン」という、自分が一番早く走れるラインがあるんですが、常にそこを通れるわけじゃないんですよ。

仰るとおりです。ただ、本線の前にある予選ではコースを1人で走るので、そこでは自分のレコードラインを好きなように走れます。予選の順位によって本線のグリッド(スタート位置)が決まるので、予選でどれだけいい成績を残せるかが非常に重要で。

それがそう簡単なものではないんですよ(笑)。というのも、実は追う方がすごく楽なんです。「抜きたい!」というアグレッシブな気持ちがあるから、普段の自分では出せないようなスピードでコーナーを曲がれたりする。逆に追われる側は精神的にもキツいので、ふとしたときにミスってしまったりするわけです。

仰る通りです。考えてみれば、会社経営でも同じなのかもしれませんね。トップシェアの会社は「今後もトップを維持しなければならない」というすごいプレッシャーを感じるはずですよ。そういう意味では、自分の企業が2番手・3番手にいて「どうやって抜いてやろう」と考える方がやりやすくないですか?

そういえば前回、マシンやライン取り、走り方など、様々なものがうまく噛み合ったときに「速く走れる」と仰っていましたよね。それってマーケティングと通じるところがありませんか? 会社や業界にうまく合わせることで大きな利益を出すことができるというか。

仰るとおりだと思います。ただ興味深いことに、現実のレースだと往々にして本線の方でベストラップが出るんですよね(笑)。一人で走れる予選のほうが絶対に走りやすいのに、相手がいることで自分の能力も引き上げられるんです。面白いですよね。

そういうことです(笑)。僕、子どもの頃から「これは絶対勝てないな」と思うフィールドは選ばなかったんです。たとえば小学校の時に野球をやっていたんですが、中学に上がったとき、部活にはすでに精鋭たちがいっぱいいた。
対談している二人
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。