この対談について
株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。
第67回 「自分の最期」を決められる選択肢がある、ということ
第67回 「自分の最期」を決められる選択肢がある、ということ
そうでしたか…。長くご闘病されていた方だったんでしょうか。
がんで3年ほど闘病されていたそうです。でも全身に転移して、ついには脳にも転移してしまって。それで「このままだと自分が自分でいられなくなる。みんなには迷惑をかけたくない」とスイスに行ったと。
うーん、難しい問題ですよね。闘病生活は痛くて辛いし、周りに迷惑をかけているんじゃないかという不安もつきまとうでしょうし。ちなみにその方、スイスまではご家族皆さんで行かれたんですか?
一緒に行ったのは旦那さんだけみたいです。娘さんたちとは日本の空港が最期のお別れの場で。日本でも安楽死が認められていたら、家族みんなに見守られながら亡くなることができたのに…なんて思いましたね。
なるほどなぁ。安楽死ができる国ってまだまだ少ないですもんね。
でも私、「自分で最期を決めたい」という気持ちはよく理解できるんです。だからこそ安楽死という「選択肢」があることは、決して悪いことではないと思っていて。
その選択肢を選ぶかどうかは、個人が決められますからね。
ええ。ちなみに先ほどの記事に「自分もがん治療の経験があるが、とても苦しかった。もしまた再発したら次は治療をする気はない、と家族に伝えた」というコメントがついていました。要は、延命治療を受けるかどうかも「選択」なわけですよ。
野生動物にとって怪我や病気は、ほとんど死と同義ですよね。でも人間はお互いをサポートすることで、極論、自分で呼吸できない人までも生かすことができる。だからこそ「どこまで生かしてほしいのか」を決めておく必要もあるんでしょうね。
仰るとおりだと思います。だから私としては「生きる権利」と同じように「死ぬ権利」も個々人に与えられるべきだと思うんですよね。
僕も、「自分の最期は本人が決める」というのは尊重したいですね。安楽死が良いか悪いかは一旦横に置くとしても、とにかく「選択肢」はあるべきだと思います。
そうですよね。最終的にその選択肢を選ぶかどうかは、個人の自由ですから。
ちょっと話がずれてしまうかもしれませんけれど、「赤ちゃんポスト」ってあるじゃないですか。熊本の病院で、自分では育てられないという赤ちゃんを匿名で受け入れてくれる制度。
あぁ、設置当初から賛否両論ありましたよね。そんなものがあるから、簡単に子どもを捨てるような人が出てくるんだって。
そうそう。でも一方で、赤ちゃんポストに預けられたからこそ生き延びることができた赤ちゃんもたくさんいる。そう考えると、これも「選択肢があること」の重要性を示していると思います。
なるほどなるほど。じゃあやっぱり「自分の死に方を自分で決める権利」も必要ですね。
ただ安楽死に関しては、当事者は「自分の意思で選ぶ」ことができますけど、家族や親しい人の気持ちを考えると…。
ははぁ…。本人は「この苦しみから解放されたい」と安楽死を選べるけれど、家族には「どんな状態でもいいから生きていて欲しい」という気持ちがあるかもしれない、と?
ええ。だからこそ、そこは前もって家族で話し合わないといけないなと思いますね。突然「私、安楽死するから」なんて言われても、「はい、そうですか」とはなりませんから。
なるほどなぁ。確かに安楽死も延命治療も、残された家族の気持ちにも配慮する必要がありそうですね。場合によっては、遺族に大きな後悔を残してしまうこともありそうです。
そうですね。今、ウチの会社では毎月2回、相続や遺品整理などのセミナーをやっているんです。だから余計に思いますが、「自分がどういう最期を迎えたいか」は、元気なうちにしっかりと家族に伝えておくべきだなと。
なるほどなぁ。時間をかけて丁寧に家族と向き合うことが、自分の理想的な最期にもつながるということですね。いやぁ、今日はなんだか感慨深い話になりました。
対談している二人
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。