泉一也の『日本人の取扱説明書』第18回「教育好きな国」

二宮キンちゃんは、ただの学習好きの少年にすぎず、ただ仕事がつらいので忘れようと本を読んだにすぎない。仕事中に好きな音楽を聞いているのと変わらないのである。ウォークマン(ふるっ!)を聞いて薪を運ぶキンちゃんをわざわざ銅像にしたようなものだ。

荻生徂徠(1666-1728)という江戸中期の学者であり教育者は、それに気づいた。当時、儒教は朱子学というなんとも恐れ多い立派な学問となり、それを日本人は学んでいた。高尚な聖人君子になるべく学習をするというものである。そんな朱子学は本来の学問ではないとソライちゃんは気づき、徂徠学を始めた。学ぶことを面白がらせることを本来の目的に、いろんな手段を考えて、学校を運営したのだ。

本来、日本人は文字がない(あっても読めない・書けない)ときは口伝で教えた。それは道徳的な戒律などではなく、物語である。日本には4万以上の民話と神話がある。異常な多さである。そこに多くの学びを乗せて、口伝したのだ。その物語は、エンターテイメントである。だから民話と神話を使ったアニメに漫画に絵本にCMにグッズにゆるキャラに数多くあるのだ。口伝された子供達は、想像力を働かせ、もっと面白物語を考えただろう。ここに日本の教育の原点がある。

国語の授業ですることは、昔話を読み聞かせ、そこから絵を書く人、舞台を作る人、歌にする人、その物語の番外編を創作したり、現代バージョンに加工する人、それぞれの生徒の欲求が解放されやすい環境を作り、手伝ったらいい。なんとも、教育は楽な仕事である。私も場活では最初のきっかけだけを作って「ホーチング(放置ング)」をし、その時間はぼーっとしたり、思いつきをメモしたりと、楽をさせてもらっている。

教育と学習に溢れた会社を作りたいのであれば、こういう人間本来の原点に帰った欲求を解放する場を作ればいい。教育人事部門に人を笑わせることもできないような真面目な人材をおいて、お堅い学習カリキュラムやプログラムを作らせることなど無駄の骨頂であるというより、日本人として恥ずかしいのである。

 

著者情報

泉 一也

(株)場活堂 代表取締役。

1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。

「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。

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