泉一也の『日本人の取扱説明書』第38回「學問の国」

さて、今企業の研修を生業にしているが、その研修の目的は立身出世させてほしいという人事の願いと、立身出世したい(いい評価をもらってラクして給料がほしい)という受講者の欲求に答える依頼ばかりである。時には、学び成長したいという純粋欲求を開放させてくださいという依頼もあるが、1年に1度ぐらいである。立身出世とかいうアホみたいな依頼には答えずに、本来の純粋動機を開放させてみるのだが、顧客からは切られるのとは反対にリピートばかりである。お客様のニーズに答えろと先輩たちに教えられたが、そんなものは教育の業界では嘘っぱちである。

なぜ私は顧客から切られないのか。それは學問とは、人を自由にすることだからと知っているからである。人は学ぶことで自由を得る種であり、その種の目的に合致しているからである。顧客のニーズよりも種のニーズにこたえているわけだ。立身出世は人が本来持つ目的ではないので、心が踊らない。前にも書いた「お祭り」が、何十世代にもわたって続いているのは、お祭りが人間種としての目的に合致しているからである。

學問の「學」の字は、天から与えられる智慧を子に与えるという意味がある。天から与えられた人間種としての役目を全うするには、学ぶことを自由に開放することである。その開放のお手伝いをするのが、先生であり教育界の天命なのである。そういう意味では、先生が一番自由人のはずである。が、縛られまくっている学校の先生たちを見ると、何ともやるせなくなる。その監獄から彼らを解き放ちたい。どうしたらできるのか、引き続き学んでみるとしよう。

著者情報

泉 一也

(株)場活堂 代表取締役。

1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。

「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。

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